コモン・マジックとコンパイラ

 やあ、こんばんは。それじゃあ約束通り魔法とプラグラミングの話を始めようか。お仕事はどうしたって? 察してくれよ。


 今夜はコモン・マジックについてだ。コモン・マジックは言ってみれば、一番シンプルで基礎的な魔法の事さ。君だって使えるだろう? ああ、そうか。今はもうプロシージャ・マジックから使う時代だったね。それじゃあざっと説明した方がいいかな。


 コモン・マジックというのは、呪文をぜーんぶ詠唱するスタイルが一般的だね。魔法の触媒から素材、そして変成の手順まで全部だ。君も聞いた事くらいあるだろう? 長々と詠唱して、最後に杖や手をさっと振るあのスタイルさ。かっこいいよね。僕は凄い好きさ。詠唱の意味はわかんなくても、ある程度長い方がロマンがあるよね。


 呪文の詠唱は、言ってみればプログラムのコードのようなものさ。唱えた呪文はそのまま世界との媒介になる触媒動物コンパイラへと流れ込み、そこで世界言語に変換コンパイルされて、実行される。そうやって初めて火が吹き出たり、風邪が起こったりするのさ。


 え? じゃあ触媒動物がいない時には魔法は使えないのかって? そりゃそうさ。普通の人はとても世界言語を扱えないだろうし、中間アセンブラ言語だって怪しいものさ。それに、そもそも世界に直接タッチできないだろう? それは彼らにお任せさ。ところで、君の触媒動物は何? 猫なんだ! かわいいねー。いいなあ、うちのはブタなんだ。まあ、可愛いけどさ。どうせなら毛がモフモフしてる奴がよかったな。すっごい硬いんだよ。今度触ってみる?


 で、なんの話だっけ? ああ、コモン・マジックの話だ。ごめんごめん。僕ってばしょっちゅう脱線するね。


 そう言った訳で、コモン・マジックは凄くシンプルで、自分で詠唱を組み立てられるから、何にでも対応できて融通が利くんだよ。自分で全部書くから、術者のスキルに応じて、すごく差が出るスタイルでもあるね。頑張ればとんでもない威力の魔法も打てるし、極めれば相当な所までは勝ち上れると思うよ。まあ、潰しが効く魔法ってとこだね。


 でも、それが弱点でもあるんだけどね。いちいち最初から自分で詠唱を組み立てなくちゃならないから、どうしても詠唱時間が長くなって、その間にスキができちゃうんだよね。詠唱を終えても、発動までにはコンパイルを噛ます分、若干のタイムラグがある。つまり、初手までの隙が大きいスタイルなんだ。いったん発動すれば、そこから先は他の魔法スタイルの追随を許さないほど速く事象を動かせるし、必要なマナの量も少なくて済むんだけどね。


 だから、君がコモン・マジック主体のオールド・スタイルの相手と対決する事になった場合には、出来るだけ速く初手の魔法を打った方がいいよ。今時、オールド・スタイルで来るなんてのは、よっぽどの一発狙いの魔導士の可能性が高いだろうしね。


 ほら、ぷよぷよってゲーム知ってるでしょ。あれですごいデカい連鎖狙ってくるようなタイプさ。最初に足場を崩して、ペースを握らせないようにするのがいいんじゃないかな。


 そうでなきゃ、詠唱スキルはあるけれど、マナが少ないタイプだろうね。他のスタイルだと、悲しいかなハード的に運用できないんだろね。恐らくは、シンプルな命令をとにかく高速で回転させてくるはずさ。こっちのスタイルだったら、ディフェンスにリソースを割いて、じっくりと大技を狙えばいいよ。


 よし、じゃあ今夜はこれくらいにしようか。大分指もあったまってきたよ。一杯飲んで寝るつもりだったけど、もう少し書いてから寝る事にしようかな。つきあってくれてありがとうね。


 それじゃあ、また。え? 次? それはいつになるか約束できないんだ。ごめんね。でも、君がコンテストに参加するまでの間には、きっとまた来るよ。だって僕ときたら、準備体操しないと走り出せないタイプだからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る