おじさん、帰る?⑤

「そんなぁ……外に出ると飛んだり泳いだりできないなんて……」


男から外の状況を大まかに聞かされたエトピリカの顔は絶望一色に染まっていき、地に四つん這いになってドンヨリと暗いオーラに包まれていく。


「それだけ外は危ないからね。パークの中みたいに自由に動き回れるような場所じゃないから、そういう試験があるんだろうね」

「仲間に会うまでの道のりが遠く感じる……」

「飴ちゃん、もう一個食べる?」

「そんなんでエトピリカたんの憂鬱が晴れることなんてんぐ…………あまーい!」


苦笑いを浮かべる男がすかさず飴を差し出すと、項垂れながらも器用に袋を開くエトピリカ。

どうやら機嫌は即座に直ったようだ(ちなみにゴーヤ味)。


「……ガイドさんから試験に関する資料とかを渡すように伝えること、できます?」

「大丈夫ダヨ」


立ち上がってキラキラと表情を輝かせるエトピリカを見た男は、ラッキービーストに小声で告げると遅れてゆっくりと立ち上がる。


「……じゃ、おじさんはそろそろ帰るから。ちゃんとパークの中に戻らないとダメだよ」

「え!?ままま待って!」


男が声をかけた途端、エトピリカは男が進もうとする方向へ素早く回り込む。


「おっ……ど、どうしたの?」

「ね、ねえ!ちょっとだけ!ちょっとだけでいいから!お外、見てみたいな……」

「えっ……?」


困惑する男をよそに、エトピリカは男の服の裾を強く掴むが、少し前に復活していた大量のラッキービースト達の目が赤みを帯び始める。

それに気付いたか、試験について説明をしていたラッキービーストがエトピリカの足元まで歩み寄る。


「エトピリカ。ダメダヨ。危ナイヨ」


周りから再び聞こえ始める警告音の中、ラッキービーストに声をかけられても、エトピリカは怯えたような表情を浮かべるものの男の服を掴んだまま動かない。


このままではまた振り出しに戻るような気がする。そう感じた男は、おずおずとラッキービーストに声をかける。


「あの……ラッキーさん」


エトピリカに顔を向けていたラッキービーストは男に視線を移し、頭を小さく傾げながら耳を揺らす。


「『保護者同伴』という形でも、ダメですかね?ああ、そこの門の辺りまでしか行かないし、トラックの中に乗せます。万が一の事も考えて、ラッキーさんにも乗ってもらえれば……」

「…………」


男の言葉にラッキービーストは返答せず、固まったまま動かない。

他のラッキービースト達も警告音を発したままで、いくら待ってもそれ以上のリアクションを見せてはくれなかった。

やっぱりダメなものはダメか。男が諦めかけていた時、不意にラッキービースト達の警告音がピタリと止み、まるで道を作り出すかのようにゾロゾロと後ろへ下がっていく。


「フレンズちゃん達を守るため、規則は守らなきゃいけない。でもねぇ、アタシは規則に縛られ過ぎるのも良くないって考えてるワケ。つまり……どゆ事かお分かりかしら?運送業者さん」


ラッキービースト達が作り出した一本の道。

そこを腰に手を当てながら優雅に歩いてきたのは、筋骨隆々のたくましい身体つきでスキンヘッドの黒人男性だった。

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