VSカオスなタビー③
シーラの引きつった表情が見据える先。
そこには、じゃんぐるエリア内を安全に移動する為に整えられた赤茶色のコンクリートの道が存在していたはずだった。
が、シーラ達が走って来たそのコンクリートの道はまるで空間ごと切り取られたかのように綺麗に途切れており、代わりに木という木が壁のように無数に生えていた。
その狭さたるや、どれだけスリムな体格をした者でも通り抜ける事が不可能な程に隙間なく伸びており、ならば上空へ飛び上ればという考えすらも読まれていたのか、伸びた木が天井のように絡み合って完全に三人の退路を遮断してしまっていた。
「な、何これ……さっきまでこんな木、生えてなかったのに!?」
「ひ、ひいぃ……だから早く帰った方がいいって言ったんでち……きっとジョフたちを食べるつもりでちぃ……!」
狼狽の声をあげて怯える二人を尻目に、パフィンは前方へと視界を移す。
空を覆う不気味な木々は前方に行くにつれてアーチ状に丸く曲がっており、一本の細い道を作り出している。
“さあ、お早くこちラへどうぞ!タスマニあデビルのタビーちゃんが、とッておきの遊び場をご用意いたしましタですわ!”
道の向こうからまたも不気味な声が響き渡る。
しかし、進んだ先に何があるのか分からない以上、何が起こるか分からない。
怯えながらも思考を回転させるシーラは、ふとポケットの中の膨らみに手が当たる。
それはアリスことアーノルドから非常事態に備えていつでも連絡が取れるよう貸し与えられていたトランシーバーだった。
九死に一生を得たとばかりにシーラの表情に安堵の色が見え始め、慌ててトランシーバーをポケットから取り出して通信を始める。
「こちらチンパンジーのシーラ!アリスちゃん、応答してください!どうぞ!」
…………。
「ア、アリスちゃん!緊急事態発生!じゃんぐるエリアにいるんだけど、おかしな事が起きてるの!応答して!」
…………。
「アリスちゃん!!お願い応答して!!助けにきて!!返事してよぉ!!」
トランシーバーに必死に叫び続けるシーラ。しかし、返ってくるべき野太い男の声は蚊の羽音も聞こえず、無慈悲なまでに静まり返っている。
あり得ない出来事の連続にパニックに陥ったシーラは、耳をつんざくような声で何度も何度もトランシーバーに叫び続けた。
が、どれだけそれを試みようと無慈悲な結果が覆る事はなかった。
「応答!!応答、じてえ゛!!おう、おう゛と…………う……う、うぅ……」
「シ、シーラ……もうやめるでち……声が変になってるでち……」
ついには瞳に涙を浮かべて地面にへたり込むシーラの肩に、ジョフがそっと手を置く。
それをあざ笑うかのごとく、道の奥から再び声が響いてくる。
“イヒヒヒヒ……帰り道はないし助けモこない。無い無い尽くしのあナた達に今できる事は一つ!その道を!そのトンねルっぽい道を!とにもかくにも進むのだ!進め進めヒーローたち!!”
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