第15話 初めてのクエスト
「さぁっ、山菜採りに出かけるぞ!」
「おうっ!」
「おーです!」
「ワフン!」
翌日、俺たちはめいめいにカゴを持って山菜採りに出かけた。
「シバタ、鈴は持ったか?」
「ああ。でもどこに付ければ?」
「カゴの付け根に付けておこう」
トゥリンはカゴの付け根に鈴を結わえ付けた。
「これでクマ避けになるし、グリズリー系の魔物も寄ってこない。グリフォンやミニドラゴン系の知能の高い大型魔獣もこちらに気づいて避けてくれるらしい」
「へぇ、便利だな」
俺が感心していうと、トゥリンは薄い胸を張った。
「モンスターたちは人間を食べようとして襲ってくるんじゃない。普段人のいない所でいきなり人間にでくわして、それでパニックになって襲ってくることが多いんだ。だから予めこちらの居場所を知らせておけば向こうから避けてくれるというわけだ」
「なるほど」
さすがエルフ。森のことは熟知してるんだな。
「わーっ!!」
と、モモが急に大声を出す。
「どうした!?」
まさか熊でも出たのか!?
「サブローさんがー!」
見ると、サブローさんが黒土の上でゴロゴロ転がり土まみれになっている。
「ああ!! 昨日洗ったばかりなのに!!」
俺が止めようとすると、サブローさんはブルブルと体を震わせ、柴ドリルを放った。
ベチャベチャと湿った土が俺の方に飛んでくる。
「うわっぷ!」
「大丈夫か、シバタ」
「ああ。多分、石鹸の匂いが気に入らないんだな」
昨日ピカピカにしたはずのサブローさんの体が薄汚れてる。おまけに獣の糞みたいな変な匂いまで。
俺は大きなため息をついた。
昨日の苦労は一体何だったんだ……。
「とりあえず先に進もう」
気を取り直して林道を歩く。
「見ろシバタ、タラの芽だ」
トゥリンが木の枝を棒で手繰り寄せると、小さな緑の芽を摘み取りカゴに入れる。俺は少し興奮して言った。
「おお、天ぷらにしたら美味そうだな!」
「テンプラ?」
「いや、こっちの話だ。おっ、こっちにもあるぞ」
「シバタ、それは
俺は木からパッと手を離した。
「トゥリンー、これはどうです?」
遠くでモモが呼ぶ。
それを見て、トゥリンの顔色が変わった。
「よせっ、そいつはイビルウルシだ!」
「へっ?」
見ると、紫色の芽が横に裂け、口のようなものが現れた。
「ケケケケケ」
「危ない、モモ!」
トゥリンが叫んだ途端、イビルウルシの口から赤黒い液体が発射される。
「ぎゃあ!」
モモはそれをすんでの所で避けた。背後の木に赤黒い液体がビチャリとかかる。
「イビルウルシは邪悪な魂が漆の芽に宿ってできると言われている。吐く液にさわるとかぶれるぞ」
「そんなモンスターまでいるのか」
「ワン!」
するとサブローさんがいきなり土をここ掘れワンワンと掘り始めた。
「サブローさん?」
「何かあるのか?」
「ワン!」
見ると、サブローさんが咥えているのは細長い緑の物体。
「タケノコだ!」
トゥリンが叫ぶ。
「タケノコ? これが?」
聞けばヒメダケという種類の竹のタケノコらしい。
「これはスープに入れたりすると出汁が出て美味いぞ!」
「そうか、良くやった、サブローさん」
サブローさんの頭を撫でてやる。サブローさんは嬉しそうにお尻をフリフリした。
「これもタケノコです?」
モモが地面を指差す。
「それもだ」
「わーい」
尻尾を振りながらタケノコを取っていくモモ。
「あっちの奥の方にも沢山あるです!」
「あ、モモ、待って!」
草木を掻き分けて進んでいくモモを急いで追いかける。
「わあ、見るです! ここに沢山タケノコが――」
言いかけたモモの動きが止まった。
その視線の方向を見ると、何やら黒い塊がモゾリと動いた。
「く、熊!?」
俺の声に顔を上げる黒い獣。
その姿は、一見してただの大きな熊だが、よく見ると左右の目の他に額にも第三の目がある。
「なんだありゃ!」
トゥリンがゴクリと息を飲み込む。
「テルティウス・グリズリーだ。モモ、そのまま振り返らず後に下がるんだ」
「は、はいです」
グオオオオオオオォ!!
だが逆上したテルティウス・グリズリーは、こちらへ向かって牙を向いて襲いかかってきた。
「うわああああああ!!」
思わず俺が叫んだその瞬間、グリズリーの鋭い爪がモモを襲う。
だけどモモは余裕の声を出した。
「だいじょぶです! こいつ、遅いです!」
「えっ?」
瞬間、モモの脚がムチのようにしなる。
ボンッ!
重たい音。モモの放った蹴りは、グリズリーの腹にめり込む。グリズリーの爪が宙を切り、目から光が消える。
グオオオオオオオォ!!
