報告と食事会
アイン達を連れた馬車が城に到着してから少し後。
グラーフ一行を連れた馬車も城門を通る。そして止まった馬車からグラーフたちが降り、ホワイトナイトという絶対的な存在感を持つ城を目の当たりにした。
「まさか本当にイシュタリカの一番の中心部に、足を踏み入れることになるとは」
「見上げれば首が疲れる程高いのに、端が見えない程広い……。それになんて美しい城なんでしょうか」
グラーフとしてもイシュタリカの王城に足を踏み入れるのは初の体験だった。
クローネは言わずもがな、その城の大きさにただただ驚くばかり。
「皆様到着致しました。ようこそ我らがイシュタリカ、その中心地であるホワイトナイトへ」
降り立ったグラーフたちを歓迎するウォーレン。
到着したのを見計らって、城の入り口が開きそこから数人の騎士に給仕が現れた。
「さぁお荷物は彼らにお預けください。アウグスト家の給仕の方々の手荷物もお預かりいたします。一先ずは少しご休憩して頂ければと、彼らの案内でお部屋へとお連れ致します」
「あ、あぁ感謝するウォーレン殿」
「ありがとうございますウォーレン様」
今だホワイトナイトの凄さに驚いていた二人であったものの、ウォーレンが現れ案内をすると聞きなんとか少し気を取り直せた。
「クローネ嬢、長く歩かれてお疲れでしょう。もしよろしければ城自慢の浴場で疲れを癒しては?その後オリビア様とのご夕食に行かれるのもよいかと」
身だしなみを整えたいと考えていたクローネにとって、この提案は嬉しく思えた。
この後久しぶりにオリビアと顔を合わせ、夕食の席を共にすること。丸一日歩いて汗もかいたことを思えば、彼女にとっては急務だった。
「ご配慮感謝いたします。ではお言葉に甘えさせて頂きますわ」
「承知致しました。グラーフ殿も共にお体を休めるとよいでしょう、グラーフ殿にも客人用の浴場をご用意させていただきたく思います」
「では儂もお言葉に甘えさせていただこう」
「お二人に数人の給仕をお付けします。浴場までの案内と手伝いをさせますので、なんなりとお申し付け頂ければと。一先ず先にお部屋へとご案内しましょう」
そうしてウォーレンが合図をし、給仕たちがグラーフたちの案内をする。
荷物は騎士達が持ち部屋まで運ぶことになった。
「あぁアルフレッド殿。グラーフ殿達が体を癒された後、少ししたら再度案内の者を遣わせますので、その者に着いてオリビア様との席までお越しください」
「承知致しました。ではお待ち申し上げております」
給仕たちの案内によって、グラーフ達は一先ず客室へと向かった。
城にはすでに港町マグナから購入して来た海鮮が、料理長の元へと届けられ調理が始まっている。
城までの案内が終わったウォーレンは、今日のことを報告するために王が待つ部屋へと向かった。
*
「失礼致します」
「入れ」
シルヴァードが待つ部屋へと到着したウォーレン。その部屋ではシルヴァードだけではなく、ロイドも共にウォーレンの到着を心待ちにしていた。
「朝からの視察お疲れ様でしたなウォーレン殿」
「いえいえ。実りのある視察となりましたよ、いろいろと」
「では報告を」
どのような結果となったのか、シルヴァードは気になってしょうがなかった。
そのため彼が部屋に到着するまで、ウォーレンの様子を給仕に何度も確認させていた。
その理由は二つ。イシュタリカとしても重要な海結晶に関しての報告。そしてもう一つはアウグスト家の者達についてだった。
「……お二人とも何が気になっているのか分かってます。海結晶の件は後程詳しい書類を提出すると言うことに致しましょうか?」
「余としては一向に構わん」
「ふむ。私としても報告書を頂けるならば問題はありませんなあ」
「ではまずグラーフ・アウグスト殿。前アウグスト大公殿についてお話しましょう。一言で言えば貴族向けではない性格ですな」
ウォーレンが今日一日で分かったことを説明する。
まず初めはグラーフについてを報告することにした。
「貴族向けでない性格の大公だったと?」
「えぇ。これまた簡単に言えば、彼は国よりも家族を取りました。その結果がイシュタリカへと渡るということになったのでしょう」
「ふむ?つまり仕えていたハイムより……今回の旅で伴ったクローネ殿のほうが大事だったと?」
「そうなりますな」
ロイドが言うことにウォーレンは同意する。
ウォーレンなりに、グラーフたちについてどういった人物かを見てきたつもりだ。
「では忠誠心については期待できぬか」
