パフィンちゃん、会えない⑦

その後もパフィンがカゴの中のお菓子を食べ尽くさんと手を伸ばし、口の中に頬張らせていた頃、控え室の扉をノックする音が聞こえてきた。


「はいはーい、開いてるわよー」


ガイドが扉に向かって声をかけ、扉がゆっくりと開く。

そこにいたのは、水辺エリア付近でうたた寝をしていたゴリラと、それに付き添う水辺エリアのガイドだった。


「あらあら、リコちゃんにアカリちゃん。お迎えご苦労様ね」

「リコって呼ぶなコラ」

「んもー!そんなの勿体ないわぁ!せっかく可愛い女の子になったのに単純に『ゴリラ』だなんてちょっと無粋だと思うのよね、アタシ!どうせなんだからもっとチャーミングでキューティーなアダ名を考えてもいいのよぉ!?」


ややヒステリックな感じに身体をくねらせるガイドに露骨に嫌そうな表情を浮かべる『リコ』と勝手にアダ名を付けられたゴリラの隣では、『アカリ』と呼ばれたこれまで男と何度も話をしてきたガイドが苦笑いを浮かべながら話に入ってくる。


「あ、アーノルドさん……よろしいでしょうか?」

「ムッキー!!アーノルドって呼んだのは誰!?アカリちゃんだわ!!……ごめんなさい。アタシってば、つい熱くなっちゃったわ」


一通り喚き散らしたか、アーノルドと呼ばれたスキンヘッドの黒人ガイドは瞬時に落ち着きを取り戻し、未だにお菓子を頬張っているパフィンに向き直る。


「パフィンちゃん。お迎えが来たわよ。もうその辺にしときなさいな」

「もぐ……むぉお!?ふぁひんひゃんぉおふぁひぃパフィンちゃんのお菓子ぃ!!」

「食い過ぎだコラ」

「もぎぃ!?」


アーノルドにカゴを取り上げられてお菓子を口に含みながら手をバタバタさせるパフィンが立ち上がろうとするや、その脳天にゴリラのゲンコツが落とされる。

そして綺麗に出来上がったタンコブをさすりながら立ち上がるパフィンに、いつの間にか目を覚ましていたシーラが目の前まで歩み寄る。


「むっぐ……シーラさん?」

「ほんとにごめんね……シーラのせいで……」


頭を下げるシーラの表情は未だ暗く、言葉に僅かな沈黙が流れる。

が、口元を乱雑に拭ったパフィンはそれを破るように、シーラの顔を見上げて口を開いた。


「パフィンちゃん、もう気にしてません。だからシーラさんも気にしちゃダメです」

「え?」


にっこり笑うパフィンに対してきょとんとした表情を見せるシーラ。それに構う事もなく、パフィンは明るい声でさらに続ける。


「だから今度、二人でおじさんから飴ちゃんをもらいに行きましょー!おじさんはたっくさんの飴ちゃんをかくし持ってるんで、シーラさんの分もいっぱいもらえますよー!」


そして助け舟を出すようにアーノルドがシーラの肩を軽く叩きながら歩み寄り、二人の手を掴んで少々強引に握手をさせる。


「ほら、仲直りの握手。ケンカしてもすぐに仲直りできるのは、フレンズがハリウッドで天使の子供だって言われる理由の一つよ?」

「仲直りでーす!今度いっしょにあそびましょー!」

「う、うん……ありがとね」


戸惑いながらも笑い返すシーラに仲直りの証と称してタスマニアデビルにあげようとしていたジャパリチョコを渡したパフィンは、少しの談笑を満喫した後にアカリ達に連れられて管理センターを後にする。

そして別れ際、アーノルドがちょっとした騒ぎを起こしかけもしたが、そこに悲しげな顔をする者は一人もいなかった。


「かばんえっちしょー、でしたっけ?それが取れるようにシーラさんを応援してまーす!」

「ギャアァーー!!いやぁーん!!この子ってばナリは小さいのに耳年増よぉーー!!」

「……うるせぇ」

「アリスちゃんうるさいよぉ!」

「あ、あははは……」


ちなみにシーラが言った『アリス』とは、パーク内におけるアーノルドのアダ名である。

周りにそう呼ぶ事を強要しているものの、大抵が口を滑らせたりわざと本名を呼ぶのであまり浸透していない。

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