おじさん、帰る?⑥

「あなたは……?」

「パークセントラル担当ガイド、アーノルド・リーガンストーン。アリスって呼んでちょーだい」


そのたくましい体躯とは不気味なまでに不相応な女性めいた挙動を見せるアーノルドがにっこり笑いながらウィンクを飛ばす。

男は背筋に悪寒が走るのを抑えつつも、アーノルドに向き直る。


「えっと……アーノル……」

「んもぅ!!アリスって呼んでちょーだいってば!!ナリはこんなだけど心は立派な乙女なのよ!!」


アーノルドは少しヒステリックに声を荒げながら男の言葉を遮り、その場で内股で地団駄を踏むという何ともアレな動きを見せる。

その奇妙さ溢れる言動に男は何と声をかけたらいいのか分からなくなり、ついに絶句してしまった。


それを察したのかは知らないが、アーノルドはふぅと一息つきながら一つ咳払いをした後、男の前まで歩み寄る。


「失礼。アタシとしたことがつい取り乱しちゃったわ」

「あ、い、いえ……」

「それはそうと。あなた、エトピリカたんのワガママを叶えてあげたいみたいだけど。それが何を意味するか分かる?」


未だにうろたえる男にアーノルドは意地悪げに微笑み、さらに腰を屈めては「そ・れ・に」と語気を強めながら男の後ろに隠れているエトピリカに顔をぐっと近付ける。


「エトピリカたん?ダメじゃない、こんな優しそうなおじさんを困らせたら。ここにいるラッキーちゃん達も、あなたが心配でこんなに集まってきてくれたのよ?」

「うぅ……」

「……まあいいわ。そのままハシビロちゃんのごとくジッとしてなさい」


しょんぼりと項垂れるエトピリカに困ったように笑いかけながら、アーノルドは腰をまっすぐ伸ばして二人に告げると、ヒモが付けられた札のようなものをエトピリカと男の首に素早くかける。


「……これって、もしかして……!」


『園外探索許可証』。

札にはその7文字が大きくハッキリと書かれており、エトピリカは漢字こそ読めなかったもののそれが何であるかはすぐに理解できたようで、表情がどんどん明るくなっていく。


「……大丈夫なんですか?」

「5分だけよ。5分だけ貸してあげる。ま、アタシもパークではそれなりのポジションにいるし?ちょっとした社会見学みたいなものと思えばいいかも。それに、これを機に試験を受けたいフレンズちゃん達にもパークの外をちょーっとだけ実際に見てもらうようにしてみる方がいいのかなって思ってね」


怪訝そうに尋ねる男にアーノルドはため息混じりに笑い、「これって職権濫用かしら」と付け加えながら肩をすくめる。

そんな二人の会話を遮るようにエトピリカは男の腕を引っ張り、あっという間にトラックの方へと走っていった。


「アーノルドたんありがとー!おじさん早く早く!」

「アリスとお呼びぃ!!それと貸すだけなんだから、ちゃんと返しなさいよー!!」

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