3話
暫く歩いた事で、少し喉も乾いて来たので
近くの自動販売機にて
ペットボトルジュースを一本を買い
傍にあったプチソファ的ベンチで一休み。
道中では、特に何かあった訳でも無く・・・。
と言うか、ずっと歩いていただけだった。
分かっていた事ではあるが
やはり、施設内には
おおよそ活気と呼べるものが
これっぽっちも、感じられない。
レコーディングルームらしき
マイクの並んだ部屋が
幾つも、此処には在った。
本来ならば、スタジオや楽屋
打ち合わせも兼ねて使われる施設なのだろう。
誠さんは、恐らく
その本来、打ち合わせに使われる部屋で
戦闘を行っているはず。
「 此処・・・、良いかな? 」
暗い霧に身を包んだ男が
彼の傍に近寄って来る。
「 はい、良いですけど・・・ 」
少年は優しく微笑み。
隣のスペース空けた。
「 はは、ありがとう。 」
薄い布地に身を進んだ男は
口を開いてこう言う。
「 君は・・・、見た所。
芸能人って訳では無さそうだけど
どうして此処の施設に?。 」
「 友人の付き添いで。 」
「 ああ・・・、なるほどね。
友人かぁ・・・いいなぁー・・・。 」
「 羨ましいのですか? 」
「 え?、ああ・・・、まぁね。
そういう外の世界の友人がいるっていう事は
此処じゃあ、珍しいから。
特に、僕みたいな職種だと
尚更ね。 」
「 うーん・・・
どういう御仕事をなさっているのですか? 」
「 ん?、俺?
ああー・・・、声優だよ。
巷じゃあ、今話題の人気声優!
・・・なーんて言われてるけどさ。
実際の所、実力で言えば
まだまだ新人の若手声優ってだけだよ。 」
「 そういう・・・、もの・・・、なんですかね。 」
心意は、警戒していた。
そうせざる負えなかったのだ。
男から立ち込める暗い霧。
正体は、分かっていた。
いや、分からずとも警戒はしていただろう。
何かある。
何かしてくる。
その予感を、少年は感じていた。
故に、警戒心を滾らせていた。
「 そうふらっと、外に出ると
ギャーギャー騒がれてさ。
まともに、会話できる連中が居ないんだよ。
それも、最近だと
遂には、職場にも
そういう輩が出てきてさ。
もう・・・、てんやわんやっていうか
なんていうか・・・ 」
「 ふむ・・・ 」
「 ねえ、君。
少し、質問しても良いかな? 」
「 ・・・はい、なんでしょう? 」
「 こんな事を初対面の君に言うのも何だと思うけど。
・・・いや、初対面だからかな。
部外者だからこそ、って・・・
奴なのかも・・・、しれないけど・・・ 」
「 君は、声優ってものに関して
どう思ってる?
俺は・・・
・・・一体、どうしたらいいのかな? 」
「 うーん・・・そうですねー・・・ 」
「 声優ってものは
役者という大きな分類の中の
種類の一つだ。
声のみの使用して
その登場人物を表現する仕事。
より明確なキャラクター情報を
アニメーションにしろ、ボイスドラマにしろ
その作品に、与える仕事だ。 」
「 良い演技をする為には
良い声色を出す為に
良質な、心が必要不可欠だ。
その登場人物の魅力。
その作品の魅力。
その世界の魅力を感じ取り
識別し。
時には、断るという決断力も必要と言えるでしょう。 」
「 仕事というものは
お金の為にあるものじゃない。
それは、そもそも
お金の無い時代まで遡って考えてみれば
明確に分かる事だ。 」
「 仕事とは、あくまで
役割の同義語だ。
その意味は、経験は。
誰しもが一度は触れているはずだ。
小学校や幼稚園、保育園などで
一つの、”係”という形を借りて。
誰だって、学んでいるはずだ。
一つの
それが、未来的な
自分の利益を切っ掛けとしたものなのか
それとも、他者の事を想った事が切っ掛けなのかは
個人に依って別れるが
より良い
皆、誰も変わらない。
逆に、それに反する行いをすれば
先生に叱られる。
悪い事が自分に帰って来る。
といった具合でね。 」
「 な、何を言ってるんだ・・・・!
