第4話
目が覚めると、Bは自分の単純さに呆れもする。悪夢で終わった事に、だいぶほっとしている自分を見出したからだ。下着は汗でびちゃびちゃになっている、やけに部屋の中も寒く感じ、Bはぶるっと肩を震わす。Bは、濡れたシャツを着替えようと起き上がる。
胡乱な面でAが戸口に突っ立っている。BからはAの両手が、手首からずっぽりとズボンのポッケに入って隠されて見えないでいる。Bは、これはもしや……とひとりごち。足もとをまさぐるが、何も当たらず、夢の最中でないことに一時安堵する。けれどもBはそこに意味を求めずにはいられない、悪夢が現実に起こらないとは限らないからだ。Bは固まる。
Aが、うなされてた、随分飲んだみたいだな、と言う。Bは瞬時(何も知らないくせに)と平生を装うつもりで、勘ぐる。皮肉か若しくはなにか意図があるに決まっているのだ、とAの言葉に応えず、かえって質問を返す。
今は何時? とBは問う。すぐに、丑三つ時と答えられる。
悪い夢を見たぐらいで何ともないさ(構ってる暇はないんでね、こっちは朝から忙しい)と、暗に言う。そう、Aは素っ気がない。Bには、そもそもの原因がAにあるように思われて、Aの無関心を装う仕草ににわかに苛立ちを覚える。どうした、(普通、社会人なら誰もが寝る時間に)何か用か? Bはこう挑発する。Aはくすりと鼻で笑い、Bを見下げる。何も、(ないよ、同居人が悪魔にうなされてたせいで迷惑なんて……)音がしただけさ、とAは話す。(昼間寝ているからそうなるんだろうが、それも俺のせいにしたいわけだ)、いつもこの時間まで起きてるのか? とBは聞く。Aは棘を隠さず、ああ、(君がドタバタしないこの時間が唯一の自分の時間だからね、この意味分かるよね、つまり君のおかげで)この時間は静かだからな、と返す。
BはAと目を合わせると、腕を組んで、へえ、静かね、確かに(静かだからって、それで何に影響するんだ? 休学して、うるさくても何にも響かないだろ? お前は)重要なことだな、そりゃ、と首を傾げる。
Aは、どうやら自分は神経質らしくてね(もう王様気分なんだな、勝手に上がり込んできて、冷蔵庫も、洗濯機も勝手に使ってさ。)やっぱり、社会人は神経とか性格とか言ってらんないよな、と当てこする。まあ、(学生気分でやってろよ、吠えてたってお前は半端者なんだからな、)さっきも言っけど明日も仕事なんだ、(恋しいならあの女のとこにでも行けよ、まあ、あっちはとっくに男いるけどな)と、Bは立ち上がる。
Aは、知ってるさ同居人だからな、(誰にでもできる仕事を半人前にこなして学生相手に威張ってるってことも、大した優越感だよな)まだ三ヶ月も経ってないんだし、と嘲る。いよいよBには、Aの口調が嫌がらせの類ではなくて、目的があるらしいことを悟る。手をポッケに突っ込んで、もぞもぞとするAに対し、Bの身体は緊張と疲労とために眠気に襲われる。ふと、目を瞑り、はっとする。身震いをして、Aの企みを恐れる気持ちをふつふつと湧き立たせると、募る苛立ちをAの方に押し出す。
だから、なんだ? Bは舌打ちをする。
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