大好物

 時は少し遡り、アインが魔物闘技場へと足を運んだ時のこと。



「魔物だらけだ……」


「なかなか珍しいのもいますね。海龍のように水生生物はいませんが……」



 アインは昨晩寝るときだって、どことなく寝付きにくい中なんとか眠りについた。それほど今日の日を楽しみにしていた。天気も良く、寒すぎるといったこともない。



「でも人もすごい居るね」



 まるで朝のラッシュ時のホワイトローズ。それと近い賑わいを感じ、魔物闘技場の人気度が覗えた。

 数多くの賭けや、珍しい魔物たちをみるために、大陸の至る所から数多くの観客が詰め寄せる。イシュタリカでも評判の観光地といったところだった。



「有名な観光地でもありますからね。それに珍しい魔物たちを安全な場所で見られる、貴重な舞台です。なので多くの人が訪れるんですよ」



 まるで瞳が輝いているかのように、興奮した様子であたりを見渡すアイン。

 頭が2つある大きな犬や、巨大なスライム。翼が4つもある大きな鳥まで……多くの魔物たちが一堂に会している。



「あれはワイバーン……?」



 石畳を敷かれた闘技場の手前にて、大きく目立つその姿を発見した。石材を重ねて作られた闘技場に、その姿はとても映えている。



「えっと……えぇ、そうですね。灰翼竜と呼ばれる、ワイバーンの中ではそこそこの種族です」


「へぇ……。近くにいってもいいの?」


「大丈夫ですよ。ここに連れてこられた魔物たちは、勝手に触ったりしなければ近くによっても平気です。貴族たちにとっては、自分たちの自慢の魔物を見せつけたいと思っているわけですしね」



 納得したアインは、ちょうど目についたワイバーンの許へと足を運ぶ。アイン以外にも同じく興味を抱いた者達がいるようで、ワイバーンのそばには多くの人が詰め寄せていた。



「うわぁ。大きいなっ!」



 翼を開けば15mほどの大きさになるこのワイバーンは、多くの注目を浴びていた。その仕草を見ればアインも感動してしまい、つい口をぽかんとあけたまま見つめてしまう。



「見事な大きさですね、それによく世話をされている……ですが、実戦経験は少ないようです」


「大きい方なんだ。でもどうして戦った回数が少ないってわかるの?」



 ワイバーンのそばには数人の男がいた。手に持った鎖がワイバーンに繋がっているのを見れば、管理を任されている者達なのだと容易に想像ができる。



「翼膜が綺麗すぎます。例えばネームドのように、強い魔物ならばそういった例もないわけではありませんが……」



 どうやらそこまでの強さには映らなかったようだ。だが大事に育てられてきたのだろう、目の前のワイバーンは美しい姿を皆に見せている。



 ……翼を広げて、周囲に自分を見せつけていたワイバーンだが、ふとアインと目があった。



「ん?なんかこっち見てる?」


「えぇ。完全にアイン様を見て止まってますね……」



 瞬きもせず、アインの方をじっとみつめるワイバーン。広げていた翼も、徐々に小さく折りたたまれていく。



「なぁお前。どうしたのさ?……っ!?」



 ワイバーンを気遣ったつもりだった。『どうしたの?』と意思を伝えるようにワイバーンへと指を伸ばす。

 その仕草を見たワイバーンが、一気に翼を折りたたみ、少し後ずさっていく。その瞬間も、一度も瞬きせずにアインのことを見ながら後ずさっていった。



「……ねぇこれって」


「警戒されてますねアイン様。警戒というかむしろ……怖がられておりますね。まさかワイバーンまで恐怖させてしまうとは」


「喜んでいいか絶妙な部分だけどね」



 ついに壁際まで後ずさっていったワイバーン。そのまま翼で自分を隠すように、小さく丸くなっていく。周囲の者達もそれが不思議に見えて、少しずつ声が多くなっていった。



「っどうしたのだ!?なぜ我が家のワイバーンがこうまで怯え切って……」



 すると騒ぎに気が付いた豚……いや、体格の良い貴族がその場にやってきた。するとワイバーンを管理していた男が、その貴族へとなにがあったのかを説明し始める。



「なるほど……貴様が!貴様が我が家の大事なワイバーンに、なにかしたのだな!」


「……え、俺?」



 モーゼのようにその場は開き、アインとクリスが目立つ形になる。……そして貴族はアインの方を指さして、アインにその落とし前をつけさせようと、口を開いたのだった。




 *




 ボーッと回想をしてみても、この面倒な場面がどこかに吹き飛ぶことはない。そしてこの場の空気が改善するわけでもない。



「ふんっ!私は由緒正しきオインク家の当主、セージ・オインク。いくつかの農業地帯を任されている大貴族であるぞ!……立場を考えよ。私にはお前をどうとでもできる権力がある」




