パフィンちゃん、待つ③

「……虫歯になっても知りませんよ?」

「ちゃんと歯みがきしてるんでへーきでーす!」

「それはそれとして、はい、トランシーバー」


ニコニコ笑うパフィンに苦笑いを浮かべながらも、ガイドは迷彩柄のトランシーバーを彼女に手渡す。

物珍しげにトランシーバーを色んな角度から眺めるパフィンに、ガイドは続けるように説明をする。


「このトランシーバーから私の声が聞こえてきたら、私が話し終わってからここにあるボタンを押しながら話しかけてください」

「電話みたいにお話ししちゃダメなんですかー?」

「トランシーバーは遠くの相手とお話ができるけど、電話とは使い勝手が違うんです。いいですか?私が話し終わってから、押しながら話すんですよ。でないと、パフィンさんの声が届きませんからね?」


少々の不安を覚えながらもパフィンに少ししつこいような言い方で説明を繰り返すガイドは、彼女のけがわの胸ポケットにトランシーバーを差し込む。


「すぐに手に取れるように、ここに付けておきましょうね」

「はーい!じゃー失礼しまーす!」

「ストーーップ!!」


そのままどこかへ飛び立とうとするパフィンを身体を大の字に広げながら阻止するガイドが、再び前かがみになってパフィンにグッと顔を近付ける。


「な、なんですか……?」

「はい、トランシーバーの使い方を説明してください!」

「ふい!?え、ええーっと……」


ガイドからの突然の指示に目を白黒させるパフィンは動揺しつつ、思い出すように途切れ途切れにその使い方を口にする。


「えっと、えっと、ガイドさんの声が聞こえたら話し終わるのをまって……」

「……」

「それで、ここのボタンを押しながらお話しして……」

「……うんうん」

「それでパフィンちゃんはおじさんから飴ちゃんをもらえまーす!」

「…………まあ、合格としますか。オッケーです」


最後の一言さえなければ完璧だったのに……と内心で苦笑いを浮かべながらズッコケるガイドだったが、使い方自体は覚えたようなので大丈夫だろうと幾分か安堵し、親指を立ててオーケーサインを出すと同時に猛スピードで飛び去っていくパフィンを見送る。


ガイドがパフィンに渡したトランシーバーは二つでワンセットのパーク専用の特別仕様で、チャンネルを合わせたりなどの複雑な操作を必要としない。

なので、よほど変な弄り方をしたとしても第三者の声が聞こえてくる事はまずあり得ない。


……が、そのというガイドの中に生じていた確信が後に覆る事になるとは、この時は誰も予想すらしていなかった。

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