アカリ、気付く 1
「__では、後はお願いします。……ふぅ……」
後ろで束ねた長い髪を揺らしながら、アカリがパークガイドと何かを話をしている。
ガイドが立ち去った後、彼女は人気の少ない細い通路で一人額の汗を拭う。
ふと、首にかけているフリーパスに目を向ける。
突然の警報の後、彼女は自らガイドとしての仕事に励んだ結果、一人の男と一人のフレンズと離れ離れになってしまった。
「……ここもいない」
あれから避難誘導も落ち着き、細かい処理は当日勤務の職員やガイド達に任せる事になって余裕ができ、避難施設の中を歩き回っていた。
二人とも無事にここへ避難して来ているはずだ。そう信じながら施設のあちこちを探し回るが、それらしい人影すら見当たらない。
誤って関係者以外立ち入り禁止の場所に迷い込んだかもしれないとも考えたが、職員用の通路やスペースに客やフレンズが入り込んだ情報は一切なく、結果として不安だけが膨らむばかりだった。
「……大丈夫かな……」
胸の内を過るそこはかとない心細さを紛らわそうと、誰に言うともなくぽそりと呟き、首にかけたフリーパスを握りしめる。
すると、フリーパスを握る手の内から突如強烈な光が溢れ出す。
「えっ……!?」
思わず手を開き、そこから離れたフリーパスは眩さに目を覆う隙すら与えないまま急速に輝きを強めていく。
そして辺りが完全に真っ白になる頃、それは光による白ではなく、いつのまにか空間そのものが真っ白になっている事に気付く。
「ここ……は……?」
アカリはあまりに唐突な出来事に脳内処理が追いつかず、思考がまとまらないまま辺りをぼんやりと見回す。
試しにふらりと周囲を歩いてみた。
しかし、壁もなければ何かが置かれている訳でもなく、ただ何もない空間ばかりが無限に続く。
目を凝らし、遠くを見渡してみた。
水平線と床の境界が分からない程、ひたすらに続く白。
「何も、ない……?」
そう呟いた瞬間だった。
突如視界の隅を何者かが横切っていき、不意にそちらへ振り返る。
そこにいたのはトキとツチノコのフレンズで、手を繋いで大変仲睦まじげに真っ白な空間を歩いている。
「あ、あの!」
慌てて二人に駆け寄り、手を伸ばすアカリ。しかし次の瞬間、二人はコンピューターにバグが発生したかのように砂嵐の中へと姿を消してしまう。
また独りになってしまった。伸ばした手をがくりと下ろし、俯き気味に床をぼんやりと眺める。
直後、またしても何者かがこちらに向かっていくのが見えた。
今度はワシミミズクのフレンズが、黒い髪が特徴の若い青年と共に歩いてくる。
こちらもとても仲睦まじげにしており、声は聞こえないが何か会話をしているのが分かった。
今度は駆け寄らず、目を凝らして様子を見る事にしてみた。
するとやはり、その二人もしばらくするとバグが発生したかのように砂嵐に身体が侵食され、最初からそこに存在していなかったかのように姿を消してしまう。
「ここは、一体……?」
その後も自分の知るフレンズ達とはどこか雰囲気が異なる個体が見知らぬ誰かと共に現れては消えてを繰り返し、次第にその間隔は短くなってあちこちに残像のように誰かが存在するようになっていく。
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