おじいさん
文鳥
おじいさん
古びたアパートが かっこよく見えた
寒い夜の 満員電車
あと一駅と 疲れた体に鞭打って
空いた席を前に つり革握り直した
視界の隅から 現れたおじいさん
目の前の席に どっかりと座った
あんちゃんは強いね
彼はそう言って笑った
ごめんな おじいさん 俺 強くなんかないんだ
今日だっていっぱい いっぱい逃げて来たんだ
突如傾く車体 やがて地面に衝突する
笑んだおじいさんは死んだ
僕の下敷きになって死んだ
夢中で駆けたら汗かいて飛び起きた
夢だったんだと安堵してため息ついた
けどおじいさんの事が 悲しくて仕方なくて泣いた
俺にとっちゃ夢だが 彼にとっちゃ現だ
ごめんな おじいさん 俺 強くなんかないんだ
あれからしばらく電車が怖くなった
おじいさんの笑顔
思い出すと今に泣きそうになるんだ
たかが夢と笑われるのも承知だ
だけど俺はあのおじいさんに救われた
感謝しかねえんだ
一つ枷が減ったんだ ありがとうを言わせてよ
古びたアパートが廃れて見えた
寒い夜の 満員電車
あと一駅と 疲れた体に鞭打って
空いた席を前に つり革握り直した
もうあのおじいさんは来ない
だってあれは夢だったから
駅に降りてドアが閉まるその時
あんちゃんは強いね
そう聞こえた気がした
おじいさん 文鳥 @buncho321
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