そんな・・・そんな・・・!
ほざけ!
そ、そんな現実がある訳・・・!! 」
「 あるさ、絶対に。
これは理想論じゃない。
確りと、実験と観測を行った結果の
れっきとした理論だ。 」
「 そうだな・・・
僕は、今
ペットボトルのキャップを開けた。
喉が乾いていたから
それを満たす為に。
一番手許にあった中身の入ったペットボトルの
キャップを開けて、口にジュースを注ぎ込んだ。
そして、それを飲み込んだ。
だが、喉の渇きをどうにかするという目的を達成するのなら
そもそも、今、自分の口の中を噛み切って血を飲んで満たすという手段もある。
もう一本ジュースを買うという手段も
水道に行くという手段もある。
だが、それを僕が今しないのは
それが僕の今の目的を満たす上で
最善だと思ったからだ。
僕が僕の口を噛み切れば
怪我をして、それはそれは痛いだろう。
僕は、痛いのは嫌だ。
それに、僕が怪我をすれば
誰かがきっと悲しむし
僕がそれを許しても
僕の体は、きっと嫌がると思うし
怪我をすれば、その分
死んでしまう命もあるだろう。
そんなのは悲しいし
僕は、悲しいのは嫌だ。 」
「 もう一本ジュースを買うにも
その予算があるんだったら
駄菓子だって買えるはずだ。
駄菓子が買えるのなら
もし、両親や兄弟、家族、友人の為に
プレゼントとして
御菓子を買おうにもお小遣いが足りなくて買えない。
そんな状況を抱えた子供と出くわした時に
役に立つかもしれない。
確かに、確率としては
そんな事があるか分からないけど
決してない、なんて断言する事も出来ないだろう。
意図的に、そういう優しい子供を
殺しまわってたりしない限りは
そう言い切る事は、難しい。
なら、念の為もっておいて損はないはずだ。
その助けた子供が
もしかしたら、お金持ちになって
あの時がありがとうございましたー、なんて。
鶴の恩返しが、あるかもしれないし。
勿論、その為に溜めていたら
本末転倒だとは、思うけどさ。 」
子供は、純粋だから
そういう曲がったものを見て
真っ直ぐに育てる程
強い訳じゃない。
だからこそ、子に夢を与える
大人という存在は。
いつだって真っ直ぐでないと。
例え、どんなに汚れた過去を持っていても
真っ直ぐに。
「 そして、僕は今
誰の悲しみも生み出さず。
故に、自分を悲しませるような事も無く
それでいて、喉の渇きを満たすという目的を達成し
つまる所、最善の未来を掴み取ったという訳だ。 」
「 うるさい・・・
うるさいうるさいうるさいうるさい!!! 」
少年に向かって、醜い姿露わにして
それは襲い掛かる。
少年は拳を握り
鈍い動きをしたそれを
勢いよく、殴り飛ばした
それは、廊下に倒れ込み。
「 ・・・げほぁ・・・ッ!!! 」
「 く・・・は・・・・・・・ッ 」
「 アンタの行動に理由がない時点で
最早、其処に”戦闘の余地”なんて
はなっから無いんだよ。 」
「 僕は、天才でも無ければ
超能力も持たない。
ただの、一般人だけど。
強さで言えば、3なんて数字しか出せない。
弱い存在かもしれないけど。 」
「 それでもアンタは、1でもない。
0だ。
無意味なことをしているんだから。
なんの心も無い事をしているんだから。 」
「 1だったらまだわかる。
勝敗は分からない。
ぶっちゃけて言えば
1だったら、僕はもしかしたら
負けていたかもしれない。 」
「 でも、アンタは0だ。
だから、上っ面だけの肩書では無く
誰かを救いたいという思いがある分だけ。
僕はアンタの・・・
・・・”先”を行く・・・ッ! 」
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