パフィンちゃん、会えない③
場所は変わって水辺エリア付近の管理センター。
待てども待てどもパフィンは現れず、トランシーバーの調子も一向に良くならない。ガイドは困り果て、男も長い時間を待たされそろそろ次の工場へ行かねばならなくなる。
「……すいません。そろそろ出ないと……」
「あ……そうですね。ごめんなさい、待たせるだけ待たせて、時間が無駄になっちゃいました……」
「いえいえ、気にしないで下さい」
申し訳なさそうに頭を下げるガイドに男は笑い返すと、懐から飴を2個取り出す。
「これ、もしパフィンちゃんが来たら二人で食べて下さい」
「……ありがとうございます」
飴を受け取ったガイドの言葉を最後に男はどことなく寂しげな笑みを一瞬だけ見せて、トラックへと戻っていく。
ガイドも残念そうにその後ろ姿を見送ると、手に持った飴の包み紙に目をやる。
「夏みかん味……」
海を思わせる水色の涼しげな背景に可愛らしいみかんの絵が描かれた包み紙は、ガイドの胸中に男の寂しげな後ろ姿を何度も思い起こさせる。
そして、話の流れで男が一度だけ話していた『家族』の話を思い出す。
男にはかつて、妻と娘がいた。
妻は自分と同じ程の年齢だそうで、娘は小学生に入って少し経った頃。
今はどうしているのかを聞いたが、そこからは男は言葉を濁すかのように話題を切り替えてきた。
ガイドは少なくとも深堀りするのはまずい話題だろうと察し、あえてその違和感に気付かないフリをした。
今思えば、彼を理解するためにもう少しだけ聞いておけばよかっただろうかとほんの僅かばかりの後悔もあったが、他人の個人的な事情に土足で踏み込むのはもってのほかだとその後悔を振り払う。
同時に、男がパークの管轄外の地区で暮らしている事も思い出した。
今や日本国内でパークの管轄外にあるエリアはほとんど無いに等しい現在、パークの外で暮らしている男の存在は非常に珍しかった。
いずれ日本国内全域がパークの管轄内になるであろうという予測もされる中、ガイドは何度か男に「パークの居住区に移り住んだりしないんですか?」と漏らした事があった。
しかし、その言葉に対する男の返答は決まってこうだった。
「どうにも気乗りしなくて」
万人受けするコンテンツが未だかつて存在しないように、ジャパリパークの存在に斜めに構えた目を向ける者は少数派であるものの当然存在する。
しかし、決して男はその中に含まれている訳ではなく、パークを嫌っている訳でもない。
それ以前にパークの運営に貢献する仕事をしている時点で男が反感を抱いているとは思えないし、男の口からもジャパリパークの存在には好感を持っている旨の話を聞いた事が何度もある。
ならば何故彼はパークの中へやって来てくれないのか。
何故もっとフレンズの皆と触れ合ってくれないのか。
問いかけるかのように飴を見つめても、返ってくるのは心地の良いそよ風だけだった。
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