5話







『 僕は、まだ

  見た事が・・・、無いんです。 』


『 人間の・・・

  心からの、笑顔って奴を。 』


『 見てみたいんです。

  心からの、人間の笑顔を。 』


『 この世界の、平和を。 』





















「 ・・・ふぅ 」



デスクの前に並ぶ大量の資料。

長時間、それと格闘し続けていた誠は

一度、背もたれに背中を預け

天井を見上げる様な形に体を休め

鼻の付け根の辺りを指で揉む。




・・・昨日の物件は、ハズレだった。

結局、戦闘になっちまったな・・・。

勿論、収穫が全くなかった訳じゃない。

これによって確実に見せてやりたい景色には

近づいているのは分かっているし。

見抜き方も、少しずつ分かって来ている。

得るものはあった。





ガチャ。


「 誠さん 」


「 ん・・・? 」


「 お疲れ様です。

  コーヒー淹れて来ましたよ。

  お好みで、ミルクもどうぞ。 」


「 お!、サンキュー!。 」


「 いえいえ 」


「 ナイスタイミング!。

  ちょっとゆっくりしたかったんだよ。

  相変わらず気が利くなー・・・。 」




仕事場である俺の自室の扉が開き

中から、少年がトレイを片手に

姿を現した。


少年は、トレイの上に乗ったマグカップや

ミルクカップをデスクの上に置くと

トレイを自身の胸元に抱える様に収めながら

俺の前にある資料を覗き込みつつ話を続けた。




「 へへ・・・

  あぁ!、そうそう。

  御仕事の方は順調ですか? 」


「 うーん・・・、まぁまぁかな・・・。 」


「 どれどれ・・・、ふむ・・・

  前回の物件はハズレだった訳ですね・・・

  でも、対策はとってあるんですよね? 」


「 ああ、一応な

  今度は、こっちの物件に出向いてみるつもりだ。 」


「 ほう・・、どれどれ・・・、ふむ・・・ 」




最初、俺がこうやって行動を起こす事に

というか、俺がこうやって行動が起こすという事象が起こった事

その現実そのものに、心意は

何処か、驚くというか

困惑するようなそぶりを見せていた。

多分、信用出来なかったんだと思う。


俺自身の事、というよりは

自分が周りに与える影響力の強さを

信じる事が出来なかった。

俺自身が、どれくらい目が覚めたのかも

その実力も、まだ知らなかったから。

頭では理解していても

細やかな不安が残っていて。


それが、俺が自分自身で動くと宣言した事に反応して

困惑してしまったんだ。


まぁ、どうにか信じて貰おうと

無理矢理連れ回して

今、どうにかこうにか此処まで来られたけど。


俺自身としては

コイツには、俺の実力は十二分に伝わっていると思う。


多分、きっと。






「 くーーーッ!、コーヒーのカフェインと

  ミルクの糖分が体に染みる・・・・! 」


「 お疲れ様です。

  何か、スイーツでも作って来ましょうか?。 」


「 お!、マジ!?

