VSカオスなタビー⑨

「ギャブゥオッ!?」


パフィンはぎゅっと目を閉じていた。

これから襲いくるであろう耐えがたい苦痛に呑み込まれる事に怯えながら、ただひたすらにその小さな身体を縮こませていた。


が、目の前にまで迫っていたはずの巨大なハンマーはいつまでたっても自身に叩き付けられることはなく、代わりに奇声がホールに響き渡る。

続いて『カァンッ』と何か硬い物が地面にぶつかるような音が響き、直後にパフィンの隣で追い風が吹いたかと思えば、爪で何かをひっかくような音に次いで何かが激突するような音が前方で鳴り響く。


ゆっくりと目を開くと、目の前にはタビーの手から離れたハンマーが土煙を上げながら地面に転がり、その手前には「フゥッ!」と短い威嚇音を鳴らすジョフが爪を光らせている。


「ジョフさん……?」

「パフィン!大丈夫!?」


ジョフに気を取られたのも束の間、背後からの声にゆっくりと振り返ろうとすると、白衣をなびかせながら目の前にまで回り込んでしゃがみ込むシーラがパフィンの肩に手を置く。


「シーラさん……」

「はいこれ!とりあえず食べて!」


少し間を置いてシーラが懐から取り出したのは、薄緑色の皮に包まれほのかな明るさを灯しているジャパリまん__らしき物だった。

何これ食えるんかシーラよと突っ込む暇もなく、パフィンは促されるままにそのジャパリまんらしき物を口に運ぶ。


味はどうですか?


「しゅっぱぁ!?」

「りうきうエリアで開発されたメディカルジャパリまんだよ!とりあえず試供品として貰ってたやつだけど、傷の治りが早くなるから!」


クソすっぱかったそうです。


口に入れた途端、まるでレモンの果肉をまるごとかじったかのような強烈な酸味が口の中に広がり、パフィンは思わず口と目が引っ込む。

が、その酸味は意外と口の中に長くは残らず、さらにすっぱさが引いていくと同時に全身の痛みや疲労が立ち所に治っていくではないか。


「ふおおぉ!?なんかすっごく元気になりましたー!」

「サンドスター成分増し増しで作られたから、フレンズの自己治癒能力を急速に高めてくれるんだって」

「なに言ってるかよくわかんないけど、とにかくパフィンちゃん復活でーす!」


先程まで膝立ちで身体を支えているのがやっとだったのが嘘のように元気が湧き上がってきたパフィンは、羽根を羽ばたかせてくるりと空中で1回転する。


一方、三人のいる場所より遠くであお向けに転がるタビーは、頭をグラグラと揺らしながらゆっくりと立ち上がり、相も変わらず気味の悪い笑い声を漏らしていた。


「ヒッヒ火ヘヘヘ……何というおヤくそく!ここから俺様、逆転されちゃうの?されちゃうネ!」


突如顔を上げたタビーは軽やかにスキップをしながら三人の元までやって来る。

シーラとジョフは不気味極まりない姿と化したタビーに思わずギョッとした表情を浮かべる。


「お……おばけでち?」

「……わかんない。パフィン、あれは何なの?」

「タスマニアデビルのタビーさんです。でも、今はとんでもない暴れんぼうになっちゃってます!」


対するタビーは耳まで裂けそうなほどに口角を吊り上げ、ニヤニヤと笑いながら片手を前に伸ばす。

すると、地面に転がっていたハンマーがまるで風に吹かれる紙のごとく宙を舞い、タビーが伸ばした手に柄がしっかりと握られる。


「お仲間たちが揃っタよ?さあさあみんなで反撃だ。第2ラウんド始まるよ?とっても楽しいバとルだよ!」


挑発するようにハンマーを片手で器用に回転させて風を巻き起こすタビーは、目を見開いて不気味な輝きをハンマーに宿らせる。


「上等でち!ジョフを子猫とナメてたらどんな事になるか、思い知らせてやるでち!」

「……とにかく、今のあの子は普通じゃない。どうにかして元に戻してあげないと」

「二人がいれば百人力でーす!みんなでおばけタビーさんをやっつけて元に戻しまーす!」


対する三人も戦闘態勢に入り、ジョフは爪を光らせ、シーラは地面に転がっていたスパナを拾い上げ、パフィンは羽根を羽ばたかせてふわりと宙に浮かび上がる。

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