恋愛の神様




「おーい、武則!」


「……ん? 誰か、呼んだ?」


「呼んだわい。神じゃ」


「神様……? どちらの神様?」


「恋愛の神じゃ」


「( ´_ゝ`)フーン ……えーと、間に合っています!」


「セールスマンじゃないわい! 寝ぼけてんのか!」


「だーかーらー、いらないですぅー。新聞とか神とか間に合って……、ん、かみ? 神様!?」


「そうじゃ。さっきからそう言っておるだろ?」


「えっ、なに、この声、どこから聞こえてきてんの? 夢だろ、これ?」


「夢じゃないわい。お前の脳に直接呼び掛けとるんじゃ」


「ふげえ! なんかきめえ! 脳味噌に爺さんの唾を吐き掛けられているイメージなんですけど。どうせなら女神様が良かったなあ」


「悪かったな、爺さんで! てめえ、神様、舐めんじゃねえよ!」


「爺さんを舐めるとかもっとキモーい」


「くっ……、ま、まあ、よいわ。若気の至りということで今回だけ許してやろう」


「サーセンwww ところでその恋愛の神様が僕に何の用なのさ?」


「おまえ、今日、道に迷っていたお婆さんを道案内してやっていただろう?」


「あー、昼間そんなことがあったな。キョロキョロ困っていたからね」


「今時なかなか感心な若者じゃ! 褒美をやる」


「えー、マジで! じゃあ現金で10万、いや、100万、待てよ、神様なら1000万くらい余裕でイケるよね?」


「たわけ! お前の耳は節穴か!」


「それ、目でしょ?」


「あっ……、か、神様にツッコミ入れるんじゃない! 最初にわしはなんて言った?」


「おーい」


「その後じゃわい!」


「武則」


「次!」


「おまえに金をやろう、一億」


「言っとらんわ、そんなこと! 恋愛の神だ、って言っただろうが!」


「えー、じゃあ、何くれんの?」


「おまえ、佳代とかいう女の子が好きだろう? 両想いにしてやる」


「なっ……、ま、マジで! い、いや、そんなうまい話があるわけない。そうか、僕から金を毟り取る気なんだな? 紹介料払えとか言うんだろ? 詐欺師じゃなくて詐欺神ってわけか!」


「ちゃうわ! 疑い深い奴じゃなあ。佳代という女の子とヾ(*´∀`*)ノキャッキャ(´∀`*)ウフフしたくないんかい?」


「したいわ、このやろう! 神様が顔文字とか使うなよ、キモイわ、馬鹿野郎!」


「どこにキレとるんじゃ? まあ、いい、よく聞くんじゃ。佳代という女の子にお前を好きになる魔法を掛けてやる。但し、告白はおまえからするんだぞ。いいな?」


「はっ? なんで僕の方から? 好きになってくれるなら向こうから言ってくれるんじゃないの?」


「あー、これだから草食系は。神様、so shock!(そう、しょっく)」


「わかったよ。僕の方から告白すればいいんだろ?」


「ツッコまないんかーい! 会心の神ダジャレをスルーかよ!」


「なんでもツッコむと思ったら大間違いだ! お笑いを舐めんなよ!」


「お笑いじゃねえよ! あー、おまえと話していると調子狂うわー」


「褒められたー (∀`*ゞ)エヘヘ-」


「……神も見習いたいほどのポジティブじゃな。もういい、その調子で告白してこい!」 


「おう! あっ、でも本当に、本当に佳代ちゃんは僕のことを好きになっているんだろうな?」


「まだ疑うのか? どんとうぉーりーじゃ!」


「……あんた、どこの国の神様なんだよ?」


「あなたの心の中に住んでます」


「やっぱりただの夢じゃねえか! あっ、我慢できなくてツッコんじまった!」





 ……というところで目が覚めた。全く変な夢だ。長かったし。


 朝の十時。もう学校は春休みに入っている。


 僕は適当に顔を洗い、家を出た。


 まだ少し肌寒い街を歩いているうちに自分がなぜ外出したのかという疑問に襲われた。特に用はないし遊ぶような金もない。昨夜、「明日は家でゴロゴロしていよう」と決めたはずなのに。


 おかしいな? 寝ぼけたのかな?


「あれっ、武則君?」


 聞き覚えのある声にハッとした。まさか、この声は……。


 振り返った僕が見たものは見慣れない私服姿の佳代ちゃんだった。白いシャツに薄い青のスカート。決して派手な色合いではないのに彼女が着ていると飛び切り華やかに見えるのはなぜだろう?