「そのような事もないでしょう。少なくとも家族の安否、現状で言えばクローネ嬢の安否に関して保証がある状況でしたら、グラーフ殿は誠心誠意向き合ってくれるかと。頭も良く計算もできる男です、自分が上の立場の場合は取引もそれなりに優位に進められましょう。欠点として申し上げるなら、自分の方が下の立場にある時はその強さは発揮しにくいことですな」
「陛下。欠点はそこそこなものの、ウォーレン殿ができる男だと口にするのも珍しいことでは」
「余も確かにそう思う。なかなかに強かな部分もあるのだろう」
ウォーレンの中でグラーフの評価は決して低いものではなく、むしろ高い方だった。
惜しむらくは、自分たちイシュタリカという強者を相手取ったことで、多少の負い目を感じて彼の本当の強さを垣間見ることができなかったこと。
「イシュタリカとしてクローネ嬢……そしてハイムにいるアウグスト家の人間達。将来我々にとっても"想定外"の展開となった時、彼らへ被害を与えないということが分かれば、敵となることはありません」
「当初の報告ではハイムでも厳格で公平な貴族と聞いていたが。国よりも家族を取るのだからわからぬものだ」
「貴族としてはひどく矛盾していると感じますが、わかりやすくていいではありませんか」
「ロイド殿の仰る通りわかりやすい。彼らを害さないと理解してもらえればよいでしょう。そうすれば彼としてもその安全のために腕を振るってくれるかと」
グラーフについては、ロイドが言う通りわかりやすいこともあった。
現状で言えば、クローネを大切にしていれば彼としてもイシュタリカに大きな恩を感じ、それを返すだろうと思われた。
「さて、では言い方は乱暴だが前座は終わりだ。本題であることを聞きたい」
「前座と来ましたか陛下」
「なんともはや……我々の陛下も家族思いな方なのは分かっていたが」
シルヴァードが口にする本題とはクローネの事だ。シルヴァードにとって、グラーフの件も小さなことではなかったものの、今の彼の中の優先順位は、クローネがアインとどういった関係なのかと言うことだった。
「ロイド!お主も気になっているであろうに何を言ってる」
「はっはっは!ではウォーレン殿、続きを」
「承知いたしました。クローネ嬢はまさに宝石の原石、ハイムの王子には勿体ない女性です」
クローネに関しての報告が始まる。アインについてどう考えているのかを、自分を前にしても堂々と話し、考えを述べて来たクローネは、ウォーレンに大きな印象を与えている。
「物事を事細かに理解する力に、相手を不快にさせずに自分を優位に進める話術。それを実行する胆力に決断力が優れていると感じました。それに容姿もクリス殿にだって引けを取らないでしょうから、それも問題ございません」
「そこまでの器かウォーレン。お主が口にする程に」
「この際です、もう少し違う表現を致しましょう。クローネ嬢は将来、確実に私を超えるほどの有能な存在になるでしょう」
「歴代宰相でもトップを争うと言われるほどのウォーレン殿をか?」
イシュタリカで宰相としてのウォーレンの評価はとても高い。
彼が今まで行ってきた政策や開発は勿論だが、何よりも文官としての能力や、交渉する力に長けていた。
それに海を渡った大陸にあるハイムであろうとも、情報を探ることができるほどに情報戦にも力がある。
「左様です。もう一つ付け加えるならば、彼女はアイン様を異性として好ましく思っています。どういった形として将来アイン様の御傍にいるのか、それは今議論致しません。ですがどういった形であろうとも、彼女は傍に置くべき存在ですな」
「では我々としても手厚く保護をし協力していけば、先ほどのグラーフ殿の思いとも一致するわけだ」
「ロイド殿の仰る通り。そうする価値がある存在です」
「して、アインとしてはクローネ嬢のことをどう思っているのだ」
クローネが有能だと言うことも、アインを好ましく思っていることも理解できた。
そして最後に気になるのは、アインがクローネに対してどういった考えをもっているかだ。
「本日、なかなか面白いことがございました」
港町マグナでのこと。アインの昼寝とクローネの膝枕のことを報告した。
王太子ともあろう人間が公衆の場で昼寝をしたことを、シルヴァードはあまり良く思わなかった。だがその後のことは悪い印象には思わなかった。
「ふむ。アインとしても十分好意的に思っているのではないか」
「左様でございます。ですのでアイン様のお近くにいても問題はありません」
「ロイド。どう思う」
