仕込んできた取引とアインの能力
「だから海結晶についての問題は解決した。そう申し上げました」
オリビアが再度問題であったはずの件は解決したと言い出した。
「失礼ですが姫。そう簡単に解決できるならば……ハイムへと嫁いでいただく必要もありませんでしたが」
ウォーレンがそう疑問を口にする。
それもそのはず、一国の姫を嫁がせるほどの問題だったのだ。
だったはずなのにオリビアが口にしたのは解決したという言葉。
「あれは我々にとっても苦しい選択でした。我々は初代統一王のお言葉通り侵略行為はできません。そのため苦渋の選択であったのです。そして姫にハイムまで嫁いで頂いたのですから…………」
イシュタリカは他の大陸への侵略行為を許していない。
この大陸イシュタルの数多くの民族を統一し、初代の王となった統一王がそう決めたからだ。
あくまでも危機が迫っている時などを抜かして、そういった戦闘行動は一つとして容認されていない。
取引停止などは報復として考えられるが、そもそもハイムとの取引は赤字になるので基本的に行っていない。
そのため今回の報復として出来ることは恐らく、国交の断絶が限度と思われる部分があった。
イシュタリカが強引に資源を奪う訳でもなく、脅迫していたわけでもない正統な取引だった理由がこれだ。
「正直私は海結晶を探した調査団……そしてそれを命じていたお父様を少し恨んでいます」
「であろうな、恨まれることをしたのは余もわかっておる」
「あら何を分かっているのですか?」
「……オリビアを嫁に出したことをだ。お主の本意ではない所ヘな」
オリビアが恨み言を言うが、シルヴァードが考えていた理由とはまた違ったようだ。
「では何になのか教えてはくれまいか、王として謝ることはせぬ。だが父として謝ることぐらいはできよう」
「そう。じゃあお教えします……我が国イシュタリカは発達した技術を持っていると、私はそう考えておりました。調査団が帰国した際も膨大な海結晶を発見してすごいと思ってましたもの」
「確かにあの仕事は素晴らしいものであった」
「えぇそうですね、そこで満足して仕事を終えていなければですが」
「姫それは一体どういうことでしょうか」
オリビアが口にしたことにクリスが問い詰めた。
なにやら話の流れが変わってきた。
「ラウンドハートは私にそれなり以上の自由を与えてました。だからこそ伯爵家としての税収も多少自由に使えたんです。だからこそできたことがあります」
「それが海結晶の問題に繋がるのだな?」
「最寄りのハイムでだけ見つかった事、それを疑うべきでした。ハイムの北西に位置するエウロ公国……エウロでも発見することができました」
「姫様それは誠ですか!?」
ロイドが驚くのも無理はない。
貴重なはずだった海結晶の埋まっている場所がまたもう一つ見つかったのだから。
「(お母様いつの間に調査なんかしてたんだろう)」
「ですが姫どうやって調査をしたのですかな。失礼ですがあれの調査にはそれなりに深い海底へと潜る必要があります。イシュタリカの調査団を派遣したというのは聞いておりませんが」
「えぇだって調査団を使っていませんもの。使ったのは……依頼したのはあちらの大陸のギルド、冒険者達です」
「冒険者に依頼だと?オリビアよそれではまさか」
「何年も掛けて行いました。深い海に潜っても大丈夫な冒険者に依頼を出さなきゃなりませんでしたから。費用の面から言っても私が自由にできるものを超えていましたもの」
オリビアはラウンドハート家へ嫁いでから、少しずつだが海結晶の調査を行っていた。
彼女としても新たに海結晶が見つかることがあれば、イシュタリカにとっても更によいことと思い調査していた。今回のような騒動でも役に立つが、当時はそういったつもりではなかった。
「長く話していて疲れてきたわ、もう簡単にまとめちゃいますね。イシュタリカの調査団は近海をただ調査しただけです。地元で生活している人間の声を聞いて、隠れている入江などの調査は行っていませんでした」
「い、入り江ですと……?!ですが入り江では魔物の骨などが蓄積するのは……」
「入り江の砂を掘ったら見つかったということでしょうかお母様」
「ふふ……そうよアイン。さすがお利口さんね」
「エウロ公国は風による災害が多い地域です。なので波の力が強くなって……と考えました」
通常入り江は穏やかな場所が多いが、エウロ公国にあった入り江は違った。
断崖の岩はとても頑丈で、それを削るのは容易ではない。