 無礼なのはどちらだろうか、それを正してしまえば相手に違いはない。なにせアインは王太子だから、姿を隠しているとはいえ権力的にははるか上にある。——というかお前誰だよ、というのがアインの一番の疑問だった。



「なるほど、ソーセージか」



 ボソッと、彼の名を聞いて思ったことを零す。



「一応お伝えしておくと子爵家です。どうします?切りましょうか?」


「怖いからそんなことアッサリいわないの」



 アインが『うん』と一言言えば一瞬で切ってくれるだろう。その信頼がある、あるからこそ肯定の意思表示なんてできるはずがない。というか今回の原因は、意図していないとはいえアインにも関係があるのだから、アインとしてもそこまで鬼畜な事はしたくない。



 だからレイピアに当てた手から手を放しなさい。まずは落ち着きなさいね?あと踵もきちんと地面につけるように。



「失礼致しましたセージ子爵。ですが彼女は私の大事な女性だ、それには応じられない……それに初代陛下のお声の下、そのような人身売買じみた発言は咎められます。なのでさすがに行き過ぎた発言は抑えるべきかと」


「なかなか良い服を着ていると思ったら、同じく貴族だったか。ならちょうどいい……それならわかっているだろう?我々貴族にとっての本音と建て前についてな」


「(あ、これ駄目なやつだ。ここまでわかりやすい違反行為されちゃうともう駄目だ)」



 遠巻きに見ているギャラリーには、おそらくセージが口にした言葉は届いていないだろう。さすがにそれには気を使っていたようだ。正面切って、初代陛下の言葉を破るなんていう行為には気を付けているらしい。



「あ……ぅぅ……」


「照れてないでしっかりしなさい」



 隣にいるクリスは、『大事な女性』という言葉に照れながらも喜んでいたようで、締まりのない顔を浮かべていた。それでいいのか護衛?とか考えてしまう。だが今日は半分プライベートのようなものなので、あまりアインとしても強くもいえない。



「本日出場予定だったのであれば、もちろんその賠償はしましょう。それは金品でお支払いします。なのでそれで収めてはいただけませんか?」


「……そう言わずとも、だまってその女を貸し出せばそれでいい。安いものだろう」



 セージはクリスを気に入っていた。いつも通りのクリスのようには見えないはずだが、彼女が美女だということは変わりない。そしてセージにとってもクリスはとても美しく、金品よりも彼女と過ごす夜の方が価値は高かった。



「それはできません。なのでどうか金品でお願いします。第三者にきちんと査定して頂き、今日の分の補填と……別途に賠償もしますので」



 下手に出ないで、ばっさりと断罪してしまえばいい。そうした考えがなかったわけではないが、なにやら叩けば埃のでてきそうなセージを見ていると、つい簡単に終わらせたくなくなってしまう。



