【新約】ウィヌシュカは生命を愚弄する。

五色ヶ原たしぎ

第一部

Capture01.千年王国スクルド

第1話 千年王国の終わり。





 次々と湧き上がる紅蓮の炎は城壁を思わせ、立ち昇る黒煙は古の生物ドラゴンを連想させる。連なる轟音の中には、人々の悲痛な叫び声が散らかっていた。


 千年王国スクルドが、たった一夜にして滅びゆく。


 愛する者も、守り抜いた土地も、繋いだ伝統も、あるいは王族の腐敗も──、全ては今こうして、断罪の天秤が導き出した判決の元に裁きを受けたのだ。


 緑の剥ぎ取られた荒々しい高台の上から、この惨劇を見つめる女が一人。射るような眼差しの彼女は、やがて凄まじく玲瓏れいろうな声音で告げた。


「お前たちの不徳は今、世界のことわりによって裁かれた」


 鋭利な死神の大鎌デスサイズを片手に構える彼女の、美しい銀色の髪が戦風そよかぜに揺られる。優雅に翼を広げる大天使と見紛うほど神々こうごうしい姿は、終末の笛ギャラルホルンを吹き鳴らす滅びの使者のように禍々まがまがしくもあった。


 彼女は嫋やかな動作で、翡翠の色をしたサークレットを外す。眼下で滅びゆく千年王国を映す彼女の瞳は、燃え盛る業火の色と同じ紅い憤怒に染まっていた。


 くるりと踵を返し、宵の森へと姿を消していく彼女の名はウィヌシュカ。


 もはやこのスクルド近郊に、人間と云う呼び名を宿した生き物の姿はない。静寂の中に耳を澄ませば、不規則的に爆ぜる火の粉の音だけが響いている。




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