それでも削られできた入り江には、強い波が押し寄せる。
その結果、海流に流され波に押されて海底の蓄積物が徐々に移動し、エウロの入り江へと海結晶が蓄積されていった。
「アインが説明したとおりです。エウロの気候で発生した波によって、入り江に海結晶が運ばれていました」
「……では今度はエウロと取引をせよと、余に申すのかオリビア」
「何を戯けたことを仰ってるのお父様。私はもう誰かの妻にはなりません。エウロとの取引はすでにある程度の段階まで進めてますもの」
「……どういうことですかな姫様」
皆がオリビアの言葉に惚ける中、ウォーレンだけがそのことを問い進めた。
「はい、こちらです。これが『海結晶についての問題は解決した』という言葉の理由です」
そういってオリビアが差し出すのは2つのメッセージバード。
オリビアが帰国の際にも使ったが、メッセージバードとは鳥ではなく、受け手と送り手がワンセットを持つことによって使える使い捨ての連絡器具。
一つの魔石を特殊な加工で二つに分けて、繋がりを保ったまま作動させる。
一方通行の連絡となるため、1往復分として2つのメッセージバードを用意していた。
オリビアとしても本当はせめて2往復分にしたかったが、イシュタリカとエウロの距離は遠いため、メッセージバードも高価となる。
この2つのメッセージバードは、オリビアが自由に使えるラウンドハート領の税収をやりくりし、その中でようやく用意することができたものだった。
「余にはこれがメッセージバードに見える、ウォーレンよお主もそうだな」
「えぇ間違いないかと、姫様……これが解決した理由というのはもしや」
「あぁ……昔から頭が良く、交渉に関していえば、陛下ですら言い負かすことがあった姫様ですが……まさか」
マーサがオリビアの出したメッセージバードを見て、驚きの言葉を口にする。
ウォーレンも予想できたようだが、マーサも理解したようだ。
「商業ギルドや冒険者ギルドの人員をいくつか通してあります。なのでラウンドハートの第一夫人であった私と断定はできないでしょうね。このメッセージバードと合わせてこちらの書類もお渡しします。内容は海結晶の採掘にかかる人件費や、海結晶の買取費用についてエウロの希望金額です」
そういってオリビアが一枚の紙を取り出し、その紙と2つのメッセージバードを宰相のウォーレンへと手渡す。
「くはは……姫は昔から将来が楽しみな王女でしたな。まさか単身で国家同士の取引をここまで進められてしまうとは」
「エウロとしては利用価値がない素材でしたから、交渉の中である程度買い叩かせて頂きました。まぁ仲介人越しではありますが」
次々と飛び出るオリビアの言葉に、シルヴァードやウォーレン、ロイドたちは驚きを隠せない。
「姫様。相手としては姫様のことをどういった者として認識しているのでしょうか」
「新規の商会として進めましたよ。鉱石の利用用途としては新製品の開発に使いたいと濁しましたけど」
「……海結晶の単価としてもまずまずの金額に抑えていただいております。人件費等を加味してもこれならば十分すぎる成果です。想定できる採掘量も、十分しばらくの間賄える量であります」
書類を読み終えたウォーレンがシルヴァードに対して感想を述べる、内容としてはイシュタリカとしても問題なく進められそうなものだった。
「とはいえこちらの素性をどのように明かすかですな。取引内容はこれであらかた進んでいるようです。どうやらイシュタリカと名乗っても特に問題はなさそうですが」
「すまぬ……余はなにがなんだかわからなくなってきた」
「陛下お察し致します。私もですよ」
疲れ来った表情をしたシルヴァードにマーサが同調する。
「もうこのこと話すの疲れちゃったわ。お父様もう取引とか全部お任せしてもいいかしら」
「そう簡単に言うがな、これではオリビアをわざわざ嫁に出した意味がなかったようだ」
「アインと言うかわいい子ができたもの、それで帳消しにすることにします」
「……そうか」
オリビアにとってはアインという子ができたことで、他国の地での辛かったことなどはすでに吹き飛ばせていた。全員が全員、オリビアが仕出かしたことに驚いていたが、なにやら話はうまくいきそうなことに安堵する。
*
一番チートだったのはお母様だったようです。
「アインごめんなさいね長々とこんな話しちゃって、詰まらなかったでしょう?」
