おじさん、休む①
翌朝、会社のオフィス。
「午前まで、ですか?」
「ああ。今日は人員が余ってるぐらいだし、お前有給どころか希望休すら出さないだろ?サービスしとくからよ」
いつものようにまだ他の社員達が来ない内から早めに出勤してきた男が後から出勤してきた白髪の男と話をしていた途中、不意に白毛の男から午後からの休暇を言い渡される。
男は狐にでもつままれたかのように呆然とした顔になりながらも、続く白髪の男の言葉に耳を傾ける。
「それに、昨日パークから連絡があってな。……その、だな。お客さんとしてパークに来てほしいって頼んでるフレンズの子がいるんだとさ」
「フレンズ、さんが……?」
「……まあ、お前からすれば昔の事もあるし、行くかどうかは任せるとするよ」
言葉が末尾になるにつれて気まずそうに視線を落とす白髪の男がそれだけ告げると、男は暫しの間沈黙する。
「…………配送に、出ます」
それに対する答えを出す事はなく、男は彼に背中を向ける。
オフィスを出ようとする男が扉に手をかけた時、不意に背後から声が掛かる。
「そのフレンズの子、お前の子供と背丈が似てるそうだ」
「…………」
「若造の分際で無茶すんなよ」
それだけ告げると白髪の男は何も喋らなくなり、男も言葉を返すことなくオフィスを後にする。
そしてしばらくした後、ゆっくりとパークへの道を走り出したトラックは、後から出勤してきた数人の男達に見送られながら会社を後にする。
〜〜〜〜〜〜
「はぁ〜い☆ここにサインしたらいいのねぇ?オッケーオッケー!」
そしていつものようにパークへとやって来て、いつものように物資を工場へ運び、いつものようにサインをもらいに来たのだが、普段と違う事が一つだけ、いやよく見ると一つと限らずいくつもあった。
目の前で紙にサインを走らせる為にペンを握っているのが女性特有の色白かつ華奢なそれではなく、まるで大木のごとく太くたくましいものであり、さらに男への受け答えをする声は野太い男の声を無理矢理高音にしたかのような嫌でも耳に残るものなのだ。
男の目の前にいるガイドが誰なのか、もはや説明する必要などあるまい。
「アーノルドさん……こっちのエリアにいるなんて、珍しいですね?」
「ぅアリスとお呼び!!」
相変わらず本名で呼ぶ男に対しクネクネと不気味なまでに女性的な動きをしながら叫ぶアーノルドは咳払いをし、「それはともかく」と続ける。
「あなた、今日午後からおヒマでしょ?」
「えっ?」
「何で知ってるんだって顔ね?そりゃそうよ。今日の家族デートはアタシが仕組んだんだもの」
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