「だからその女がいいといってるのだ。何度も言わせるな!我が家は子爵家だが、それでも多くの領地の管理を任されている身、他の貴族にも口が利くぞ……?」



「(うーん罪状を追加だ。なんか誘導尋問みたいであれだけど、まぁ最初に初代陛下の言葉を覆したのはセージ子爵だしなあ……)」



『民に仕えよ』、『人の身であって、人を売る事無かれ』……初代統一王が残した言葉だが、それは今でも大切にされており、法の中にも組み込まれている。



 隣に目をやると、クリスはまだ照れた様子だ。だが左腕は腰のレイピアに当てられているのを見るに、恐らく『切れ』といえば一瞬でセージの首を持ってきてくれるだろう。



 周囲の人間がいつ動いたのか気が付くこともなく、一瞬でそれは行われると確信できた。



「それで。貴様の名はなんというのだ?身なりも悪くないし貴族に名を連ねているのだろう?」


「これは申し遅れました。私は爵位を頂戴しているわけではないのですが……」



 王太子という身分は、このイシュタリカでは爵位としては扱われない。そしてアインは王子という訳でもないので、爵位は厳密には無いようなものだ。



 爵位はないのでどこか商会の子とでも名乗ろう、あと偽名はどうしようか。グリントたちの名前でも勝手に使うかと思っていたら、次の言葉はセージによって遮られる。



「あぁもうよい。それでは貴族とはいえぬのだから興味もない。名を続けずとも構わぬ、どうせ覚える気もないからな。小金を持っていようとも、名誉も何もない成り上がりだ」



 ……こんな腐った貴族はイシュタリカで見るのは初めてだ。だがこれもいい経験になった、そう思ったアイン。とりあえず彼の名前はよく覚えておこう。



「貴様。魔物は飼っているか?」


「えっと……それは我が家でということでしょうか?」


「あぁそうだ。それで、どうなのだ」



 そう言われて頭に浮かぶのはエルとアルの姿、双子の海龍だった。

 魔改造といってもいいだろうか?素敵すぎる餌による育成の成果は尋常じゃなく、既に大きく育っている彼らの姿が頭に浮かぶ。



「えぇ。いますが……」



 恐らく今日も、城の給仕やカティマによって多くの餌を与えられて、すくすく育っていることだろう。

 あるいは今日も海に出て狩りに勤しんでいるだろうか?漁師たちの報告によると、港の近海に住む魔物たちの姿が激減しているという。



 それは明らかに双子の働きによるものであり、巨大に育った双子は、すでに近海の脅威となっているのだろう。……いや、むしろすでに近海の主となっているかもしれない、そう思えばアインも自然と笑みが零れる。なにせ双子は、アインにとって子供みたいなものだからだ。



「ですが"水生"の魔物のため、なかなか披露できないのが問題ですが」


「ほぅ。水生の魔物だと?なら調度いい……どうだ?この私に一ついい案がある」



 ニタァと愉快な表情を浮かべるセージは、その後もアイン達に要求を叩きつけた。




 *




 明るい時間に会った面倒ごともなんとやら、辺りは夕方と夜の間……徐々に日が沈み始め、なんともいえない美しい模様が空に浮かび上がっている。あたりは大きく賑わい、数多くの出店の香ばしい匂いに包まれる。つい先ほど一つのイベントが終了し、数多くの観客たちがその場を後にしようとしていた。



「あんなに派手だったとは……目がチカチカしちゃったよ」


「私もあんなに多くの魔法を見たのは久しぶりです。つい興奮してしまいました」



 始めは魔物闘技場を楽しむ予定だったが、その予定は変更された。なぜならアインの持つ気配が、多くの魔物達へと影響を与えないとは断言できなかったから。

 だからそれを考えたアインは、その予定を断念して別の場所へ行こうとクリスに提案した。



 ちなみに今日見た魔物たちの中で、一番気に入ったのは巨大なスライム。なんとなくアインには可愛く見えました。



 それからはもう一つの魔法都市名物。魔法競技場へと足を運んだ。

『魔法で戦うんじゃないの?』アインはそう疑問に思ったが、クリスの答えを聞いて納得した。



 魔法をぶつけ合えば、大怪我をするのは当たり前。その怪我を治すことを考えれば現実的じゃない。だから競技として確立されたのがその場所ということらしい。



 冒険者も参加できるその催しは、毎日のように数多くのイベントが催されている。



 数十メートルにも届くほどの巨大な氷を作り上げたり、会場を駆け巡る多くの雷魔法。今までに見たことの無いような数多くの魔法をみて、アインもとても興奮した一日になった。