「いえそんなことはありませんよ。疑問に思ってたことが一気に解決した感じですから」
「ならよかったわ」
時間にして1時間程度、ようやく皆が疑問に思っていたことが解決?した。
最後にお母様がちょっとしたチートっぷりを発揮してしまわれましたが。
「マーサよ、茶を用意してくれぬか」
「承知致しました」
「私も手伝おう。陛下、姫様、一度失礼致します」
マーサさんが陛下に頼まれてお茶を用意しに行った、クリスもそれに手伝いで付いていったが。
たしかにちょっと喉も乾いてきたよね。
「まったく余の子はどうにも話題や騒動に愛されているようだ」
「違いありませんな陛下」
「確かにその様で。……陛下、一つよろしいでしょうか?」
「なんだ」
ウォーレンさんが一つ疑問に思ったようで陛下に質問を始めた。
「失礼ですが不思議で堪らないのです、なぜラウンドハートはアイン様を廃嫡したのでしょうか」
「……ウォーレンさん、俺のスキルが原因です」
「ん?スキルが……ですかな?」
ロイドさんが不思議そうな顔で俺のことを見る。
「恐れながらアイン様、スキルだけでしょうか?」
「はい。大将軍である父上としても、お婆様のイシス様としても…………武門の名家であったラウンドハートで、私のスキルは認められなかったのです。弟のグリントは聖騎士を産まれ持ってきましたから」
「ふむ……それは少々不思議な話ですねロイド殿」
ウォーレンさんがまた不思議そうな顔をしながら、今度はロイドさんのほうを向いて話しかける。
「うむやはりハイム……あの大陸はいろいろと遅れていると確信した」
「えぇっと、どういうことですかロイドさん」
「アイン様。私はイシュタリカ騎士団を統べる元帥としてここにおります。では私の生まれ持ったスキルはなんと思われますか」
なんでそんなことを俺に聞くんだ、どうせ聖騎士とかそういったものだろ。
自慢か?許さんぞ。
「……聖騎士とかでしょうか」
「ぷっ……くくく、ロイド殿が聖騎士を持って生まれ……はははは!」
「そう笑わなくてもよいだろうウォーレン殿……表だって話すことはあまりないのですが、私の生まれ持ったスキルは"裁縫”でありましてな……」
裁縫だと?裁縫って服とかを縫うあの裁縫?
こんな屈強な男の人が裁縫を持って生まれた?ジョーク?
「困惑しております。服を作ったりするのがうまくなるといったものでしょうか」
「こんななりをしておりながらなんですが、その通りでございます。自分の努力を自慢するようなことは好みませんがな……自分にとっての血のにじむような鍛錬を続け、様々な修行をしたのちに私はこのイシュタリカ騎士団でも最強の一角となりました」
ロイドさんが自分が最強の一角になったと言った。
その時の表情はそれを誇りに思っているようなカッコいい表情で、俺は羨ましく思った。
「簡単なこととは言いません。ですがそんな騎士に向いていなそうな物から努力を続け……騎士団のトップにまでたどり着いたのですね」
「アインよ、余もロイドの強さとその努力は認めておる」
なるほど陛下にこうまでいわれる程なのか。
「今度ロイド殿の裁縫技術でも見せてもらうとよいでしょう」
「ぬぅ!」
「……と、一つの例を出させて頂きました。はっきりと申し上げましょう。我々イシュタリカの騎士団であろうとも、自らの努力で元帥までたどり着いた人間がいます。ハイムの騎士団でそれができないとは思えないのですよ。更に掘り下げますとハイム程度でそれができないわけがないのです」
ウォーレンさん随分と言いますね。
イシュタリカの人たちの強さは見ていない。
だけど技術力とかを見るにそちらもかなり実力者たち揃いなんだろう。
「うむ。アイン様、我々が不思議に思ったのはこのことなのですよ」
「私も行くまであんなにひどいとは思いませんでしたが、ハイムは生まれによって大きく区別されます。その後の成長に関してはあまり考慮されていませんでしたもの」
「なんと、それはもったいない……ロイド殿どう考えられる」
「純粋に鍛える技術や教育技術がないのだろう、それゆえ生まれという運に頼るしかない」
イシュタリカでも生まれ持ったスキルは重要だと思っていたけど、努力で元帥までたどり着いた人を見るとちょっと安心した。
なぜなら自分の居場所があるように感じたんだ。
あとロイドさんの裁縫技術はあとで見せてもらお。
「皆さまお待たせ致しました。温かい紅茶をお持ち致しました」
とか思っていたらマーサさんとクリスさんが戻ってきた。
