VSカオスなタビー④

道の先へと促す声に、三人はしばらく呆然と固まっていた。

しかし、その沈黙を破るかのようにパフィンが足を動かし始める。


「パフィン!」


それを呼び止めたのは、続くようにハッと顔を上げたジョフだった。

肩を震わせて地面に座り込んでいるシーラに寄り添っていた彼女は、バッと素早く立ち上がってはパフィンに駆け寄る。


「お前……まさか、行くつもりでちか?」


騒ぎ立てる事こそないものの、明らかに震えているその声に、パフィンは少しばかり俯く。

そして、ゆっくり顔を上げるとジョフに言葉を返す。


「……ジョフさん。シーラさんをお願いします。ここはパフィンちゃんが行ってきます!」

「ダメでち!一人で行くなんて危なすぎるでち!」

「でもこのまんまじゃずっと閉じ込められっぱなしです!」

「お前に何かあったらどうするでち!ケガするだけじゃすまないかもしれないでち!」

「でもでも!このまんま何もしなかったらお腹ぺこぺこになっちゃいます!そうなったらうごけません!」

「だったらここで助けを……」

「きてくれません!トランシーバーも使えませんでした!」

「きっと来るでち!!ここで待つでち!!」

「パフィンちゃんだけでも進みます!!」

「ダメでぢぃ!!」

「いやでずう!!」


「やめて!!」


言い争う二人の声が空間に耳が痛くなる程に響き渡る中、それを中断させるように他の声が割り込む。

驚いた二人が声のした方へ振り向くと、そこには白衣の裾をギュッと掴むシーラが俯きながら立ち尽くしている。


「……トランシーバーで助けを呼んでも繋がらない。引き返せもしない。だったらもう選択肢は限られてくる」

「シ、シーラまで何言い出すでち!?」

「いいからちょっと聞いて!」


声を荒げようとするジョフを制止するシーラは、辺りを覆い尽くす木を指差す。


「進まなきゃいけない理由はもう一つ。この木、ちょっとずつだけど動いてるの」

「木が動くでち!?」

「本当によく見ないと分からないくらい遅いけど、確実にここを狭くしていってる……だから、パフィンの言う通りよ。ここで何もせずに待ち続ける事はできないし、下手をすればここにいる方が危険だわ」


座り込んでいたシーラの視界はずっと地面に向けられていた。それ故に気付いたのだ。

地面に着いた手と壁のように生えている木の距離が縮まっている。最初は目の錯覚かと思ったが、つい先程まで目の前の幹から伸びているものの距離が保たれていた小枝が、少し顔を動かした拍子に額に軽く刺さりかけた事で、それは思い込みではないと確信したのだ。


ほんの少しずつではあるものの、無数の木に覆われたこの空間はまるで縮小するかのごとく広さを失いつつある。

どのような原理で木が動いているのかは分からないが、ここに長居はできない事だけは確かだった。


「……進みましょ。もうこうなったら行くとこまで行くしかない」

「で、でも……」

「危険なのは分かってる。正直めちゃくちゃ怖いし……でもさ、何もしないでジーッとしててもドーにもならない事ってあるんだよ?」


と、どこかで聞いたようないい感じの言葉にジョフは微妙な表情を浮かべるが、程なくして大きなため息をつく。


「はぁー……こんな事なら避難エリアでジャパリまんかじってた方がよかったでち。でもジョフは大人だから、お前たちに付き合ってやるでち。ほら、パフィン。お前の言う事聞いてやるからさっさと行…………あり?」

「どしたの?…………あれ?」


決心も固まり、さあ行くぞと顔を上げた二人は、ある異常事態に気付く。


そこにいるはずのパフィンが、もういなくなっていたのだ。

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