泡を吹くグリズリー。
さすが獣人。あんな大きな魔獣を倒すなんて、パワーも運動神経も、人間とは桁違いだ。
「モモ、どいて!」
「は、はい!」
さらにそこに、トゥリンの弓矢が追い打ちをかける。
弓を引くトゥリンの手が緑色の光に包まれ、放たれた矢は風を切って真っ直ぐにグリズリーの第三の目を射抜いた。
凄い。もしかして、あれもただの弓矢ではなく魔法なのだろうか?
「グウッ!」
第三の目を射抜かれたグリズリーは力なく地面に倒れ、やがて完全に動かなくなった。
「テルティウス・グリズリーの急所はあの第三の目だ。それ以外は心臓を貫いても首を落としても死なん」
トゥリンが弓を降ろしながら呟く。
「そうなのか」
俺はほっと息を吐いた。
「しかし、偶然にもいい獲物に出会った。こいつの毛皮を剥ごう。高く売れる。肉も硬いが食える」
ウキウキと皮をはぐトゥリンとモモ。
だがその横で、サブローさんが低い唸り声を上げた。
「うううううぅぅー」
「どうした、サブローさん」
歯をむきだしにして唸るサブローさん。
だがサブローさんが見つめる方向を見ても何もいない。
「何か様子がおかしいな」
すると、ガサリと音がして、茂みからもう一匹、テルティウス・グリズリーが現れた。
しまった! 連れがいたのか!
「ガウッ!」
「うおお!」
襲いかかるグリズリーの爪。
俺が完全に意表をつかれて怯んでいると、そこに茶色くて丸い弾丸のようなものが突っ込んできた。
「ガウウ!」
風のように飛んできて、グリズリーの横っ腹に体当たりしたその茶色い物体は、サブローさんだった。
超高速移動しながら体当たりをしたサブローさんは、そのままグリズリーをなぎ倒す。
白目をむいたまま地面に倒れ、ピクピクと痙攣するグリズリー。
俺は咄嗟に持っていたサブローさんのウ〇チシャベルを引き抜くと、それで思い切りグリズリーの第三の目を潰した。
「ふう、危なかった」
「きゅーん」
「よしよし、ありがとな、サブローさん」
俺はサブローさんの首元を撫でてやる。サブローさんは普通の犬みたいな顔をしてコロンと腹を見せた。
「サブローさん、強いです!」
「さすが伝説の黄金獣だな」
トゥリンとモモが感心したように頷く。
「そんなすごい獣を手懐けるなんて、やっぱりご主人は凄いです!」
「トドメを刺すときの冷静さも見事だった」
いや、あれはただ無我夢中だっただけなのだが。この黄金のウ〇チシャベルの切れ味も凄かったし。
「いや、俺は別に」
俺は凄くない。凄いのはサブローさんだ。
火は吐くわ、弾丸みたいに高速移動するし。
もしかして俺は、仲間に凄く恵まれているのかもしれない。
◇◆◇
俺とモモが一頭づつグリズリーを背負い冒険者協会に戻ると、周囲がざわめく。
「あ、あれはテルティウス・グリズリー!?」
「まさか、あれを倒すとは」
「テルティウス・グリズリーの毛皮は年に一頭取れればいい方なのに」
どうやらこのグリズリーの毛皮は相当に珍しいものらしい。
「これを換金したいんだが」
買い取りカウンターのお姉さんもぎょっとした顔をする。
「は、はい、ただ今!」
換金結果、グリズリー二頭で金貨一枚となった。
「一頭銀貨五枚か。あのカーバンクルとかいうのより金額が低いんだな」
山菜を換金していたトゥリンが戻ってくる。
「そりゃカーバンクルは幻の獣だからな。山菜も自分たちで食べる分以外は換金したぞ」
銅貨一枚を俺に手渡してくるトゥリン。
「家に帰ったら山菜三昧だな」
俺が言うと、モモが嬉しそうに尻尾を揺らして飛び跳ねる。
「さんさい、さんさい!」
◇◆◇
「できたぞ!」
トゥリンが作ったのはタケノコのスープと鴨の洋風の煮物みたいなやつ。なかなか美味しい。
俺もタラの芽で天ぷらを作ってみたが、初めてにしては中々の出来栄えだ。
「美味しいぞ、シバタ」
「ワン!」
トゥリンが言うと、なぜか天ぷらを食べていないサブローさんまで返事をする。
俺たちはお腹いっぱいのまま眠りについた。
明日にはイクベに向かって立とう。
そこで、モモの両親は見つかるだろうか?
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◇柴田のわんわんメモ🐾
◼犬の食べ物
犬は基本的に野菜、肉、魚、何でも食べる雑食だが、塩分や糖分の濃いものなど、与えてはいけない食べ物も沢山あるので注意。
◼犬に与えると中毒症状を起こすもの
1.タマネギ、ネギ、ニラ、ニンニクなど
2.ブドウ・レーズン
3.キシリトール
4.唐辛子や香辛料などの刺激物
5.骨付きの鶏肉や魚
6.貝類や甲殻類
7.チョコレート
8.コーヒー、緑茶、紅茶など
9.アボカド
10.牛乳
11.生の豆やナッツ類
12.生卵
※間違えて食べてしまったら早めに動物病院へ行こう!
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