「ねぇクリスさん、王都にも同じく魔法を使える人がいないわけじゃないんでしょ?」


「勿論いますよ。ただ使う場所が中々ありませんからね。それにあまり燃費の良い分野でもありませんから」


「燃費が悪い?」


「ド派手な魔法なんて、そう何度も放てるわけじゃありません。なので使ったら後はただの的になることばかりですので」



 人の身で強力な魔法を使いづらい理由、それは魔力の絶対量にもある。だからこそ安売りするものではない。



「場面を選んで、ちょっとずつ使うのが一番ですよ。特に冒険者達ならば、魔物を倒せるようにいくつも調整して発動させますから」



 アインが討伐した海龍の時も、今日のような魔法使いたちがいればもう少し楽だったのではないか?そう思うがなかなか上手くいかないようだ。



 結局のところ耐久性なのだ。

 巨大な魔物たちはその強大な耐久性があるからこそ、その時まで生きながらえてきた猛者ばかり。だから人が使える魔法ならば普通に耐えきられてしまう。それがたとえ一発に賭けた強力な一撃だろうとも、彼らは耐えてしまうのだから。



「……あ。ごめんクリスさん……ちょっと待ってもらっていい?」


「え、えぇ大丈夫ですが……どうなさいました?」



 クリスが説明をしていると、アインが何かを見つけたようで少し方向を変えて歩き始めた。何か目的があるようで、それに向かって歩き続ける。



「アイン様一体何を見つけたのですか?」


「えっとここに入っていったはずだけど……あ、いたいた」



 競技場の横にある木陰の部分へと進んでいく。そこはちょっとした休憩所のようで、いくつか植えられた植木の下にはベンチが並べられている。アインはそこに座っている、一人の中年男性のそばへと歩いていく。



「やぁ、こんばんは」


「……ん?あぁこんばんは。どうかしたのかな坊や」



 アインはその男へとおもむろに語り掛けると、男性も人のいい顔を浮かべて返事をする。その様子がどこか、茶番じみたように思えたクリス。何が起こってるのかと不思議に思った。



 その男性の姿は、一般的な平民の姿よりかは少し高級そうな服を着ているが、そんなのは商人とかにはいくらでもいる。特別目を引くようなものではなかった。



「おじさん。賭けは勝った?」


「幸運なことに今日は勝たせてもらったよ。おかげで小遣いが増えたんだ」


「それはよかった。それじゃ……——」



 前置きは終わり。ようやく本題に入り始めるアイン。



「調べ終わった?それともまだ数日かかる?」


「……えっと、一体何を言ってるのかな坊やは?」


「わかった、少し言い方を変えよう」



 ふとアインの気配が変化していく。それは上に立つべき者が持っている威厳に溢れた、一種のカリスマ性を感じる、そんな気配で満たされていった。



「……指揮系統とかの問題は一先ず置いていい。俺が報告を求めてるんだ、だからそれを最優先にして構わない」



 脈絡のない言葉だが、相手の男性にはその意味がよく理解できた。するとそれを聞いた男性は、アインに一度頭を下げてから、次の言葉を発した。



「……はっ。では"王太子殿下"の命を受託致します。ご所望でしたら明日中には、王太子殿下がお求めであろう資料をお渡ししますが」


「え、え?アイン様……一体なんのお話をしてらっしゃるのですか……?」



 この場において、状況が理解できていないのはクリスだけだ。もうすでにアインと中年の男性は、目的を共有しているようで、どこか通じ合っているように見える。



「じゃあそれは用意しておいてもらうよ。……そういえば3人ぐらいかな。昨日王都に帰ったでしょ。カティマさんのための人員が戻ったの?」


「仰る通りですが、そこまでお分かりでしたか。……いつからですか?」


「ホワイトローズからだけど、合ってる?」


「……それも正解だ。全く、これでは意味がありませんでしたね」



 ふぅ、と軽く息を吐いた男性が降参したという様子を見せる。まだ意味が解っていないクリスは、アインへともう一度問いかけた。



「ア、アイン様っ!いったい何のお話を……っ」


「ごめんごめん。この人はウォーレンさんの使う隠密の人。いつもより慎重に行動してたみたいだし、それでクリスさんも分からなかったんだと思うよ」


「っな……なぜアイン様はわかったのですか!?」



 確かにウォーレン子飼いの隠密集団は手練ればかりだ。だがクリスも近くで行動されていたら気が付くことができるはず。だが今回気が付けなかったのには理由がある。今回は集団でもトップクラスの手練れを用意し、更に深く慎重に行動させていたということ。それが致命的になりクリスは気が付けなかったのだ。