「むしろそのほうが良いのではないかと。アイン様にとっても年齢の近い者はおりませんでしたし」
ロイドも同意する。
確かに城の中ではアインに歳の近い者はおらず、カティマが一緒に何かを楽しんでいる程度だった。
「宰相としての立場から申し上げます。彼女は国益をもたらす女性となります」
「ではウォーレン個人の意見を余に申してみよ」
「お互いを良く思っているのですし、近くにいたほうがよろしいのでは?少なくとも害は無さそうですし」
わざわざ距離を置かせるのも可哀そうですしな、とウォーレンは話を閉めた。
個人としての意見を述べるときのウォーレンは、アインと話すときのように優しい笑みを浮かべながらそれを述べた。
「私も元帥として申し上げます。宰相殿が国益となると思える程の女性であるならば、手厚く迎えるべきと思いますぞ。個人としてはアイン様がよい方向になるならと……」
「なるほどな。余もお主ら二人がどう考えるか理解した。余としてもアインに悪影響がなく、国益まで考えられるほどの者ならば文句はない。クローネ嬢にこれからどうしたいのかという事を聞いておけウォーレン。その結果お主が直接教育を施すことも視野に入れて構わぬ」
「承知いたしました」
「ふむ。宰相ウォーレンの教育ともなれば、随分と厳しそうだな」
「ロイド殿がご子息に施した教育と同じですな」
最後は和やかな雰囲気となり、ウォーレンの報告は終わった。
彼は後ほど海結晶の件と合わせて、もう少し詳しく考えをまとめた資料を提出することになる。
*
場所は変わりグラーフたちが案内された客室。
城の浴場を堪能した彼らは、客室の間に設置されているサロンで迎えを待っていた。
「ところでクローネ。美しさに磨きがかかったようだな」
「給仕の方たちの技術も恐れ入りましたが、それ以上に美容に関する物がとても質が良く……」
浴場へと向かう前と比べて、髪は艶を増し肌は透明感が高まっていた。
マッサージにより、多少疲れていた顔つきも癒されている。
「そんなところでまで、技術の違いを見せつけられるとは」
「快適なお風呂でしたねお爺様」
「うむ。おかげで疲れをいやすことができた」
浴場を出て少しの休憩をしていた彼ら。汗も引きゆったりとしていた所に、ついに案内の給仕がやってくる。
ドアをノックされたのを聞いたグラーフがアルフレッドに指示を出し、案内を部屋に通す。
「失礼致します。オリビア様の専属給仕を務めております、一等給仕のマーサと申します。第二王女オリビア様のご夕食の席にご案内すべく参りました」
グラーフはそうして現れた小さな女性に一瞬面くらったものの、それを態度に出すことは無く返事をした。
「承知した。では私とクローネ、孫娘の二人で向かえばよいだろうか?」
「会場にて給仕はおりますのでご安心ください。お連れの給仕の方たちも長旅でお疲れでしょうから、一度ご休憩して頂ければとの第二王女殿下のお言葉です」
「うむ……承知した。アルフレッド、皆にそう伝えよ」
「畏まりました」
「給仕の方達にもお食事を運んで参りますのでお待ちいただければと思います。ではグラーフ様、クローネ様どうぞこちらへ」
マーサに先導されて部屋を出て移動を始める。
言われた通り、部屋を出て出発したのはグラーフとクローネの二人だけだ。
「場所はアイン様たちが良く使われるサロンでございます。そこに食事を運び入れますのでご賞味いただければと思います」
*
そうして数分歩き、オリビアが待つサロンへと到着した。
マーサが扉をノックし、中から返事が聞こえたのを確認してドアを開ける。
「オリビア様。お二人をご案内して参りました」
「ありがとうマーサ。お久しぶりですねグラーフ様、クローネ様。どうぞ中に入ってくつろいでくださいませ」
前あった時と全く変わらないオリビアにクローネは安堵の思いを感じる。
とはいえ服装は前と違い更に美しい物を身に着けており、クローネが使ったのと同様にイシュタリカの高い美容効果があるものを使っているのだろう、前とは比べ物にならない程髪も肌も美しく見えた。
「第二王女殿下。いくつもの言葉を考えておりました。ですがまず先に謝罪の言葉を」
「あぁそういうのはいりませんよグラーフ様。もう気にしていないですから」
「様など、第二王女殿下ともあろうお方にそう呼ばれては首を括らねばなりません」
「ううん……ねぇアイン。どうすればいいかしら」
「とりあえず殿とお付けするのがいいと思いますよ」
オリビアの隣にいたアインがそうフォローした。
