第14話 地図と獣人図鑑


「カードが出来ましたらまたお呼びしますので、かけてお待ちください」


 近くのベンチに腰掛け三人で話していると、すぐにまた名前が呼ばれた。


 登録料の銅貨1枚を支払い、出来たばかりの冒険者カードを受け取る。


「おお、これが冒険者カードか」


 真新しいカードには「シバタケンジ 魔物使い」とはっきり書かれている。


 俺はカードをじっと見つめた。そこにはよく分からない数字が沢山並んでいる。


「このHPとは何だ? ハンガリアン・ポインターの略か?」


 トゥリンが首を傾げる。


 ちなみにハンガリアン・ポインターはビズラという犬の別名で、ハンガリー原産の狩猟犬という意味である。


「HPは体力値のことだ。シバタは50だから、平均的だな」


 受付のお姉さんにもそんなこと言われたな。


「ではMPとは何だ。ミニチュア・ピンシャーの略か?」


 ちなみにミニチュア・ピンシャーとはドーベルマンに似たドイツの小型犬の事だ。


「MPは魔力値のことだ。シバタは3だから……ま、無いよりはマシという程度だ」


「そうか」


 平均値どころか、平均より低いのでは?


 トゥリンが袖を引っ張る。


「見ろシバタ、あそこに地図が売ってる」


 見ると、冒険者協会の一角に売店コーナーがあり、そこに小さな書店のようなものが見えた。


「ちょっと見てみるか」


 売店に移動すると、古びた地図を見つけた。早速地図を広げてみる。

 

「ここが鬼ヶ島か。結構遠いな。イクベはどこにあるんだろう」


 地図の下の方を指さすトゥリン。


「あれ? これ……イクベって書いてないか?」


 山奥にポツンとある地名。そこにはたしかに「イクベの村」と書かれている。


「本当だ……鬼ヶ島からも近いな」


 俺とトゥリンは顔を見合わせてうなずいた。


「行こう、イクベの村へ」


 地図を手に横を見ると、モモも何かの本をじっと見つめている。


「何か欲しい本でもあるのか?」


 というか、字は読めるのだろうか。


「これですご主人!」


 モモが見せてくれたのは『図録・獣人亜人名鑑』という図鑑だ。


 これならばほとんどイラストだし、文字が読めなくても平気なのかもしれない。


「これが欲しいのか?」


「はい。自分がなんの種族なのか知りたくて」


「分かった。一緒に買おう」


 俺は図鑑をモモから受け取ると、地図と一緒に会計に持っていった。


「後で家でじっくり見よう。そうしたら、何か分かるかもしれない」


「ありがとうございます!」


 モモはペコリと頭を下げた。


「ついでにこれも買ってみるか」


 俺は何の気なしに会計の横にあった新聞を手に取ると、一緒に支払いを済ませた。


「それにしても、この調子だとお金が減るのがあっという間だな」


 トゥリンが渋い顔をする。

 確かに、来た時より随分財布が軽い。


「そうだな。ひょっとしたら、関所でも出国料なり入国料なりを取られるかもしれないし、一人増えたから食費もかさむだろう」


 モモの尻尾がしゅん、と下がる。


「ごめんなさい、ボクのせいで」


「モモのせいじゃないさ。三人で協力して仕事をこなせば金も貯まるだろうし」


「仕事なら、あそこの掲示板で探せるぞ」


 トゥリンが壁際を指さす。

 そこには「初心者向けクエスト」の文字。

 なるほど、ここで仕事を探せるんだな。


「山菜採りに、渓流釣りか。山育ちのトゥリンもいるし、モモやサブローさんも自然の中の方がいいだろうから、山篭り系は狙い目かもな」


「じゃあとりあえず山菜採りのクエストでも受けて、それでまとまったお金が出来てからイクベに移動することにするのはどうだ?」


「ああ、それがいいかもな」


 俺たちは受付カウンターへ行ってパーティー登録とクエスト登録を済ませた。


「さんさい採り、楽しみですね!」


 ウキウキと飛び跳ねるモモ。


「ああ」


 トゥリンはモモの浮かれる様子を見て和んでいた俺に何かの紙を渡した。


「これは?」


「買い物リストだ。山菜採りには色々と準備が必要だからな」


 見ると、カゴやナイフ、手袋、鈴などの品が書いてある。


「他にも武器や帽子もいるかもな。あとモモの服も」


 俺たちはモモの着替えや、攻撃にも山菜採りにも使えるナイフ、手袋、鈴などを購入した。


 金を稼ぐつもりが、どんどん出費が増えていってないか?




