あなざー休憩すとーりー

「おーいおいおいおいおい……おーいおいおいおいおい……」


ここは客やフレンズ達が集まる緊急避難エリア。

その一角で机に突っ伏しながら泣きじゃくるのはかの有名ペンギンアイドルユニットPPPのマネージャーを務めるフレンズ、マーゲイだった。


彼女がさめざめと泣き続ける理由は、謎のモンスター発生による突然のライブ中止が原因だった。

まだヒトが戻ってくる前の状況ならイベントホールを独占する事も可能ではあったので、彼女のショックも今のそれに比べればまだ軽減はされていたかもしれない。


が、ヒトがパークに戻ってきてからはPPP以外のアイドルグループやバンド、芸人、タレントその他諸々の有名人達がイベントホールを利用する事も増えてきたので、いつでもどんな時でもPPP専用のホールという訳にはいかなくなったのだ。


「マーゲイ、気持ちは分かるけど元気出しなさいな……」

「ほら、今回が最後って訳じゃないんだし、またできるさ……だから元気出そう、な?」

「いつまでも引きずってんのはロックじゃないって言ったのはマーゲイだろ?そろそろ泣きやめよ〜」

「イワビーさん、もうちょっと優しく言ってあげた方が……」

「マーゲイのジャパリまん食べていいー?」


机に水たまりを作るマーゲイにPPPの面々が慰めの声をかけるも、おいおいとむせび泣く彼女の涙が止まる事はなく、ナイアガラの滝のごとく机から涙が落ちていく。


「わーすごーい。滝みたーい。石ころおいてみよー」

「こらフルル!遊ばないの!」

「そうだぞ!普段面白いヤツだからってこういう時でも遊ぶのはちょっとアレだぜ!」

「イワビーさん、さらっと失礼なこと言いましたね……」


と、騒いでいた所、ふとコウテイが静かになっている事にプリンセスが気付く。

気になってそちらへ振り向くと、毛むくじゃらの服に鼻に絆創膏のような物を貼り付けたガタイのいい女子が立っているではないか。


「……」

「……」


物言わぬ女子と目が合っていたのか、コウテイは彼女に振り返った状態で白目を向いて固まっている。

どうやら無言の威圧感に押し負けて気絶してしまったらしい。


「だ、誰!?」

「はっ!?」

「ふっぐ!?」


その沈黙を真っ先に破ったプリンセスの叫びにコウテイは我に返り、筋肉系女子はビクリと跳ねながら身体一つ分後退する。


〜〜〜〜


「あなた、ゴリラのフレンズなのね?」

「知り合いからPPPの事は聞いてたけど……ライブとか全然見たことないから……ちょっと気になって……」


コウテイを気絶させた漢女めいたフレンズは、いつぞやにパフィンと話をしていたゴリラだった。

曰く、泣き声が聞こえた方に足を運んでみると、今まであまり興味を持たなかった“アイドル”という存在が目の前にいる事に一抹の好奇心が湧いたが、何と声をかけたらいいか分からず無言で接近してしまったんだとか。


「それでコウテイさんが気絶しちゃったんですね……」

「す、すまん……」

「あーいいよいいよ。いつもの事だから」

「……ところでそこにいるヤツは何で泣いてるんだ?」

「ああ、それはね……この騒ぎでライブが中止になっちゃったでしょ?マーゲイは私達のマネージャーをやってて、ライブ中止が相当ショックだったみたい」

「その内またできるのに、大げさだよねー」

「しかし、私達以外にもあのホールを使う人はいる。今回の騒ぎが片付いたとして、ライブが再開できるかどうか……」

「ぶわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っは゛っはっはあ゛あ゛あ゛!!!!」


未だにおよよと泣いているマーゲイを覗き込むゴリラにプリンセスが事の顛末を説明する隣で、呑気にジャパリまんを頬張るフルル。

そこにコウテイが言葉を続けたのがまずかったか、マーゲイはより大きな声で泣き喚いて机の上は小さな池のようになってしまった。


「い、今の私のせいか!?いや、そんなつもりじゃ……………………」

「おい気絶すんな!コウテイ起きろ!」

「わー流れるプールみたーい」

「だからフルルはマーゲイで遊ぶのをやめなさい!その石ころをどけて!」

「ど、どうしましょう……」


〜〜〜〜


それから時間がしばらく経った頃。

泣き疲れて眠っていたマーゲイが目を覚ますと、近くの椅子に座っていたゴリラが顔を覗き込む。


「おう、起きたか」

「あ、あなた、さっきの……あ、そうだ!PPPの皆さんは!?」

「あそこだよ」


ゴリラが指をさした先には、幾人かの人々に囲まれているPPPのメンバーが握手をしたり簡単なダンスを披露しているのが見えた。


「ライブができなかった分、ここで客を元気付けなきゃだとよ」

「……そうですか……」

「……その、まあ、なんだ……災難だったな……けど、あいつらもお前のこと心配してんだからよ……まあ、あれだ……元気、だせよ」

「あ、いえこちらこそ……恥ずかしい所を見せちゃってすいません……」


頭を掻きながらばつが悪そうに労いの言葉をかけるゴリラに、マーゲイも深々と頭を下げる。

直後、机から立ち上がってはメンバー達がいる方をジッと見据える。


「……彼女達が頑張ってるのに、マネージャーの私がいつまでもメソメソしてちゃダメね」

「……元気、戻ったのか?」

「こんな言葉があるわ。『PPP有る所にマーゲイ在り』ってね。そうよ、ライブができなくたってPPPはなくならない!ステージが潰れたのならまた新たに創り上げればいいのよ!泣いて落ち込んでる場合じゃなかったわ!という訳で私も混ぜてえ゛え゛っはっはっはあ゛ぁーー!!」

「ムチャすんなよー……って、もう聞こえてねえな」


その後、マーゲイを筆頭に多くの男達がサイリウムを両手に持って激しい踊りをPPPに捧げていたのはまた別の話。

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