  頼む頼む! 」


「 ふふ、了解致しました。

  それでは、少々お待ち下さいね。 」





ふと、静かになって

デスクの前の資料に意識を向ける。


人とは、常に最善を求めるものだ。

そして、最善だったものの先の最善が見つかった時

その最善は、失敗となる。

失敗だと分かっているのにそれをして

失敗したと言い張るのは、ただの言い訳だ。

そもそも、間違っている事を

なんの目的も無しに行えるのは

その時点で、それは人とは言えないだろう。





偶に思うんだ。






「 出来ましたよー 」






自分は、人になれたのだろうか、って。




「 ・・・? 」




人に・・・。




「 誠さん・・・? 」











「 ・・・あったかい 」










「 ・・・へへ、良かったです!。 」









ありがとう、心意。


















~~~~~~~~~~~~~~


















「 ・・・ん・・・!? 」





はッ!?、しまった!

寝ちゃってた!!!。

えっと!、えっとぉーーー・・・、時間は!?



時刻は、八時頃。

ちょっと遅め・・・かな。



毛布をベッドの上へ置いて

扉を開け、リビングへと向かう。

其処から見えるキッチンには

現在、料理を机に運んでいる途中であろう

心意の姿があって。






「 おはよう、心意 」


「 ああ! おはようございます、誠さん!

  今、起こしに行こうかと思っていたのですが・・・

  ・・・すみません、物音で起こしちゃいましたか・・・? 」


「 いやいや、十分寝れたから大丈夫だよ。

  だけど・・・、椅子で寝ちゃってたもんだから

  少し・・・、体が怠くて痛い・・・! 」


「 食後でも、今でも構いませんが

  少しストレッチでもされたら如何です?

  それだけでも、大分変わると思うんですけど。 」


「 うーん・・・

  御飯食べた後にするかな。

  腹が空いては戦は出来ぬ!、とも言うしね! 」


「 了解致しました。

  それでは!、いただきましょうか! 」


「 ん・・・、ではでは 」



二人は机を挟んで料理と向き合う様に椅子へと座り

手の平を合わせて。



「「 いただきます! 」」



誓いの言葉を述べて

食べ始めた。





「 んーーーーー、今日も美味い! 」


「 それは良かったです。

  ・・・ん、あ、美味しいですね! 」


「 だろ? いい感じにバジル効いてるなぁ・・・

  切る感覚を変えるだけで此処まで違うのか・・・ 」


「 どんな食材でもそうですけど0.何ミリという概念が

  大きく触感や味を、食材の性質を変えますから。

  それも、同間隔ではなく

  合わせる食材やどういったコンセプトで作るのか

  同棲させる調理方法によっても

  疎らであったりと、最善は変わって来る。

  食材の声を聴いて、それを引き出し

  総てを引き出し、より命を

  心を、力を受け継げるようにする。

  それこそが、人の心が

  優しさが、なせる技、なんでしょうね。 」


「 料理だけの話じゃない。

  最善を求めるっつーのは

  どんな分野でも、重要なものだ。 」


「 はい、その通りです。 」




「 ・・・そういえば

  誠さん、今日は御仕事は・・・? 」


「 あー、今日は休みだ。

  ・・・ちょっと息詰まっててな。 」


「 なるほど・・・ 」




誠の様子に状況を察した心意は

少し思案した後、言葉を続けた。




「 ・・・それじゃあ

  別の方向から責めてみる。

  というのは、どうです? 」




そう言って、一度食事の手を休め

懐から、携帯を取り出せば

少し操作して、液晶を誠に見せた。




「 ・・・なるほど、ゲームか 」


「 はい、オンラインゲームです。 」


「 FPSも考えましたが

  FPSの場合は、あまりチャット機能を使うという事が無い。

  というか、現在はプレイヤー同士の交流が少ない傾向にあります。

  (ゲームによっても変わりますが) 」


「 ですが、ソーシャルゲーム。

  MMORPG、MORPG。

  こちらも、ゲームの品目によって差異はありますが

  互いに役職を決めて助け合わなければ攻略は難しい

  といったシステムがある関係上。

  FPSよりは、チャット機能を使う機会や

  プレイヤー同士の交流する機会が多い傾向があります。 」


「 其処で、俺たちが遊んでいれば 」


「 運営にしろ他プレイヤーにしろ

  影響力は与えられるはずです。 」


「 それに・・・ 」


「 一人ではありませんから。 」



「 一人では出来なかった助け合いや

  お互いをお互いに助長させる事が出来る。

  同時に、影響力もそれに呼応して高くなる。 」


「 という事か? 」



「 そういう事です。 」




「 ふむ・・・、いい案だな!

  それじゃあ、今日はその方向で進めて行こう。 」


「 はい!

  ・・・あ、でもPCが・・・ 」


「 俺の外出時用のノートパソコンがあるから

  俺がそれを使おう。

  性能には、多分、問題はないはずだし。 」


「 ・・・分かりました。

  では、お借りしますね。 」


「 とりあえず、その前に

  食事やらストレッチやら

  済ませちゃいましょうか。 」


「 そうだな。

  んー・・・、美味い!。 」


「 ん・・・、美味しい。 」







「 にしても、MMORPGなんて久しぶりだなー・・・ 」


「 ん・・・、そうなんですか? 」


「 まぁ、仕事の大半コンソールゲームとか

  アーケードゲーム関連だったりするからな。

  オンラインゲーム自体、あんまり触った事無かったんだよ。 」


「 お前はどうなんだ? 」


「 うーん・・・、初めてって訳でも無いですけど

  そんなにやり込んだ事は無かったですね。

  特に、誰かとこうして遊ぶっていうのは・・・、あんまり 」


「 おお、そうかそうか!

  沢山、思い出作ろうな! 」


「 はい! 」







「「 御馳走様でした! 」」





食後の誓いの言葉を述べた後

心意は、皿洗いや洗濯等の家事

誠は、その間に軽いストレッチとゲームの選択を済ませた。


僕が、用事を済ませ

仕事場へと入ると

小さな机の上にノートパソコンを置いて

それを向かい合う様に座っていた誠さんが居た。





「 調子はどうですか? 」


「 うーん・・・、まぁまぁ

  良さげなのは見つけたよ。 」


