タビーの災難⑥
オーストラリアデビルがタスマニアデビルの側に寄り添って落ち着かせている間、ダチョウは一行に自身が探している『恐ろしい何か』の事を説明し始める。
「アンラッキー・サンドスター……?」
「ええ。理論上このサンドスターの亜種が出現するのは数百億年に一度の確率。パークの調査員はおろか、危険エリアを調査できる機動性に優れたボスですら実物を今この時に至るまで発見できなかったんです」
『アンラッキー・サンドスター』。
サンドスターの亜種なのだが、その存在は知能の高いフレンズ達が集う「けも学会」にてかなり前から仮定されていたものの、未だ理論上での存在であり実証に至る事はなかった。
形状は通常のサンドスターとは異なり直接触れる事ができる固形とされており、大きさはヒトの大人の眼球一つ分。
このサンドスターにフレンズやセルリアンを誕生及び活性化させる力はないが、これを浴びた個体は不自然なまでに不運になり、心身共に破滅へと追い込まれていく。
……という仮説が立てられている。
その後、ヒトがパークに戻ってきてからけも学会に出席するフレンズ達の知識は飛躍的に向上し、統計学や確率など非常に難しい計算ができるフレンズ達が学会より続出し始めた結果、このアンラッキー・サンドスターの出現率も証明された。
途方もなく低い確率でしか発生しないとされるその危険な物質は、このパークがいつ来るか分からない程先になるであろう終わりを迎える頃になってもまず出現する事はないと誰もが楽観視していた。
……しかし、まさか、よもやであった。
まだ正午すら迎えていない今、タスマニアデビルを襲った理不尽なまでの不幸の数々。
そしてダチョウが星占いで垣間見たおぞましいまでに不吉な星の流れ。
知り合いのフレンズからいつの日か聞いた事がある一つのワード。
ダチョウの中に生じたほんの僅かな確信は、目の前で泣きじゃくる傷だらけのタスマニアデビルを見て一気に膨れ上がる。
「万が一に備えて、近辺のボスや他の場所にも連絡を入れていました」
「他の場所?パーク内の調査員に報告しないのかよん?」
「それは勿論ですけど、時にはセルリアンよりも危険な代物を隔離させる組織がしばらく前に結成されたんです」
カマミツの問いかけに答えるダチョウの足元には、いつの間にか4体のラッキービーストがおり、目を赤く光らせて何かを探し回るように歩き回っていた。
そしてその内の1体がオーストラリアデビルの胸の中ですすり泣くタスマニアデビルの近くを通った時、けたたましい警告音が鳴り響く。
「な、何事ですか!?」
「警告、警告。タスマニアデビルノ体内カラサンドスターノ数値異常ヲ確認。近クニイルオ客様ヤフレンズノ方々ハ直チニ避難シテ下サイ。繰リ返シマス____」
驚くカマイチに構う事なくラッキービーストは警告音を発しながら同じメッセージを何度も繰り返す。
「ひぃ……!」
「な、何!?何なの!?」
怯えるタスマニアデビルを抱きしめながらオーストラリアデビルがラッキービーストを凝視すると、遠くからバラバラとプロペラが回るような低い音が聞こえてくる。
その音を出していたのはジャパリパークのマークが刻まれた迷彩柄のヘリコプターで、そこから顔を覆うガスマスクに防弾チョッキといった完全武装をしたヒト数人が、ヘリから吊り下げられたロープ伝いに現れる。
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