「第二王女殿下。お久しぶりでございます。第二王女殿下にアイン様、お二人がどう過ごしているか考えない日はございませんでした。またお会いできたことを心より嬉しく思います」
「まぁクローネ様……あぁそうね様はダメだから、殿……何か堅苦しいですね」
「とりあえず今は我慢しましょう、ね?」
前と全く変わらないのは外見に関してだったようで、中身は以前よりもアインを溺愛してる様子が目に見えて分かった。
前回クローネが二人と会った時も、オリビアからのアインへの愛情は強く感じたが、それを更に超えて今では自由に振舞っているのだろうと感じる。
「先ずは席に着いていただけばよいのでは?オリビア様」
「マーサの言う通りだわ。お待たせして申し訳ありません。お二人とも是非席に着いてくださいませ」
マーサの提案通り、まずは客人に席に着いてもらうこととなった。
オリビアの正面にグラーフが、アインの正面にクローネが座ることになった。
サロンに持ち込まれたのは、普段置かれている物よりも大きめのテーブル。
あまり距離が近すぎてもよくないとの考えから、入れ替えられている。
「まずはお飲み物をご用意致しますね」
席に座ったのを確認し、マーサが飲み物を用意する。
「ありがとうございます」
「とんでもございませんクローネ様。是非ごゆっくりとお寛ぎください」
「さて。マーサ、お願いしてもいいかしら?」
「承知いたしました」
オリビアの言葉をきっかけに、マーサが部屋にいた別の給仕たちに指示を出す。
その後給仕たちは部屋を出る。サロンの中には5人だけが残った。
「もういいよクローネ」
「……アイン様?仰る意味があまりわからないのですが」
「クローネ様。オリビア様とアイン様は、以前のクローネ様との会話をご所望です。私は気になさらないで頂ければと」
二人はクローネが、クローネらしく会話をしてくれるのを望んでいた。
せっかくイシュタリカまで海を渡って来てくれたのに、少し他人行儀に感じるのは悲しい思いがあった。
「本当はクリスさんも大丈夫なんだけどね。まぁ今更か」
「……アイン。貴方は私の努力を無に帰すのが好きみたいね」
「別に俺の本質は変わってないからさ、体面があるのはわかってるけどずっとそれだと疲れるから」
「はぁ……わかりました、アインがそれで大丈夫というなら私もそうするわ」
彼女がしていたことは決して間違いではない。
王族を相手に、昔こう呼んでいたからと今も同じ呼び方をしては、周りから無礼に思われるのは当然だった。
「オリビア様。本当にお久しぶりでございます。お爺様へもう結構ですと仰ってたので、私から再度"あの事"を口にするのは遠慮することに致します。ですが前にも増してお綺麗になられたお姿は、私の目には眩しすぎますわ」
「まぁありがとうございますクローネ殿……さんにしましょう、そのほうが硬さが取れて好ましいですね。クローネさんも大人になるにつれて美しくなって、さぞかし婚約を望む方も多かったでしょう」
「それなりに申し出は来ておりました。ですが大抵一言でお断りしてしまってたので詳しくは存じておりません。ねえお爺様」
急に話を振られたグラーフは若干反応が遅れた。
「えぇクローネの申した通りでございます。一番面倒だったのは、第三王子からの求婚が問題になったぐらいで」
「まぁ。正式に申し出が?」
王子から求婚があったと聞いてオリビアが驚いた。
「いえ、場は非公式でございましたな。ですが王子が口にすればそれは公式と言ってもさして違いはないでしょう」
「確かに王家の者がそれを口にしたのならば、どんな形だろうと公式と言ってよいかと思いますが。そんな中よくイシュタリカに渡ってこれましたね」
「儂が引退し貿易都市へと療養に出ると言うことで、付き添いでハイムを抜けて参りました。その後はいくつも情報を絡ませているので、どこにいるかまでは特定できないでしょう」
「ですがオリビア様。あちらは私の姿を何度も見ていたといっても、会話をしたのは初めてなんですよ?なのにいきなり婚約を申し込むとかどうかしているとしか思えませんでした。あと生理的に受け付けませんでしたもの」
その言葉を聞いてアインは少し苦笑いを浮かべる。
アウグスト邸でアインが行ったこと、スタークリスタルをクローネに手渡したことは同じ意味があった、知らなかったとはいえ第三王子と同じようなことをしていたからだ。
「失礼致します。お料理をお持ちしました」
マーサが料理を運ぶ。
マグナで購入したばかりの、新鮮な魚介類を使ったメニューだ。
