おじさん、アイドルを知る④

「……っとと、興奮し過ぎて目的を忘れるところだったわ。特等席に座るあなた達に聞きたい事があるの」


まるで先ほどまでの恐ろしさすら感じるテンションが嘘のように消え失せたマーゲイのかしこまった様子に面食らう三人に構う事なく、マーゲイはグッと身を三人の前に乗り出す。


「ズバリ!あなた達、人前に出て目立ってみたい願望はあるかしら?」


突然の質問に顔を合わせる男とアカリ。そんな大人二人の沈黙を押しのけるかのように、パフィンはぴょんぴょん飛び跳ねながら手を上げる。


「はーいはーい!パフィンちゃんもPPPみたいに歌っておどれるようになってみたいでーす!」


それを聞いた瞬間、マーゲイの眼鏡が一瞬キラリと妖しく光り、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


「……一応聞くけど、そちらのお二人はどうかしら?」

「あ、いや、自分はそういうのはあまり……」

「うーん……私も、表舞台で目立つよりも裏方で皆さんを支える方が性格に合っている気はしますね」


大人二人の控えめな返答に軽くあいづちを打ったマーゲイは……


「ま、問答無用なんだけどね」


わざとらしく聞こえるようにポソリと呟き、どこかへ行ってしまった。


「……いやいやちょっと待って。問答無用って一体何?どういうこと?ねえ待って!」

「マーゲイさん?ちょっとマーゲイさん?マーゲイさん!?確かに人前で動物の解説をするのは好きだけども!それとこれとは事情が違うというか色々都合が……って聞いてますか!?マーゲ…………ああ、もう見えない……」


ダッシュで遠ざかるマーゲイの動きたるやヒトの足で追いつく事は不可能に等しく、引きつった顔の大人二人を置いてけぼりにしてあっという間に姿を消してしまう。


取り残された二人はライブ開始後、自分達がどのような待遇を受けるのか大方予想が付いてしまったようで、方や冷や汗を流して引きつった顔になり、方やステージに立たされる自分を想像して頭から湯気が出んばかりに赤面していた。


そんな二人の小っ恥ずかしさなど露知らず、まだウキウキ気分でステップを踏んだりくるくる回るパフィンは満面の笑みで二人に振り返る。


「ライブがたのしみでーす!はやくPPPに会いたいでーす!」


無邪気に笑うパフィンの楽しそうな姿が視界に入った男の脳裏を何かがよぎる。

それが何なのかハッキリと思い出せないが、決して悪いものではないという事だけは漠然とながらも理解できた。


それは男の強張った身体にほんの僅かな温もりを与え、引きつった口元を少しずつ緩ませていった。

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