おじさん、休む②
それから男は普段よりも少なめの荷物を全て届け終えると、太陽が真上に上り切ってもいない明るい道のりをトラックで走っていく。
元々パークの管轄外エリアに住むヒトがほとんどいない事もあって道路はゴミの一つすら見当たらない程に空いており、会社に戻った男が時計を見るとまだ正午にもなっていなかった。
「あ、お疲れっす!」
「お疲れ、ヨモギ君」
トラックから降りてオフィスへと向かう途中、男は自分と同じ作業着を着た茶髪の青年とすれ違った。
『ヨモギ』と呼ばれた青年は、入社してまだ一年目の新入社員である。
元はパーク内の居住地区に住んでいたらしいが、小さい頃から冒険モノの絵本や漫画が大好きだという彼は、本人曰く「未踏のエリアを突き進んでこそ男」という理由で両親の反対を押し切って管轄外エリアに移り住んだんだとか。
職場にお気に入りの漫画や絵本を持ち込んでは子供のようにそれに見入る姿は社内でも早い内から良くも悪くも語り草となっており、仕事中にこっそり読んでいる所を先輩社員に見つかって怒られる様は日常風景と言っても差し支えない。
「聞きましたよー?これから女の子二人とパークで遊ぶんスよね?」
「え?」
そしてかなりの地獄耳でもあり、社内やその周辺で何か事が起これば、一体いつどこで聞き付けたのかと問い詰めたくなるレベルで彼の脳内に保存されてしまっているのだ。
「またまたとぼけちゃってぇ!課長サービスとか話してたんでしょ?」
「えっ……ヨモギ君、その時いなかったよね……?」
「やだなー、俺そん時もうオフィスに入ってきてましたよ?」
加えて普段から騒がしい割に近くにいても気付かないほどの神出鬼没でもある(本人曰く「気配の殺し方をマスターした」)。
「ま、それはさておき待たせてる人もいるんでしょ?早くタイムカード打って上がった方がいいんじゃないスか?」
「……本当に色々知ってるね……」
「へへぇ、ガキの頃から探偵ごっこが得意だったんで!」
「それを仕事にも活かせたら、百点満点かな?」
「うっ!?せ、先輩……優しい顔して痛いトコ突くとかドSっスか?」
「ははは……びっくりさせられたお返し、かな?」
冷や汗を垂らすヨモギに微笑むと、男は頭をかきながらトラックへ向かう彼の背中を見送ってからオフィスへと向かい、残りの仕事を終えて服を着替えると自転車にまたがる。
お客さんとしてパークに入るなら……と考えた男の脳裏に、女の子に手を引かれながらパークの中を走り回っていた自分の姿がフラッシュバックする。途端、自転車が進む方角はパークではなく、自宅の方になっており、何かに急かされるように砂利道を走り出す。
そして自宅に着いた男は何かに導かれるように、脳裏をよぎった記憶の中に映る自分と同じ格好に着替えると、再びパークへの道を自転車で独り走り始める。
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