おじさん、絡まれる③
男はまるで猫のごとく素早い動きで自分から飛び退いた女の子に目をやる。
黄色い髪からは大きな猫のような耳が生えており、まるで本物の耳のようにピクリと跳ねている。
しかも、女の子の臀部からはゆらりと動く尻尾も生えているではないか。
「ジョフさん?お客さんに飛びついたらいけないって、前にジャガーさん達からも言われてましたよね?」
「む、むぅ……ジョフは大人でち!狩りごっこの相手にしていいお客さんの見分けぐらいつくでち!」
「そういう事じゃありません!ケガをしたらどうするんですか!」
その内にガイドと言い争いを始めようとするジョフが喉から出たような威嚇の声を出すのを見ていた男が頭をさすりながら起き上がる。
ジョフの事は初めて見るものの、男は彼女がこのパークにだけ住んでいる不思議な存在、『フレンズ』である事が分かった。
……と理解が追いついた所で不穏な空気になり始めている事にも気付いた男は、二人の間に割り込むように声をかける。
「ま、まあまあ……そうだ、ガイドさん。この子はフレンズさん、なんですよね?」
「え?あ、はい。この子はジョフロイネコのジョフさんですね」
「よろしければこの子がどういったフレンズなのか、教えてほしいなぁ……と」
取り繕うように苦笑いを浮かべる男の言葉に一瞬面食らったような表情を浮かべる二人だが、すぐさま瞳にギラリとした輝きを取り戻したガイドは凄まじい勢いでまくし立て始めた。
「よくぞ聞いて下さいました!ジョフロイネコは別名ジェフロイネコまたはジェフロワネコとも言いまして主に南アフリカにおいて最も多く生息していると言われるネコ科の生き物です!肉体的な成長がとんでもなく早くわずか6週間という期間で完全に一人で動けるようになるんです!ああそれと地毛の色は生息域によって異なりまして__」
「待つでち!!」
息つく間もない怒涛の解説に男が圧倒されている所、突然ジョフことジョフロイネコは大声でそれを制止する。
何事かと大人二人が彼女に目を向けると、それが恥ずかしいのかモジモジしながらもどことなく不満げな様子でもごもごと小さな声で話し始める。
「そ、それはジョフの仲間の事であって、ジョフの事じゃないでち……どうせなら、ジョフ自身の事を知ってほしい、でち……」
「あ……」
それを聞いたガイドの顔からはギラギラとした笑みが消え去り、申し訳なさそうに表情を曇らせていく。
またも気まずい空気が流れ始めようとした時、男がジョフの目の前に片膝をついてしゃがみこむ。
「えっと……ジョフちゃん、て呼べばいいかな?」
「……“ちゃん”はいらないでち」
「じゃあ……ジョフ」
男はポケットから何かを取り出し、ジョフロイネコの目の前に持ってくる。
それを見た彼女の表情は一気に輝きを帯び、悲鳴のような声をあげ始める。
「……ふわわわわ!?」
「飴ちゃん、食べる?」
「食べる!…………ふぁ」
まるで小さな子供のように、男から差し出された小さな包み紙に入っている飴を受け取ろうとしたジョフロイネコだが、直後に我に返ったかのように男から後ずさる。
「ジ、ジョフはそんな手には引っかからないでち!大人が食べるのはワサビ茶漬けでち!あ……飴ちゃんなんか、全然欲しくないでち!」
と言いつつもチラチラと男の手の中にある飴に視線を送るジョフロイネコに、男の表情が心なしかほころんでいるようにも見えるガイドがクスリと小さく含み笑いをこぼす。
と、その時。
「ジョフちゃんが食べないなら…………その飴、パフィンちゃんにくださーい!!」
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