タビーの災難⑦

「タビーちゃんがこわい人たちにかこまれてますー!?」

「危険な物質や事象をパークから隔離し、研究する組織。KFP財団の職員です」


二人のデビルを取り囲む武装したヒトの背後で、ダチョウがパフィン達に説明する。

その傍ら、武装したヒトがくぐもった声で会話をしている。

声からして武装したヒトは全員男だと分かった。


「ラッキービーストの反応は……見るまでもないな」

「可哀想に……傷だらけになっているぞ」

「事態は一刻を争う。早速回収するぞ」


会話を終えた男達はヘリから降ろされた小さなアタッシュケースを手早く開き、中から筒状のガラスに細い管が取り付けられたような機器を取り出す。


「な、何……やだ……やめて……」

「大丈夫だよ。君の身体の中にある悪いものを取り出すだけさ」

「そっちの君は離れるんだ」

「え、でも……」

「アンラッキー・サンドスターは未知の物質だ。君にもどんな危険が及ぶか分からない。ここは我々に任せてくれ」


機器を手にした男が怯えるタスマニアデビルに語りかけ、他の男達がオーストラリアデビルを引き離す。

そして、細い管をゆっくりとタスマニアデビルの口へ持って行った。


「さあ、ちょっと苦しいけどガマンしてね」

「や、やだ!やだ!助けもががが……」


ぐずるタスマニアデビルの背後から二人の男が彼女を押さえ、さらに二人の男が彼女の口を大きく開かせる。

瞬間、機器を持った男が目にも留まらぬ速さで管をタスマニアデビルの口の中へと突っ込んだ。


「あっががが!?」

「はーいすぐに終わるからねー!ちょっとだけガマンだよー!」


と宥める男の言葉通り、事は本当に一瞬で終わった。

管から空気を吸い込む音が聞こえたかと思うと、ガラスの中は一気に真っ青な何かで満たされていく。

さらにガラスの中に満たされたそれは一点にどんどん凝縮されていき、ついにはガラスの中でふわふわと正方形のキューブ状になって音もなく浮遊し始めた。


「回収完了。収容に移るぞ!」

「はーい頑張ったねー!終わったよー!」


タスマニアデビルの背後にいた男の一人が彼女の背中を軽くさすると、男達は機器をアタッシュケースに素早くしまいこんでロープを素早く登っていく。


そして、一人を覗く全ての男達を乗せたヘリは空の彼方へとあっという間に飛び去っていった。


「協力感謝する。約束の品は追って届けるように手配するよ」

「分かりました」


ダチョウにそれだけ伝えた男は懐から取り出した携帯端末を手にしながらこちらも素早くどこかへ立ち去っていった。


「タビーちゃん!」

「ぅ……ぅぅ……うぅぅ〜〜〜……!」


駆け寄るオーストラリアデビルにしがみ付くタスマニアデビルの身体からは傷が全て消えており、泣いてこそいるものの先程よりもずっと落ち着きを取り戻していた。


「おー、終わったのかな?」

「ええ。これで彼女の身に理不尽なまでの不幸が訪れる事はないはず」


今までの流れを静観していたフェネックの言葉に返答するダチョウが金色の卵を覗き見る。

そこにいつもの調子でビビりながらも平穏に過ごすタスマニアデビルの姿が映し出された直後、何やら茂みの向こう側から無数の話し声が聞こえてくる。

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