「では裏の部屋へと参ろうか。アインよこの謁見の間では裏手に休憩できる部屋があるのだ。そこで話を聞かせてくれ」
「承知致しました陛下」
「陛下……ふむ、まぁ呼び方はあとででよいか」
*
陛下に先導され玉座の裏……裏に掛けられていた大きな布、布と言っても金糸の刺繍が施された豪華な物だった。
その布の横には隠されるように扉があり、そこから部屋に入るとまた広い部屋があり大きなソファがいくつか配置されていた。
「皆さまお掛けください。お茶をお配り致しますね」
「こちらへどうぞ姫、アイン様」
マーサさんが紅茶を配るなか、俺とお母様はクリスに案内されそばのソファに腰を掛ける。
食事の後も長い休憩ができなかったので、座れるのはありがたい。
配られた紅茶を口にして気を落ち着かせた。
「ふぅ。いいお茶ですなマーサ殿。さてアイン様……よろしければ我々に貴方様のステータスカードをお見せいただくことは可能でしょうか?」
ウォーレンさんが見せてって言ってるけど、うーん簡単に見せていい物かわからない。
とりあえずお母様に視線を送ってみよう。
「アイン見せても大丈夫ですよ。何も恥ずかしいこともありませんから」
「わかりました。それじゃえっと……」
そうして胸元からステータスカードを取り出す。
なんか久しぶりに見た気がするなあ……成長するはずがないんだけど。
アイン
[ジョブ] 家無き子
[レベル] 9
[体 力] 235 =>180UP
[魔 力] 341 =>300UP
[攻撃力] 74 =>52UP
[防御力] 40 =>19UP
[敏捷性] 95 =>70UP
[スキル] 毒素分解EX,吸収,HP自動回復,訓練の賜物
ツッコミどころしかなかった。
いつの間にレベル上がったのか知らないし、ステータスの伸びがおかしい気がするんですが。
あと吸収ってなに、いつの間に習得してたんだ俺。
なにがなんだかよくわからないけど、自分の紙耐久にへこむ。
「お、お母様……」
「大丈夫よアイン、心配しないで」
「いえ別の心配が出来てしまったので先に見てくださいますか」
そういって俺はステータスカードをお母様に手渡した。
「っ!?あら……?何が起きたのかしらこれ……」
そりゃそうだよね、謎現象すぎてお母様も何とも言えないようだ。
「どうなさいましたか姫」
まぁもういいや面倒くさい、クリスさんが気遣ってくれるけどもう公開しちゃおう。
「何があったのかはしりませんが、私のステータスが急激に成長していました。ですが原因もわからない以上もうこのまま公開致します」
そう言って俺はもうステータスカードをテーブルの真ん中に置いた。
「急激に成長ですかな……っほぉ」
「五歳とのことですがこれはなかなか……方向性としては前衛が得意なバトルメイジですかな」
「余にも見せよ!」
三人のおじさんたちが俺のステータスカードを見に来る。
前者の二人は、何か驚いた様子なのとすでに俺の教育方針を考えているみたいだ。
ロイドさんがいう、バトルメイジとやらはどんなジョブなんですかね。
「ふむ悪くないステータスではないか。尚更廃嫡するには勿体ないが……っこれは」
陛下が驚く、あぁ見ちゃった?
俺の毒素分解EXだろ?イカしてるのはわかるからあまり驚かないでください。
「ウォーレン、ロイド!これを見るのだ」
「これとはスキルですかな陛下……っこれは。ほうほうこれはむしろ」
「……ラウンドハート家に感謝せねばなりませんな陛下。下手をすればそれなりに大きな"事”を構える事態となりえましたぞ」
ウォーレンさんに続いて、ロイドさんが俺のステータスを見る。
おいやめろ、たしかにゴミスキルかもしれないけどそれでラウンドハートに喧嘩をうるのは結構ですからね?
「オリビア。まさかこれほどまでに」
「イシュタリカですら替えが利く人間は一人も居ませんもの、私のアインはそれほど凄い子なんですから」
なんか知らんけどお母様ありがとうございます。
「……やはりこういった能力でしたか」
クリスがステータスカードを見て納得した。
やっぱりこんな能力だったかとでも言いたいのかお前、傷つくからもうやめてね。
「ウォーレンよ。何よりも先に用意する書類がある、理解はしているな?」
「勿論でございます。まずはこの話が終わり次第そちらに取り掛かります」
「ロイド、城の警備のレベルを確認せよ。お主が必要と感じるまでそれを高めよ」
「勿論ですよ陛下」
なんでちょっと大事っぽくなってるの?
