オタクと、ラジオ
7話
横島輝義は声優である。
人気声優とは言われてはいたものの
然し、彼は知っていた。
自身が本当に、名ばかりの人気声優だという事を。
人気。
人の心も無しに、何が人気なのだろう。
自分の、何処に、人の気心があるというのだろう。
集まっていると、言うのだろう。
理不尽がモテはやされている中で
そんな所の上部にたって
なんの意味がある。
自分に、なんの実力が
なんの力があるというのか。
何もしていない。
結局、俺は
俺は何も。
出来て何ていないじゃないか。
頬に、熱い温もりと共に
薄い刺激が迸る。
アイツが、居なかったら
ああやって、人間で居てくれなかったら
俺は、今頃、どうなっていたのだろうか。
俺、横島輝義は、声優だ。
声優という
人間として、演技をして
人間として、役者を担い。
人間として、作品を作る。
そして、人間らしく
全てを救う。
生きてみせる。
もう、誰にも俺の心は隠させない。
そんな、俺
横島輝義は
今、スマホの前で緊張していた。
<「 ごめん、御弁当忘れちゃってさ
良かったら、何か食えるもの
適当に持ってきてくれないかな? 」
本当は、今から家に帰って
持ってくる程の時間はある。
というか、それを想定して
今日は、かなり早めに現場に来たんだ。
なのに、何故
俺が態々、こうして嘘をついているのか。
それは、たった一つの説明で片付く。
あの子に、此処に来て欲しいからである。
「( 送、信・・・! )」
「 横島さん、大丈夫? 」
「 ああ、はい!
大丈夫です。 」
背後から声が聞こえ
驚きの余り、体をどたばた跳躍させる輝義。
同時に、慌てて視線を向けると
自身のマネージャーの女性が部屋の扉を開けたまま
此方を見ていた。
恐らく、メンバーへの顔合わせとは言わずとも
一通りの会話をして
仕事にひと段落も着いたから
様子を見にでも来たのだろう。
「 そう・・・?
なんか、すごいそわそわしてたから。 」
「 まぁ、まだ時間あるし
ゆっくりしといてね。 」
「 はい 」
マネージャーの伊戸楓は
そんな彼の様子に
微笑みを返し
一度、部屋を後にした。
私は、横島輝義のマネージャーをやっている。
割と彼が新人の頃から、彼の事は見て来たつもりだ。
最近は、あの子の表情に
笑顔というか
感情というか
あの子自身が、見える様になった気がする。
ただ・・・
・・・落ち込んでいた。
いつも、そんな様子だった。
成功しても、失敗しても。
・・・いや、失敗していたのかもしれない。
そんな彼が
ある日、元気を持つ様になった。
取り戻したと言うべきか。
・・・やっぱり、切っ掛けは・・・
監視カメラに映っていた、
どう見ても、あの子が殴ったのは
アレの意味不明な暴動に対する正当防衛だったし。
今、現状、横島くんは、その子と
随分、親し気にしているみたいだったし
何方に対しても、咎める理由も無いから
話も流れたけど。
あの子は・・・、また来てくれるだろうか。
・・・もう一度。
もう一度だけで良いから、あの子と会いたい。
会って、話をしてみたい所だが・・・
ピピッ!
「 ? あれ、メール着てる 」
「(横島さんからだ!
何々・・・?)」
『 ごめん、お弁当忘れちゃってさ!
良かったら、何か食えるもの
適当に持ってきてくれないかな? 』
「 (お弁当、か!) 」
「(北丘さんは、今日は一人で
仕事に出ているし
僕も、特にこれから予定がある訳でも無い。)」
態々、連絡をするまでに至ったって事は
恐らく、本人はもう仕事場にいるって事だ。
となれば、慌てず、且つ迅速に。
キッチンの方に視線を向けて
記憶を探る。
「(材料も、確かあったはずだし。
うん、作れるな。
どれくらい余裕があるかもわからないけど
とにかく、なるべく急いで作って持って行こう。) 」
そうと決まれば
善は急げだ。
適当な弁当箱の中に
浅漬けやら御米やら
御魚なんかを詰めて・・・。
後は、レモンの蜂蜜漬けと・・・
うーん・・・、お味噌汁も欠かせないよね。
よし、準備完了!。
服を着替えて。
荷物をバッグに入れて
出発!。
・・・移動費、あるよね?
うん、大丈夫だ。
扉を開けて、鍵を閉める。
・・・目の前にはピカピカの扉がある。
なんだか、実感が湧かない。
有名アーティストと一緒に住んでるから
とかじゃなくて。
自分が、友達の家に泊まっている。
今まで、こんな事無かったし。
自分の行動が周囲に齎している効果に
自分が齎した現実に
自分の感覚が、着いてきて無い。
慣れない。
まぁ、着いて来ようと来まいと
僕は、前に進むだけなんだけど。
・・・鍵閉まってるよね。
よし、OK!。
徒歩で駅まで向かい。
携帯で、電車をチェックする。
電車に揺られる。
位置情報は、送られていた。
・・・本当に、此処で大丈夫なんだよね?。
<「すぐ向かいます!
・・・一応、聞いておきますけど
位置情報合ってますよね?」
<「んぇ?、ああ!
大丈夫大丈夫!
・・・大丈夫な、はず。
・・・ちょっと待って!
改めて送るから! 」
ピロピロリ
<「(位置情報)」
<「うん、大丈夫!」
<「よし!」
<「じゃあ、入口の辺りで待ってるから!」
・・・一応、美味しくは作れたと思うけど
味・・・、大丈夫かな?
魚苦手だったりとか・・・。
・・・不安になってても仕方ないよね!。
~♪
そのまま、じっと座っていると
ふと、車内アナウンスが流れた
この駅が目的地だ!。
ドアが閉まっちゃう前に降りよう。
目的地へ、歩いていく。
バスでも良いけど・・・
目的地の風景も分からないし
最寄りの停車地点の名称も分からないし
今から調べるのにも、時間が掛かりそうだし
それなら、歩いて行った方が効率的だし
尚且つ、早い。
駅からも近いし
遅れるって事も無いはず。
タクシーは・・・
・・・そんなお金は無いです。
何度か立ち止まって
携帯で地図を確認。
もうちょっと真っ直ぐ。
次の御店を曲がって・・・。
「( 此処・・・、かな? )」
「( うわ、でっか・・・。 )
大きめだけど、高さは低めの門が両側に開かれていて
奥には、大きな建物がある。
スマホの画面を見ても
確かにその場所に
位置情報のピンは突き刺さっていた。
「 よっ! 」
不意に、聞き覚えのある声が聞こえ
其方へと視線を向けると
其処には
「 輝義さん! 」
人類よ、大志を抱け。 下園 悠莉 @Yuri_Simozono_2017
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