『京言葉で耳かきされちゃう小説』

赤眼鏡の小説家先生

『耳かきどうどすー?』

「よう、おこしやす」


「今回はこないな夜更けに、耳かき小説を読みに来てくれはって、ほんま、おおきに〜」


「今日は金曜日やろ?」


「ふふふっ、月曜日から毎日しんどいやろ〜と思うてな〜」


「せやからうちが、耳かきしたるさかい♪」


「ふふふっ、緊張してはるん?」


「えぇんやよ〜、ここでは、日頃の疲れは忘れて、は〜んなりとしてくれはったら、うちも嬉しおす」


「ふふふっ、それじゃあ早速……」


「ほな、ねきよって〜?」


「…………どないしたん?」


「あぁ、ねきよって〜言うんはな、『そばに来て』って意味どす〜」


「ほな、はよう、はよう〜」


「あっ、座布団の上に頭を乗せはるんと、うちの膝枕…………どっちがえぇ?」


「うちとしては、あんさんとの距離が近うなる、膝枕の方がえぇんやけど……」


「ふふふっ、膝枕にしてくれはります?」


「ほんま、おおきに〜」


「ほな、頭をうちの膝に……ご案内どす〜」


「…………もうちょい、上の方が…………うん、ちょうどえぇの〜」


「目を閉じて、りらーっくすしてや〜…………って」


「目を閉じてしもうたら、この小説を読めのうなってまうな」


「うちとした事がうっかりさんしてもうたなぁ」


「ちゃんと、うちの事見といてや?」


「目をそらしたらあきまへんえ?」


「なんや、そんなに見つめて……」


「あ〜っ、さては、うちにほの字やなぁ〜?」


「………………えっ、ほの字なんて、最近は使わへん?」


「そ、そないなことあらへん! うっとこやと、みんなうちはあんさんにほの字やって、よう言われ…………って、何言わせるん!?」


「………………」


「………………こほんっ、ほな、気を取り直して」


「最初は右耳からやっていこう思いやす」


「あ、うちな、マイ耳かきさん持ってるんよ〜」


「これどす〜」


「今日はこの耳かきさんをつこうて、あんさんのお耳を綺麗にしていくさかい」


「ほな、始めよう思いやす」


「先ずは、こやって、耳のふちから綺麗にしていくんよ〜」


「せやないと、耳垢を奥に押し込んでしまう事がありやす」


「あんさんも、ご自分で耳かきをしはる時には、耳のふちからせんとあかんよ〜」


「ふふふっ、また1つ賢うなってしもうたなぁ〜」


「次は奥の方を綺麗にしていきやす」


「こっちもな、あんま奥まではやる必要はないんよ〜」


「耳垢が溜まるんは手前の方やさかい、せやから浅い所をサッサとしてあげるだけで、実は充分どす〜」


「またまた、賢うなってしもうたな〜」


「ほな、次は反対どす〜」


「うん、えぇんよ〜、ごろーんって」


「ふふふっ、なんや、こしょばいの〜」


「ちゃちゃ入れたら、あきまへんっ」


「あんまり、悪戯ばっかしはると、やいとするで〜?」


「あっ、やいとって言うんはな、お灸を据える…………と、いう意味どす〜」


「またまた賢うなってしもうたな〜」


「ほな、また耳のふちから綺麗にしていくさかい、じっとしといてな〜」


「あっ、そういえばこないだなぁ」


「あの、どんつきのお店あるやろ〜」


「あこで、美味しいおぶを買うてな〜」


「こないな、あっこい日は合わんかもしれへんけど」


「この後、ご馳走したるさかい、楽しみにしといてや〜」


「ふふふっ、無駄話をしとったらいつの間にか綺麗になっとる」


「うちもお喋りさんどす〜」


「ほな、また中を綺麗にしとう思いやす」


「よいしょっと…………奥まで入れるで〜?」


「…………痛くあらへん?」


「ほんま?」


「ふふふっ、あっ…………ここ、気持ちいいんやろ?」


「せやろ〜?」


「うちは耳かき探偵やさかい、なんでも分かってまうんよ」


「なんてな♪」


「そんにしても、今日はほんにあっこいの〜」


「お天道さんもあないに高うあがりはって、疲れへんのやろか〜?」


「うちがお天道さんやったら、すぐにしんどうなってしまうやろなぁ〜」


「せやけど……」


「耳かきは楽しゅうてなぁ」


「こやって、耳かきをしとると時間も忘れてしまいやす」


「ふふふっ、ほな、綺麗になったで〜」


「なぁ……」


「あんさんさえ、良ければなんやけど……」


「また、うちに耳かきさせてくれへん?」


「…………ほんまっ?」


「ほんまに、ほんまっ?」


「ふふふっ、おおきに♪」

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『京言葉で耳かきされちゃう小説』 赤眼鏡の小説家先生 @ero_shosetukasensei

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