おじさん、休む③
パーク出入口の前までやって来た男は、自転車から降りてゲートまでの道を少し早足で歩いていく。
つい先日に更新した入場パスを持っていた男は特に何の問題もなくゲートを通過できた
……と思いきや。
「あ、すみません!」
ゲートで受付をしている男性ガイドに呼び止められ、きょとんとした顔で振り返る。
片手に何かを大事そうに持っている男性ガイドは受付窓の奥から慌てたように出てくると、少し息を切らしながら男に尋ねる。
「みずべエリアのアカリさんと知り合いの配送業者の方、ですよね?」
「え?え、ええ……そうですが……」
男の返答にガイドは「あっ」と小さく声を上げると、片手に持っていたそれを男に差し出す。
それは手のひらに収まる程小さな長方形の透明な容器に紐を通した物で、中をよく見ると虹色のとても小さな星や月が淡い光を放ってふわふわと浮かんでいる。
「……これは?」
「期間限定デザインのフリーパスです。お揃いですよ」
にっこりと笑うガイドの言葉に男は怪訝そうにしながらも軽く頭を下げ、フリーパスを首にかけると再び自転車をパークの中へと押していく。
エントランスの専用エリアで自転車を預けた男は、近くを歩いていたラッキービーストが突然ホログラムで矢印を映し出す。
映された矢印の方へと他のラッキービースト達が促すように足元を軽く押され、それに流されるようにしばらく歩いていった男の目前には、見覚えのある小さな影と見慣れない女性の姿が視界に映り込む。
「…………あー!!」
近付いてきた男に一番に気付き声をあげたのは、白黒の服装が特徴のフレンズ、パフィンたった。
それに釣られるように振り向いたのは、肩まで伸びた髪をなびかせ、薄手の小さなコートにロングスカート姿の女性らしい私服を身にまとった女性だった。
「アカリさん!おじさんですよ!おじさん来ましたよ!」
男に駆け寄りながら女性に忙しなく手招きをするパフィンの言葉で、男はその女性がいつも仕事で顔を合わせているガイドだとようやく理解する。
『女は化ける』とは昔から言うものの、ガイド服を着ていた普段とはまるで別人のごとく印象が違うアカリに男は言葉を失う。
「あっ……」
「あっ……」
そして言葉を失ったのは男だけではなかった。
普段の作業着姿とはまた違った、街を歩く男性と変わらない姿をしている男に対して普段とは違う印象を受けると同時に、どこか言い知れないような感覚に包まれる。
「どうしたんですかー?早くいきましょー!」
が、そんな刹那の沈黙すら許さない小さなフレンズは男の手を引っ張り、アカリの元へと男を連れて行く。
その小さな手から伝わる温もりが男のゴツゴツとした手にゆっくりと渡り
ふと、男の時間が色を失った。
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