おじさん、アイドルを知る③

衝撃に備えて身体を縮こまらせているアカリは、ゆっくりとまぶたを開いていく。


「……大丈夫ですか?」


声をかけられたアカリは男と視線が合い、不意に身体が動かなくなる。

盛大にすっ転びかけたアカリに慌てて駆け寄った男は咄嗟に腕を伸ばし、その身体を僅かに黒ずんだ太い腕で抱き寄せたのだ。


「あっ……」


と、小さな声が思わず出たアカリは彼の服から漂う僅かな男臭さそしてどこか懐かしさを覚える不思議な感覚に呆然としていた。

そして目と目が合った二人の間には子供が見ちゃいけませんよなロマンチックかつアダルティな雰囲気が漂っていき二人の顔は徐々に距離を縮


「あ、あの……」

「はい、何でしょう!?あ、私の事はお気になさらず!」


____すでに腕から離れていたアカリの隣で男が困惑した表情で声をかけたのは、あらぬナレーションを興奮気味にまくし立てているマーゲイであった。


マーゲイのナレーションジャックが始まる前にアカリは慌てて男の腕から飛びのくように離れており、それを遊んでもらっていると思ったパフィンが今は男の腕にぶら下がっているのが現状である。


「アイドルのライブ会場で始まるラブアンドロマンス……あふ、ふふへはは!ぬぉふほほはぁ!」


興奮のあまり鼻血を流すマーゲイがおかしな笑い声をあげながらぐねぐねと身悶えていると、顔の赤みがなくなってきたアカリが何かに気付いたのか、彼女に声をかける。


「えっと……マーゲイさんですよね?PPPのマネージャーの」

「ごぶふふぉ……え?ああ、そうだけど。そういうあなた達は特等席チケットをゲットしたラッキーなお客さん達ね?」

「あ、はい。所でマーゲイさん……ここで一体何を?」

「何を聞くかと思えば……それは当然!ここの空気を感じ取る為に私はここにいるのよ!このお客さんがまだほとんど来ていないイベント会場の静けさ!それがもうしばらくするとPPPに出会うためにやってきた星の数ほどいるファンのどよめきによってかき消されPPPの歌とダンスに合わせてファンの身も心も一体と化しそこに新たなハーモニイィイイイイイイキエェエエアアァアァアア!!!!!!!!」


マーゲイはメガネを指でクイッとかけ直す動作と共に、アカリの質問にクールな素振りで答える……と思いきや、徐々にテンションが上がってきてはついに一体どこから出しているのかと聞きたくなるような奇声を発しながら悪魔に取り憑かれた少女も真っ青なブリッジを披露し始める。


その異常としか言いようのないノリとテンションに全く付いていけない男は、苦虫を噛み潰したような顔でアカリに耳打ちをしていた。


(アカリさん……彼女、一体どんなフレンズさんなんですか……?)

(マーゲイというネコ科の生き物のフレンズさんなんですけど……彼女は、何と言いますか……個性がかなり強いみたいですね……)

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