怖くなってきたんですが……。
あと用意する書類ってなんでしょうか。
「マーサにクリス。わかっていると思うがこれは機密と同等に扱う」
「承知致しました」
「はっ」
「お、お母様どうして機密なんかに」
さすがにちょっと怖くなってお母様に尋ねてみる、ちょっと助けてほしいです。
「アインがすごい子だからよ、大丈夫だからね」
「何もすごくないのですが……わかりました」
「……失礼。アイン様はご自身のスキルについてあまりご存知ないと?」
「どれについてでしょうか?毒素分解はまあ……知ってますけど」
「いえ理解されておりません!」
うわあ驚くから急に大きな声にならないでウォーレンさん。
そんな食い気味に来なくても。
「我々は正直ラウンドハートに感謝しております。まさかこのような……使い方によっては恐ろしすぎる能力を持ったご子息を廃嫡してくださったのですから」
「アイン様。貴方様の能力はとてもじゃないが、貴方様が考えているほど安い能力ではございませんぞ。しばらくの間これを口外してはなりません」
ウォーレンさんに続いて、ロイドさんがなんか俺を褒めてくれた。
一体全体どういうことなんだろうか。
「……ステータスの数字なんかどうでもよくってしまうスキルであった。オリビア……ラウンドハートはその…………なんといえばよいか、なぜこの利点がわからなかった?考えが足りないにも程があるのではないか」
「素直に言えばいいんですお父様。あの家の人間はその凄さを理解できませんでした。これに関しては私も正直すごく驚きました」
「そうは申すがな。武の家系のラウンドハートとはいえ、そこまで無知ではあるまい?」
現状、ものすごい勢いでラウンドハートが貶されていますが。当然な様子なので何も言えませんでした。
「…………義理のお母様だったイシス様なんか、アインのスキルがわかったとき小さな声で『ハズレだ』なんて言ってましたもの。なので私からは何一つ説明も助言もしておりません。その後も教えてやるもんかっていう気持ちでしたし」
お母様が言った言葉を聞いて、陛下もウォーレンさんも・・・クリスさんたちまで頭を抱えた。
「姫。ではアイン様がご誕生なさったとき、アイン様への扱いが悪くなると分かったから…………そのときからイシュタリカへの帰還をお考えに?海結晶のことといい、準備が良すぎるのではありませんか」
「アインがあの家に居ても幸せにはなれなかったでしょうから。別のやり方でアインを"まし"な状況にするのはできたと思いますよ。ただあくまでも私はアインを幸せにしたかったの。海結晶は、純粋にイシュタリカのためを思って、自由な時間に調査をしていただけよ、あくまでも最初はね。でも結果的に今回みたいな時に役に立つのだからよかったわ」
お母様が、悪戯成功がしたかのような笑顔を浮かべて返事をした。
「本当に姫様は……」
「マーサ殿。何度目かわからないため息がでますね」
またマーサさんとクリスさんが少しため息をついている。
「……ええっと、どう凄いのか教えてほしいかなーなんて……思うんですが」
「……ゴホン。私が説明致しますアイン様」
咳払いをしたウォーレンさんが説明してくれるようだ、お願いしますね。
「アイン様には"毒"は通用しません。これはよいですか?」
「はいそれは実証済みです。ですが俺が死なないだけでしたし……」
あ、スタークリスタル作ったわ。
貴重品らしいし確かに有用だった。
「えぇそうですね。それだけでも素晴らしいのですが……私が考えるのは、アイン様の毒素分解EXは恐らく病気までも破壊してしまうでしょう」
「病気を、ですか?」
「体にとって毒と分類される場合なだけなのか、アイン様が毒として認識したものをなのかはまだわかりません。ですが大概の病気や毒は分解できると思われます。それはつまり多くの人を救うことができます」
「った……たしかに」
「解毒できない毒なんていくつもございます。それを解毒できるとなれば需要ははかりしれませんよ」
考えてもみなかった、たしかにそうだ。
EXとついているほどなのだ、解毒できない毒があるとは思えない、病気も似たようなものだろう。
「あとは浄化しなければ通れない場所……危険な場所となりますが、貴重な資源があるにも拘わらず立ち入るのが難しい場所ですな。そんな場所はここイシュタリカでもいくつもございます。オリビア様のご子息としてそのような危険な事は許されませんが、そのような場所の採掘ルートの確保などなど……多くのことが考えられます」
「ははははは!ラウンドハートが馬鹿で助かったようだなウォーレン殿!」
「えぇ"大馬鹿"で正直助かりました、国家のバランスに影響を及ぼす可能性もありましたからな」
ゴミスキルと思っていたのが一変、こんなにも絶賛されていてちょっと混乱してきた。
あれでも……その有用性に気が付かなかった俺も、同じく馬鹿と言うことに……。
なんか複雑。
「そういえばお母様……なんか吸収とかいうスキルも追加されているのですがこれはなんでしょうか」
少し気恥ずかしくなってきたから話題をちょっと変えたくなってきた。
「あぁそれのことね、成長してきたからアインの種族としてのスキルが発現したのね。大丈夫よ問題はありませんから。その吸収に関して言えば、ステータスカードに見えるようになっただけで、前から使えたはずだもの」
「種、種族?」
種族のスキルってどういうことだ。
この世界の人間は吸収とかいうスキルを使える人間たちなのか?
