パフィンちゃん、離れる④
「ぐるじーでぇず!!」
アカリがガイドと話している一方、パフィンは雪崩のごとく動き続ける人混みに流されそうになっていた。
他のフレンズの中でも比較的小柄なパフィンは容易に人混みへと呑み込まれ、さらに空に飛び上がるための羽根も満足に動かせず、ヒトとフレンズが織り成す肉の波に挟まれて苦悶の声をあげる以外に何もできずにいた。
アカリの姿もどんどん見えなくなり、伸ばした小さな手も波の中へ呑み込まれようとした時だった。
太くゴツゴツした手がパフィンの胴体をしっかりと掴み、波の中からグイッとすくい上げた。
その手の持ち主は硬い胸板へとパフィンを引き寄せ、どこかくたびれたような顔にくしゃりと笑みを浮かべて見せた。
「パフィンちゃん。大丈夫かい?」
「おじさぁん……」
男の顔を見て安堵したのか少しばかり涙目になったパフィンは、男の肩にしっかりしがみ付く。
それを確認した男が人混みの波の中、アカリの姿を視線を忙しなく動かして探し回る。
どよめきや怒号が飛び交う中、男は見慣れた女性の横顔をようやく見つける。
「アカリさん!!」
普段の低く落ち着いた声とは対照的に、打楽器を強く叩き鳴らしたかのような力強い声で遠くに見える女性に呼びかける。
騒音の中、それが辛うじて聞こえたアカリはハッとした顔で声の方へと振り返る。
そこにはパフィンを両腕で抱きかかえた男がこちらに向かって手を振っていた。
しかし、ガイドから話を聞いた直後からパークガイドとしての職務を優先して客の避難誘導をしていたアカリが人混みを掻き分けて男の元へ向かう事は職務放棄にもなってしまうので向かう事はできず、両手を大きく動かし会場の出入口を指す。
“さ き に い っ て”
ジェスチャーと共に口パクで男にそう伝えたアカリの姿を確認した男は、片手の指でオーケーサインを出して頷き、きびすを返す。
「おじさん!アカリさんが!」
「アカリさんは一旦ガイドさんの仕事に戻るみたいなんだ!二人で先に避難しよう!」
「で、でも……う、うぅ……うぅ〜……!」
一緒に行けると思っていたパフィンはただただ納得がいかず、まごつくように視線をあちこちに泳がせる内に表情も曇りを帯びてくる。
「アカリさーん!!はやくー!!はやくきてくださぁーーい!!アカリさあぁーーん!!」
が、意を決したようにグッと身体を伸ばしたパフィンは男の肩から身体を乗り出し、金切り声にも近い叫びをあげる。
小さな手を伸ばしながら、震える声でその名前を叫び続けるパフィン。
それに気付いたアカリは、額に浮かべた汗を袖で荒く拭うと、ニコッと笑みを浮かべながら手を大きく振る。
“だ い じょ う ぶ”
口パクだが、確かにそう告げてきた事が分かったパフィンは、それでもなお叫び続けた。
男に抱えられ、その姿が見えなくなるまでアカリに向かって叫びながらパフィンはいつの間にか瞳に涙を浮かべ、それでもアカリのいる方向へ手を振り続けた。
そして、あと少しで会場から出ようという所まで来た、その時だった。
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