第2話

AとBの仲は少しも良好とはならない。だから、AとBの事を、仲間内でも怪訝に扱う、陰で話題にする。時には酒の席に一つ冗談めかし突っ込んで聞くことも一度や二度ではない。

そういう時Aは煩わしそうに、家賃のためだと簡潔に答える。あながち、そう間違ってもないのだと自分に言い聞かせているが、誰に対して依怙地になっているのか、自分に他意はないはずだ、と思い込む。

そして、Aは自分のように、Bがこれまでも、それも決まってどちらかといえば一人で居ることを好み面倒ごとを大変嫌う優しい人たちの間を腐肉食動物のように渡り歩いていることを聞かされる。つまり噂が、より双方を嫌悪させる。

Aの方では朝か昼に起きて身支度をし大学に向かうが、Bは朝から昼の時間を就寝に使い、深夜にアルバイトをし、暇な時間のところどころを講義に割く。大学内でも、また家の中においても互いに話す言葉の必要は皆無と、Aは考えている。それはBも同じ考えだと、Aは知っている。しかし、薄い壁一枚の境では、とうてい耐え切れない環境音や気配が伝わるものだ。

何の取り決めも無い自分たちの間には必要な礼儀が欠けている、そして、すべてBにあるべき礼の無さのせいだとAは考える。Aは夜中でもかまわず響いてくるBの騒がしさに悩まされる。壁を叩くのが習慣となる。

Aは、Bに直させようと幾度も思いながら、ためらって、直接の実行に移す、とはならない。話し合いの場はつくられない。

Aは、そうすることで起こる将来の疲労を先んじて想像する、踏みとどまる。また、悪癖が働く。

自分も家賃をきっちり払っているのだから何も言われる筋はない、とBは言うにちがいない、と頭から決め付ける。

しまいには、あの部屋を出て行った彼女を思い出して、煮え湯を飲まされた心地になる。Aはひとり自分を慰める。

Aは留年する。些細な人間関係、張る必要のない意地と愚かな自尊心のために、ある日を境に大学に行かなくなる。無論生活は転倒する。

Aは、このままでは未来には破綻が待っている、と感じる。その破綻の一員である世間の目は、両親の仕送りの減額という形で彼を叱責する。

幾つかの交渉が失敗に終わり、苦心の後、Aは、折半だったはずの家賃を多めに出して貰えるようにと、Bに相談を持ちかける。Bは、大して考えることなく、むしろ微笑んで見せて、自分に借金するというAの申し出をあっさり受け入れる。面には出さないが内心で、BはAのことを蔑む。

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