 これがもう少しでもアインの近くで行動していたならば、クリスも気が付けていただろう。



「同じような気配がいつもあるから、それに慣れただけかな。特にエウロから帰って半年寝てたの以来、妙にいろんな気配に気が付きやすくなってるから。だから尚更ってのもあるけど」



 随分人間離れしたきたもんだ、アインがそう呟いた。



「まぁそんなわけで、朝の面倒ごとも調べてくれてると思ったってこと。その勘もあたったわけだけど」



 そう言い、男性の方をチラッとみるアイン。



「仰る通りでございます。……マジョリカ魔石店のオーナーが作った魔道具、その影響もあり、外見からは王太子殿下とお見受けするのが難しい現状、なので我々は服装から王太子殿下と判断させていただいております」


「……まさか俺が持ってる服、全部把握してるの?」


「勿論でございます。必要な知識ですので」



 そればかりは、ついぽかんとした表情をしていまう。まさか自分の持ってる服の種類まで把握されてるとは、そんなこと片時も考えたことは無かった。



「って……ほら、いい加減立ち直ってよクリスさん。そんな落ち込まなくてもいいじゃん」


「で……でも、護衛の私が気が付かないで。アイン様が気が付いてたなんて……」


「俺の場合は気配に慣れてたのとか、たぶん魔石吸収して成長してるってのが関係してるから。だから気にしないで、ほらいい子だから」



 頭をぽんぽんと撫でてやると、少し気持ちを立て直せたようで、ようやく顔をあげたクリス。おそらく彼女に尻尾があれば、今頃はぶんぶんっ!となかなかの速度で振り回していただろう。そういう魔道具はないのだろうか……?いつかカティマに頼んでみることにした。



 最近のクリスはなんか犬みたいで可愛い。だから似合う気がする。



「それで。"埃"はでてきた?」


「それはもう。すでに閣下にもお知らせしております」


「やっぱりか……それで、ウォーレンさんはなんて?」


「折角だから関係性を洗って、膿を搾り取るとのことです。それとバーラ殿にメイ殿は、無事に城に到着し保護されておりますのでご安心ください」


「なるほどね。2つもいい情報を貰えてよかった、感謝するよ」



 セージ子爵は想定通り、叩けば多くの埃が出てきたようだ。ウォーレンはこの機会を利用して、徹底的に調べ上げると決めた。またバーラが無事に城に到着したとの情報も、アインとしては安心できる。



「お褒めに預かり光栄です。……ですがもう一点、王太子殿下は本当に奴の提案をお受けになるので?」


「あぁ水生の魔物同士の決闘だっけ?別に構わないかなって思ってるけど」



 セージの提案はこうだ。アインが飼っているといった水生の魔物と、セージが飼っている水生の魔物を戦わせる。それで勝った側の提案を受けろという内容だった。



「でしたら頃合いを見計らって、セージ子爵との決闘の日を決めて頂きたく思います」


「それは調べ終わるまで時間が欲しいってこと?」


「左様でございます。おそらく決闘場所となるのは、王都から一時間少々の距離の大きな川となるかと。そこは王都を流れる水源と繋がっておりますので、海龍を連れて行くのも問題ありません。またセージ子爵が所有している魔物も、その川の上流にある領地にて管理されているようなので、場所的には絶好の位置です」



 川の広さや深さを考えても、問題とはならないでしょう……彼は最後にそう言って、説明を終えた。



 正直な話、アインはその提案をされたときに断ろうかと思っていた。どうせクリスの体目当てなのはわかってるし、万が一を考えれば受け入れたくなかった。だがクリスがその時アインへと耳打ちした。

『子供とはいえ、あのように成長した海龍を倒せる魔物を、たかが一貴族が保有できるはずがありません』……とのことだ。



 だからその言葉に乗り、決闘を受託したわけなのだが。



「それで?セージ子爵自慢の魔物って?」



 ただ一つ疑問に思うならば、そのセージ子爵が保有する水生の魔物とは一体なんなのかということだ。



「中型種のクラーケンですね。強力といえばたしかに強力なのですが……その、なんというか」


「ねぇクリスさん。たしかクラーケンって……」







「えぇ。海龍の大好物です」



 双子もたまには好物を食べたいだろう。そう思うことにした。



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