ステータスカードに記載される前から使えたはずというのもあまりよくわからない。
「アイン様、その吸収に関することも少々ございます。私からお話ししてもよろしいでしょうか?」
「え、えぇなんですかクリスさん」
吸収のことを思い出してお母様に聞いてみた。
その後クリスも何かを話したいことがあったようで俺に話しかけてくる。
「恐れ入りますがこちらを手に取り、飲み物を飲むイメージしてもらえないでしょうか」
そうしてクリスが手に取りだしたのは小さな魔石……前に港町ラウンドハートの露店で見かけたのと同じぐらいのサイズをしている。
魔石を持って飲み物を飲むイメージをしろとか、クリスさんもひどい性癖をしてる。
前に見た魔石と同じで、甘い匂いを発していた。
魔石の魔力は毒なんじゃなかったのか?クリスさんが渡すぐらいだから害はないんだろうが。
「構いませんよ。でもイメージするよりも普通に舐めたりしたほうがいいんじゃ?」
「な、舐めるのですか?魔石を……?手に持つぐらいならば問題はありませんが口に含むのは……」
「えぇだってキャラメルみたいに甘くておいしいじゃないですか、魔石」
……キャラメルのようだと伝えたら、部屋の空気がしんと静まってしまった。
「姫。ご説明を頂けないでしょうか」
「ねぇアイン?魔石を舐めるなんて危ないこといつしたのかしら……お母様に教えてくれるわよね?」
有無を言わさぬお母様の勢いに、俺は素直に説明する。
「……前にお母様と港町の露店に行きましたよね、その時魔石について教えて頂きました。意地汚かったのは反省しております。ですがどうにも甘い匂いが魔石からしてきたのでつい舐めてしまいました」
「そう……わかったわ、怒ってないですよアイン。だから心配はしないでいいのよ、知りたかっただけだから」
「失礼ですが姫。港町で売られていた魔石について何か情報は」
「あの魔石は500Gの安物だったから、おそらくはビッグビーのものでしょうね」
ビッグビーは確か全長が80cmほどの大きな蜂だ。
あまり狂暴ではないし強くないが、繁殖力が強く大きな巣を作る。
そのためたくさん討伐されていたはず、それで討伐ついでに手に入った魔石を露店で売っていたはずだ。
数が多いしあまり力が強くない魔石だから、500Gとかいう捨て値で販売されている。
「なるほど。実はこちらもビッグビーの魔石になります……そしてこちらの匂いは如何ですかアイン様」
そうしてもう一つの魔石を取り出した。
その魔石を俺のそばに持ってくる。
「おぉこっちはリプルの匂いがします。リプルの蜜と、果肉の甘酸っぱい匂いがしてきます!」
リプルジュースと同じ匂いがして、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「……こちらはリプルモドキです。ビッグビーと同程度の弱い魔物ですが、なるほど匂いが……」
俺が魔石の匂いに興奮している間、クリスが何かに気が付いてしまった。
……まだ面倒ごとは続きそうでしょうか?
「アイン様、もしかしたらステータスの急激な伸びも説明できるかもしれません」
本当ですか?
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