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柴田犬司しばたけんじ 18歳


職業:勇者 (魔物使い)

所持金:銀貨3枚、銅貨1枚

通常スキル:言語適応、血統書開示ステータス・オープン

特殊スキル:なし

装備:柴犬、猟師のサンダル 、皮のグローブnew

持ち物:レッドドラゴンの首輪 、散歩用綱 、黄金のウ〇チシャベル 、麻のウ〇チ袋 、山菜かごnew 、熊よけ鈴new、採取ナイフnew

仲間:トゥリン (エルフ) 、モモ(獣人)


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 家に帰ると、早速モモは獣人図鑑を開いて眺め始めた。


「モモに似た獣人は載ってるか?」


 モモはぶんぶんと首を横に振る。


「載ってないです。やっぱりトゥリンの言う通り、何かの雑種なのかもです」


「未知の獣人ってことは?」


 しゅんと下を向くモモ。


「これだけ沢山の冒険者がいて世界各地を冒険してるのに、未だに誰にも知られてない獣人なんているんでしょうか」


 確かに、この世界がどれぐらいの広さか分からないが、精密な地図も出回ってるし、文明もそこそこ発達しているように見える。


 未知の生物が、一体どれくらい残されているのかは、俺には検討がつかなかった。


 だが――


「大丈夫だよ」


 俺はモモの頭を撫でた。

 モフモフした耳の柔らかい所を撫でると、モモは気持ちよさそうな顔をした。


「なあ、モモ――」


「はい?」


「ちょっと、獣の姿になってみてくれないか?」


 俺が言うと、モモは嬉しそうに尻尾を振った。


「はいっ!」


 モモが犬の姿になる。顔は子犬だが、足は大きく、体の大きさもサブローさんより大きい。何より毛がフサフサしている。


「……カワイイ!!」


 俺はガバリとモモに抱きつくと、モフモフの毛に顔を埋めた。


「可愛いなぁ……可愛いなぁ! 毛が沢山生えてて!!」


「きゅ~ん」


 モモが甘えた声を出す。

 が――



 バキッ!!



 突然凄い音がしたので顔を上げると、そこには怖い顔をしたトゥリンが立っている。


 手には折れた菜箸。


「……トゥ、トゥリン?」


「いや、何でもない」


 何でも無いって、目が座ってるぞ!?


「ただ、早くモモの故郷に行って両親にモモを返してやらねばと思っただけだ」


「そ、そうか」


「ハッハッハッハ」


「うわっ」


 横を向くと、サブローさんもいつの間にか側に来て、尻尾を振りながら俺の腕に前足を乗せてお手をしている。


 もしかして、モモじゃなくて自分を撫でろと言いたいのか!?


「全く、ヤキモチ焼きなんだから!」


 俺はモモとサブローさんを両手に抱き、思い切り撫でた。


 あー、モフモフにまみれて最高だ!




 そしてみんなが寝静まった後、俺は一人で新聞を読んでいた。


「サブローさんがいる時に新聞を広げると上に乗って邪魔してくるからな」


 だからこうして夜中にゆっくり……


 と、俺が新聞をめくると、こんな見出しが目に入ってきた。



『鬼ヶ島で新魔王軍による軍事クーデター発生? 一時渡航禁止に。』



 どうやら、鬼ヶ島で何かが起こっているらしい。



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◇柴田のわんわんメモ🐾



◼ショートヘアード・ハンガリアン・ビズラ(ハンガリアン・ポインター)


・ハンガリー原産のポインター(猟犬)でビズラと呼ばれることが多い。垂れ耳でやや細身の大型犬。赤褐色をおびた金色の短毛を持つ。日本ではあまり見かけない。



◼ミニチュアピンシャー


・ドイツ原産の小型犬。茶色や黒の光沢のある短毛と、引き締まったスリムな体が特徴。外見は小型犬版ドーベルマンといった感じだが、その歴史はドーベルマンより古い。賢く非常に活動的で、ミニピンという愛称でも親しまれている。人気犬種18位。

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