第12話 「俺の黒歴史」

 部屋に新しく本棚が入っていたので、今読まない本をそこに収めた。1歳に勉強机とか本棚とか必要ないと思うけど、私の場合前世の記憶があるので、あってもいいのかな? 


 でも、「前世の記憶があるから、勉強を始めても大丈夫ですね」なんていわれるのは、いやかも・・・。


 頭をガリガリ。って、前世の癖って、転生しても治らないのね・・・。

 

 まあ、今気にしてもしょうがないか。


 せっかくだから机に着いて読むかなぁ~。ベットでごろんってして読むのが好きなんだけどね~。


 机に向かってお行儀よく座り、「俺の黒歴史」という本を開いた。


 


 「よお~。初めまして。俺は、ランディ・スライム。この本を開けたってことは、お前転生者だな? 」


 開いた本の上に、お人形サイズの男性がいて、右手を上げて話かけてきた。


 これって、立体映像ホログラムっていうのかな? このランディさんは、既に亡くなっているのだから、常識的に行くと映像だよね?



 「おっ! こりゃまたえらくちっさいな~。こんなに小さい時から勉強なんて、恐ろし事になるぞ!」


 何?! 


 今の私を目の前にして語りかけてるとしか言えない状況に、カチンと固まる。


 「ああ、わかるぞ、わかるぞ。思いっ切り混乱しているんだろ」


 腕組んでうなずいているのをみると、これは本当にランディ・スライムなんだろう。


 そう仮定して、なんでこんなに小さくなって生きているのかってこと。


 「あっ! 今、死んでいるはずの人がなぜ小さくなってこうしているのかって、不思議に思っているだろう!!」


 ビシッと指さされた。なんで、分かったのだろう?


 「お前、結構顔にでてるぞ! それに、俺でも逆の立場なら思うことだからな」 

 おーなるほど! ぽんって合点した。


 「それにしても、まだ赤ちゃんか?」


 「ううん。今日が1歳の誕生日だった。ついでに言うと、この本が誕生日プレゼント」


 ランディがげって顔をして、ヤンキー座りした。落ち込んでいるようだ・・・。


 「お前、何やったんだ? 親にばれるようなことしたのか? いじめられていないか? ああ、それはしっかり申し送りしておいたはずなんだが・・・!」


 かなり苦悩し、てんぱっていらっしゃる。


 向こうが先にパニクルと逆にこちらは平静になるもんだね。


 「私、もともと女の子なの。素敵なお嫁さんになりたかったの。だけど死んじゃって、でも、転生したからその夢を叶えられると思った。ナノに・・・、アンタのせいであのダメ女神、私を男として転生させたのよ!!」


 思い出したらだんだん腹が立ってきた。


 「へっ?」


 「猛烈に悲しくて、所謂ギャン泣きというのをしたの。そしたら、今の両親がめちゃくちゃ心配していたからって、女神様が私のことをばらしてたの!」


 「そっ・それは大変だったんだな?」


 私の勢いに、ランディは、たじたじになっていたけど、持っていき場のなかった感情を吐き出すことができて、私はちょっとすっとした。


 「・・・・・・」


 「ところで、貴方はなぜそんな姿で生きているの?」


 すっと目をそらされた。


 「貴方は、死んでなかったってこと? 本の中にいたのはなぜ? 他の人は知っているの?」


 八つ当たりで質問攻撃をしちゃった! どうだろう? 困っているかな? 取り合えずあとは、なぜなぜを適度に繰り返しつつ見つめれば落ちるはず。


 じーーーーー じーーーーー


 「なぜ?」


 ちょいあざとく、小首を傾げる攻撃もプラスして、こてん。


 「まぁ。本の題名にもあるけど、『黒歴史』ってことだな」


 にやり 落ちたね。


 「俺のもともとの名前は、ラーディアス・レプトリアムスといって、この国の名前はレプトリアムスというんだ」


 へっ? この流れで行くと、この国の王子だったってこと?


 疑問が膨らむが、そこからたっぷりとタメを作っている。せかしたいけど、ここは黙って続きを話すのを待つべきかな?


 いい加減待ちくたびれた頃、漸く話し出した。


 「なんで、続きを訊ねてこない!!」


 怒られてもね~。気を使ったんだけど、聞いて欲しかったのね。


 「じゃあ、続き話して」


 「ちょい冷たくないか? 俺、同郷の転生者の先輩だよwwwww」


 うん。黒歴史を作っちゃったね。私も気が付いたら既に破棄して埋めたいあれやこれやがあるんだよね~。これからのことを考えると、しっかり全部暴露してもらって、私のこれからの糧になって頂きます。


 「うー、まあ・その・・・。察しろよ!」


 「あっそう。じゃあ片づけるわ」


 「えーそれはないだろう!!」


 「だって、その本真っ白じゃない。それって、貴方がいるからだよね? 話さない、読むものなし。今の私に必要なしでしょう」


 がっくしと、落ち込んで本の上で影を背負ってのの字を書いているランディに、ちょっとやりすぎたかな? って胸がつきンと痛んだ。なので、ホローをすることにした。


 「これから、困ったりすることがあったら相談に乗ってくれる?」


 がばっ! あっという間に復活して胸を叩く。


 「ああ! 任せておけ!」


 結局、黒歴史の話は一つも知ることはできなかったけれど、チュートリアルさんを手に入れた。


 ご先祖様の、転生者の先輩に対して失礼だって? 



 実は、こうして会えて話せることが嬉しいんだよね。やはり、どこか不安で寂しかったのかもしれない。 

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