これはオリビアの好みの食材をふんだんに使っており、彼女としても楽しみにしている料理だった。
「ふふ。クローネさんのそのお話も是非続きを話していただきたいです。でも自慢の料理も届いたので、是非まずはこれもご賞味くださいね」
「そうですね折角のお料理ですから、オリビア様の好みと聞いた魚介類を堪能させていただきますわ」
「儂も頂くとしよう」
まずは暖かいうちに料理を楽しむ。オリビアの好みというだけあって、味も絶品だ。
今朝取れたばかりの魚介類を、専用の入れ物に入れたまま新鮮さを保って城へと運び入れた。
「我々もハイムにいた頃、港から仕入れた新鮮な魚介類を楽しんでいました。でもこれはもっと味が繊細でとても美味しいですね。それに新鮮です」
「それは何よりです。新鮮なのは魔道具の影響が大きいですね、イシュタリカの魔道具はハイムより数段進んでますから、そのおかげで美味しいものが頂けますよ」
グラーフの感想にオリビアが返答する。
実際、鮮度を保つために作られた専用の魔道具があるため、新鮮さは格段に違ったのだ。
あとは下処理などの技術が優れているため、素材の味を生かしていた。
「喜んでいただけたなら何よりです。たくさんお土産に買ってきた甲斐がありましたね」
「えぇありがとうアイン。私も美味しく頂いてますよ」
会食は和やかに進み、オリビアとしてもクローネとまたゆっくりと話すことができ有意義な時間だった。
グラーフも事が順調な事を喜び、食事の味を楽しむ余裕があった。
そしていくつかの料理を楽しんだ後、デザートも終わり最後の茶を飲んでいる時になり、少し話が動く。
「失礼。少し手洗いをお借りしたい」
「承知いたしました。ではご案内いたします」
グラーフが手洗いに向かいたいとマーサに告げた。それを耳にしたアインが席を立ち告げる。
「お母様。俺も少し外の空気を吸って来ます。グラーフ殿、途中までご一緒しましょう」
そう言ってアインも席を立った。マーサがグラーフの案内をするため、サロンの中にはオリビアとクローネの二人だけになる。
「さてクローネさん。アインには事前にお願いしてあったので、席を外してもらいました」
「オリビア様……?」
急に二人きりになったクローネはどうしてだろうかと考えを巡らせたものの、理由は考えつかなかった。
「これから、どうしたいですか?」
少し真剣な表情になったオリビアがクローネに尋ねる。
「それはここイシュタリカでどうしたいかということでしょうか?」
「そうですね。でもそれだけじゃないのはクローネさんもわかっているはずです」
「……はい」
アインとの事や、自分の将来的な事。いくつもの事が頭に浮かんだ。
「イシュタリカで生涯を過ごす覚悟はおありですか?ハイムではなくここイシュタリカでです」
「そんなことは、ハイムを出るときにすでにしてきたことですよオリビア様」
一つ目の質問がこの内容だったことに安堵する。
すでに覚悟をしてきたことであり、返答に詰まる内容ではなかった。
「そうですか!でしたら大きな問題はなくなりましたね」
若干いつもより真剣な顔をしていたオリビアだったものの、クローネの返事を聞いてすぐにその表情を戻す。
それを見てクローネもあれ?と少し不思議に思った。
「ではこちらで学校も通わなきゃなりませんね。どういった所がいいかしら、でもクローネさんのイメージだと令嬢たちが通う学校がいいと思いますし。そうね、足りないいくつかの教育はウォーレンにでも任せてしまいましょう」
「え、ええとオリビア様……?」
「貴女は宝石の原石、それもとびきり美しい宝石になれるでしょう。それを磨く場所ぐらい、いくらでも用意して見せます。磨き続ければ貴女が望むことは必ず叶います。皆が納得するほどのことを見せればいいだけの事ですから」
いかがですかクローネさん?とオリビアは続ける。
オリビアは暗に、努力を続ければ願いは叶うと口にした。クローネがアインを好ましく思っていることは理解している、だからこそのオリビアなりの応援だった。
「(ウォーレンの報告を受けて、お父様たちの方も問題ないでしょうから。ならいっそのこと、此処で磨いてしまえばいいんです。努力が出来て頭のいい彼女なら、いくらでも美しく仕上げられるでしょうから)」
オリビアの言葉を聞いたクローネは、それがどういう意味なのかをすべて理解した。
その後は真剣な顔をして、オリビアへと『はい』と返事をする。
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