「あ、ああ、佳代ちゃん。こんちは」


「こんにちは。休みに入ってから会うの初めてだよね? 元気だった?」


「えっ、あー、馬鹿は風邪引かないから大丈夫」


「あはは、またまた~」


 あー、やっぱり笑った彼女は可愛いな。素直にそう思った僕は思い掛けない言葉を口にしていた。


「あ、あの、佳代ちゃん」


「えっ、何?」


「……実はずっと君のことが好きだったんだ。あの、僕と付き合ってくれない?」


 彼女の顔に明らかな驚愕が浮かんだ。「しまった!」と思ったが、もう遅かった。


 くそっ、あんな夢を鵜呑みにした僕はまさに世界一の馬鹿だ!


 風邪じゃなくても熱が出そうだった。いっそのこと、今すぐ「冗談だよ」と誤魔化してしまおうか? まだ間に合うかも。僕がそう思った瞬間だった。


「……うん。いいよ」


 ……えっ、あれっ、これも夢?


「実は私も前から武則君のことがちょっと気になっていたんだ。いつも話面白いし、よく気が利くところもすごいなあと思っていて」


 ま、マジか! 恋愛の神様って本当にいたんだ! ありがとう、神様!


 それから僕たちは公園へと場所を移し、ベンチに座って色々と話をした。


 至福という言葉を人生で初めて味わった時間だった。


 でもその時間が楽しければ楽しいほど僕は悩み始めていた。これは魔法なのだ。恋愛の神様が掛けてくれた魔法。そう、彼女は僕のことを本当に好きなわけではない。これはまやかしだ。僕を見つめてくれる彼女は可愛い。ずっとこのままでいたい。でも本当にそれでいいのだろうか? 僕は耐えられそうにない。嘘の感情に囚われた彼女を見続けるなんて。


「……あのさ、佳代ちゃん」


「えっ、どうしたの?」


「実は昨日の夢の中でこんなことがあってね……」


 僕は包み隠さず恋愛の神様のことを話した。もちろんあれはただの夢かもしれない。でも話しておきたかった。話しながら僕は彼女の反応を窺った。すると驚くべきことが起きた。彼女は「恋愛の神様」という言葉に驚きの表情を浮かべ、次の瞬間、急に笑い出したのだ。


「アハハ、そうか、やっぱりあれってただの夢じゃなかったんだ」


「えっ、夢?」


「その神様、私の夢にも出てきたんだよ?」


「えええ、マジで? じゃあ、まさか、魔法掛けられたの?」


「魔法? だって『わし、魔法とか使えんのじゃ orz』って言ってたよ?」


「工工工エエエエエエェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェエエエエエエ工工工!」


「いきなり夢の中で声がしてね。『武則っていう間抜けな顔の男を知っているだろう?』って。『うん、知ってます』って応えたら『あいつが明日告白してくるかもしれないから良かったら付き合ってやってくれないかなあ?』って」


 た、ただのお願いじゃん! どこが魔法だよ? その前に誰が間抜けな顔じゃい!


 ……ん、あれ、待てよ、佳代ちゃん、「うん、知ってます」って僕の顔が間抜けだという肯定しちゃったんですか? ( ;∀;)


「その神様、武則君がいかに良い奴かって熱心に話してくれて。昨日お婆ちゃんを助けてあげたんだってね」


「えっ、ああ、うん…… (*´σー`)エヘヘ」


「それで『そんな気のいい武則が勇気を振り絞って君に告白してくると思うからOKしてやってほしいんじゃ』って。『あいつには恋の魔法掛けてやるとか、でかいこと言ったけど、わし、実は魔法とか全然使えんのじゃ。頼む、神様が頼む、神頼みじゃ』って頼まれちゃって」


 おい、じじい、「神頼み」の意味が違うだろ!


「だから私ね、『私も彼の良い所は知っています。だから彼が告白してきてくれたら受けるつもりです』って答えたの。そうしたら『ε-(´∀`*)ホッ だんけしぇーん!』って返事がして、そこで目が覚めてね」


 だーかーらー、あんた、どこの神様だよ!


 ……ん、あっ、そうか!


 僕はようやくそれに気付いた。


 恋愛の神様は自分の心の中にいるものらしい。




                 (了)






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