パフィンちゃん、数える①

林の奥から聞こえてきた大きな声に、三人は一斉に振り返る。

声の先には、草むらの中から髪の毛の一部分がまるで鳥の羽根のようになっており、白黒の服が特徴の小柄な女の子が嬉しそうに走ってくる姿が見えた。


女の子は髪の毛の羽根のような部分を小刻みに震わせ、三人の元でピタリと立ち止まる。


「飴ちゃんがあると聞こえて!ジョフちゃんは飴ちゃんいらないって言ってるのが聞こえたんで!だったらパフィンちゃんに……」

「い、いらないとは言ってないでち!」


瞳をキラキラと輝かせる『パフィン』と名乗った女の子が三人に詰め寄ろうとすると、それを遮るようにジョフロイネコが叫ぶ。


「えー?でも今いらないって……」

「ほ、欲しくないとは言ったでち!いらないとは一言も言ってないでち!」

「それって同じ意味じゃ……」

「と、とにかく言ってないでち!!」


そこへ加わろうとしたガイドからの横槍も大きな声で阻み、ジョフロイネコは男の手にある飴を素早く掴み取る。


「……飴ちゃんは、ありがたく頂くでち。で、でも!ジョフは今食べないでち!あくまでも、ひじょーしょくとして取っておくんでち!」

「……そう?」


慌てるようなジョフロイネコを見た男は、ほんの少し意地悪げに笑うとポケットに手を入れ……


「…………ふわわわあぁ!?」


片手に収まり切らない程の飴の山をジョフロイネコの目の前に持ってくる。


「そ、そ、それ……」

「実はおじさんが持ってる飴は全部、すぐに食べないと溶けてなくなっちゃう飴なんだよ。非常食にしちゃうと氷みたいに溶けて食べられなくなっちゃうかも……」

「ふえぇ!?」

「えぇー!?じゃあじゃあすぐに食べないとだめじゃないですかー!」


ショックを受けたように小さく悲鳴をあげるジョフロイネコに釣られてパフィンもショックを受ける。

そこへガイドがこそこそと男の隣へやって来て耳打ちをし始める。


「……ちょっといいですか?」

「あ……ダメ、でしたか?」

「あ、いえ。食べる事自体は問題ありませんけど……ちょっといい事を思いつきまして。ご協力お願いできますか?」

「え、ええ……」


目配せをして笑いかけるガイドに男は戸惑いながらもそれを承諾する。

二人がこそこそと話している一方、ジョフロイネコは手のひらの上の飴を唸りながら睨みつけ、それを欲しがるパフィンが伸ばす手から逃れようと後ずさりする。


「むむうぅ……今食べないと溶けちゃうでち……でもでも……」

「今食べないならパフィンちゃんがもらってもいいですかー?」

「だ、だめでち!これはジョフがもらった飴ちゃんでち!」

「えーでもー……」

「だめなものはだめでち!」

「はい、ケンカしちゃだめだよ。ちゃんと二人の分もあるんだから」


そこへ男が、今度は両手に乗せた沢山の飴を二人の目の前に持ってきて笑いかける。


「ふわわわわっ!!」

「飴ちゃんがいっぱーい!」


思わず声をあげる二人が手を伸ばし、男の手からはあっという間に飴がなくな……


「はい、二人ともストップ」


……らなかった。二人が手を伸ばした時、そこへガイドが割り込んできたのだ。


「二人にはおじさんから飴がプレゼントされます」

「なら早く飴ちゃんを渡すでち!」

「食べたいでーす!」

「た・だ・し!!」


ブーイングにも近い二人の促しを一際大きな声で制したガイドは、瞳の奥をキラリと光らせ男の手に乗せられた飴の山を強く指差す。


「二人にはこの飴をしっかり、きっちり、ばっちり!半分に分けてもらいます!」


男もこれには面食らったが、すぐに先程の会話の意味と今の制止を結び付け、理解した。

ガイドはジョフロイネコとパフィンに簡単な数の勉強をさせようとしているのだ。

これに気付いた男は、いつの間にかガイドが持ってきた小さな四角い木のテーブルの上に飴の山を移す。


「飴の数はちょうど二人で分けられる数だけあるよ。さて、ちゃんと分ける事ができるかな?」

「うっ……パフィンちゃん算数は苦手です……」

「こんなの簡単でち!半分こなんてちょちょいのちょいで終わらせちゃえば……」


たじろぐパフィンを尻目にジョフロイネコは得意げに飴の山に手を伸ばすが……

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