「 体の方は・・・? 」


「 大分、楽になった!。 」


「 それは良かったです!

  それでは、始めましょうか。 」


「 おう! 」





僕は、デスクに腰を掛け

画面を見つめた

暇だったのか、優しさなのか

恐らく、両方だろうが

既に準備は整えられていた。

・・・ちょっぴり肩身が狭い。




「 通話しながらやろうぜ! 」


「 ・・・此処に本人が居るのに

  通話で話すっていうのも

  なんだか、変な感覚がありますね。

  (通話で話す理由は分かりますけど) 」


「 ハハハ!、そうだな。

  ええっと・・・、あーっあーっ!

  ・・・聞こえるか? 」


「 はい、大丈夫です。

  此方は・・・、えっと

  マイクマイク・・・

  ああ!、これか!

  聞こえますか? 」


「 おう!、大丈夫だ!

  それじゃあ、まずはキャラメイクキャラメイク・・・っと。 」




カチカチとマウスやキーボードを操作する音が聞こえる。

ヘッドフォンなので、周囲の音は遮られていて

聞こえづらく。

二重に聞こえる、といった事は余り気にならなかった。


僕も、自分のキャラを作り始めた。





「 こんなもんかな・・・ 」



「 俺は、先チュートリアルやってるぞー 」


「 早っ!、流石ですね・・・ 」


「 ふっふっふ、先に行って待ってるぜ! 」


「 了解です。(急がなきゃ) 」





操作感覚は、それほど難しくは無かった。

システムは、クリックして自動というより

少しアクション表現の入ったもの。

世界観は、ファンタジー。





「 すみません!、遅れました。 」


「 おお!、待ってたぜ。 」





id sound_voltex


name 奏

sexual 男

job 戦士





「 奏さんは、戦士なんですね。 」





id _justice_


name 光

sexual 男

job サムライ





「 エンハンサーとかとも迷ったんだけど

  まぁ、無難な所でな。 」


k・・・


「 光は技量系か! 」


「 はい!。僕もフォートレスとちょっと迷ったんですけど

  技とかがカッコよかったし

  使いやすそうだったので、こっちで・・・、えへへ 」


「 フォートレスは盾役だったっけか。

  戦士でも代役出来なくはないけど

  フォートレスは専門職的な。 」


「 はい!、戦士でも敵を引き付けて

  盾で受ける戦い方は可能ですけど

  フォートレスは、確か・・・

  敵から受けた攻撃力を利用して

  強力なカウンター攻撃が出来る職・・・でしたっけ?


  戦士は、汎用性が高く

  バランスの良い職の一つですけど

  その中でも、サムライは速さに。

  戦士は、攻撃力に寄った職でしたね。 」


「 ボタン一つで、全装備を切り替えられるっていうのが

  ちょっと気になるんだよなー・・・ 」


「 腐る装備が少ないっていうのは

  魅力的ですよね。 」





「 そういえば、奏さんのキャラクターは

  背が高いんですね。 」


「 まぁな、筋肉ムキムキにしてあるぞ!

  逆に、お前は、ショタって感じじゃないけど

  痩せ気味で小さめなキャラクターなんだな。 」


「 あはは・・・、その、扱いやすくて

  結局、こう纏まっちゃうんですよね・・・ 」





「 とりあえず、歩きながら話そうぜ。 」





それから、一区切りつくまで

メインストーリークエストを進めてみたり。





「 やっべッ!、スタン!? 」


「 おおおおおおおおおおお!!!!!! 」


「 うおお!?、サンキュー・・・!

  ひー・・・危なかった・・・ 」


「 あのモンスター、麻痺属性の魔法攻撃なんて撃ってくるんだね。 」


「 というよりも、アイツ短杖に持ち替えて無かったか? 」


「 って事は・・・、スイッチシステム

  敵も使ってくるのかな? 」


「 うーん・・・、単なる持ち替えかもしれないし

  断定は出来ないよなぁー・・・ 」


「 とりあえず、魔法防御系の盾も買っておいた方が良いかもしれないね。 」


「 一旦、街に戻って装備確認してみるか 」




サブクエスト進めてみたりして

一区切り付くまで、プレイしてみた後

イヤホンを外して、お互い向き合い。









「 やっぱり・・・、なんていうか

  どの構成も不自然だよな。 」


「 不気味、ですよね。 」


「 具体的にって言われると

  多過ぎて逆に収集付かないけど。 」


「 強いて、その中から一つ摘み取って言うのであれば。 」



「「  」」











「 ・・・でも 」


「 ・・・? 」






「 きっと、みんなが心から笑顔になれば

  面白いゲームだらけになって

  沢山、そんな面白いゲームを遊べる様になるんでしょうね! 」


「 すっごく、楽しみです!! 」




「 ・・・!!! 」



「 ああ、そうだな 」














ピンポーン



突然、聞きなれたインターホンの音が

部屋中に鳴り響いた。

誰だろう・・・?

誰かが訪ねて来る予定は無かったはずだけど・・・。







「 ちょっと出て来る 」


「 分かりました。 」




俺は首を傾げながらも

確認もせずに無視する訳にもいかないので

席を外す事を心意に告げると

床から腰を上げて、部屋を後に

玄関へと向かった。


玄関の扉を開けると

其処に居たのは・・・











「 ・・・なんでお前が・・・!? 」




「 ・・・悪い、通してくれ 」




「 ちょっと!、てめえ!!!待ちやがれ!!! 」







誠の静止を振り切り

男は奥へと進んでいく。

そして、人気のある扉の方へ向かい







「 ・・・貴方は・・・ 」






勢いよく開いた扉に

当初は、誠かと思っていた少年は

違和感を感じながらも振り返り。

その男の姿を目の当たりにする。



開幕、男が放った言葉は































「 俺と!、連絡先を交換してくれ!!!! 」
































 「 ・・・は? 」


























「 ああ、えっと・・・、構いません・・・、が・・・

  ・・・とりあえず、御茶でも・・・、如何です、か・・・? 」

















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