第14話 ー稽古の章 4- 槍 対 刀
喰った喰った。朝から死ぬほど喰わされた。俺はげふうとゲップを出しながら爪楊枝でしいしいする。
「
ひでよしがじと目でこちらを見てくる。おれは構わず、腹をぽおんぽおん叩きながら
「げふう。ごちそうさあん」
田中までも俺を変な奴を見る目で見てくる。
「きたないやつだぶひぃ。三十路のおっさんだぶひぃ」
「オウ。
「うっせ。ほんとの三十路といっしょにすんな。これでもまだ18だ!」
「んんー?俺はまだ20代ですよお?きみたち、喧嘩を売っているのかなあ?」
俺は後ろを振り向く。そこには両手をぺきぺき音を立てながら握りこぶしを作っていく、おっさんがいた。
「やっべえ。おっさん来た。にげろ!」
俺たちは蜘蛛の子を散らすかのように席から飛び上がり、逃げ出す。
「はあはあ、なんでわたしまで、逃げ出さなきゃならなかったの、でしょうか」
「ああ、ノリだよノリ。俺たち4人は一蓮托生だろ。ひとりが困ってるなら、みんなで困らないとな」
なんか、一蓮托生の使い方が間違っている気もするが気にするな。身体の血が胃のほうに取られて、頭が回らないんだ。
「今、逃げたところで、あとの訓練で顔を合わすぶひぃ。ああ、しばかれるのは変わらないぶひぃ」
田中がやれやれと言った表情をしている。逃げなきゃよかったという感じだ。
「しょうがねえだろ。まさか本人が後ろにいるなんて思いもしなかったんだ。大体、佐久間さまがおっさんなのが悪い」
「おうノウ。まだ言っているのデス。神様、
「まあ、過ぎたことは置いといて、朝飯の次は何をやるんだ?」
「軽く食後の運動をしたあと、槍の訓練だぶひぃ。そして、弓、相撲と続くぶひぃ」
「槍かあ。ほんと触ったこともないんだよなあ。むずかしいもん?」
「槍をさわったこともないって、どんな生まれなんだぶひぃ。ひでよしはどうなんだぶひぃ」
「わたしは以前、足軽をやったことがあるので一応、使えます。あ、でも使えるってだけです」
「織田家の槍は特殊なのデス。たぶん、見たらびっくりすると思うのデス」
俺はふうんという感じで適当に流して聞いていた。槍よりも刀の訓練してほしいぜ。ばっさばっさと斬り結ぶ。かの宮本武蔵みたいに刀でデビューってのもわるくないな。
俺はふふっふふっと笑っていると、ほかの3人は気味悪がる感じで俺をみていた。へっ、お前ら、今はそんな目で見ているかもしれんが、将来、俺がどんなふうに化けるか見てやがれよ。
「しっかし、なんで刀の訓練は無いんだ?槍なんて雑魚が使う武器だろ」
「あ、あの、
ひでよしがやや本気で俺を心配するような目で見てくる。
「俺、槍より刀のほうが素質あると思うんだよね。ちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍できそうな感じ。特に根拠はないけど」
「ううん。なんか根本的な治療の必要がありそうだぶひぃ」
「ちょうど、訓練前の準備運動として、槍と刀で対峙してみたらいいのデス」
「そ、そうですね。
ひでよしはそう言うと、訓練用の刃先がついてない槍と竹刀を持ってきて、竹刀を俺に渡す。
「ん、なんだ、ひでよし。これでどうしろっていうんだ?」
「じ、準備運動の代わりに、勝負、です。構えてください!」
いつの間にかギャラリーが周りを囲んでいた。やんややんやと声をかけられる。
「おう、竹刀の兄ちゃん。せいぜい頑張れよ!」
「おおい、そこのちっちゃいの。お前のほうに賭けてるんだから負けんじゃねえぞ!」
いつの間にやら賭け事まで始まっている。ちっ、しょうがねえ。ここは秘められし力が目覚めるには、ちょうどいいイベントだ。
「おい、ひでよし。昨日は相撲で負けちまったけど、今日は武器ありだ。後悔するんじゃねえぞ」
俺は、竹刀を両手で握り、上段で構える。対して、ひでよしは身体を俺に対して左側を前とし、槍を下段で構える。
「い、いつでもきてくだ、さい。1本でもわたしから取れたら、なにかひとつ、
勝負は3本勝負で2本先取で勝ちというルールだ。それなのに1本でも取れればだと、ひでよしめ。2本速攻、とってやるぜ。
俺は威勢よく、ひでよしに突っかかっていった。しかし、ひでよしの槍が横に薙ぎ払われる。俺は足を槍でからめとられ転ぶ。そこからひでよしは、槍を上段に構え直し、突っ込んでくる。
「おっとあぶねえ!」
俺は寝ころびながら横に転がり、同時に竹刀を地面すれすれに振るう。当てずっぽうで振ってるんだ、当たるわけがない。だが、ひでよしは突っ込んでくるのをやめた。とりあえずのピンチは防げたようだ。
おれは立ち上がり、上段構えは舐めすぎたと考えなおし、中段に構え直す。ひでよしも槍を中段に構え直す。じりじりと俺は、ひでよしの背中側、左側に回り込むように円を描くように足をさばいていく。
ひでよしはその場から動かず、軽く身体の向きだけを変える。
ひでよしとの真剣勝負が始まったばかりだ。俺はひでよしの隙をうかがうべく、竹刀を前後に振るう。ひでよしの槍先がぴくりと動く。よし、誘えた!俺は、ふところへ飛び込むと同時に、竹刀を上段へ構えなおし振りおろす。
もらったと思った。だが、竹刀は全く、ひでよしに届いていない。何がどうなってやがる。俺は沼地に足をつっこんだような感覚におそわれた。やべえ、これは勝てるのかと疑問する俺だったが、すべて、後の祭りだった。
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