人間

 人間はつぎはぎだ。

 多くの環境に適応し、その場しのぎの生存のために得た形質を後生大事に残している。

 その始まりが腰痛だ。

 人間は猿が二足歩行をし始めた事で、脳を支える事が出来るようになり、脳は大きく、重くなっていった。

 そして、進化の行き着く所へ歩み始めた。

 大きな脳を手にした人間はコミュニティを風習を秩序を文化を社会を作り出した。

 その中で人間は多くの進化を得て来たが、ある地点で人間は進化を外部に発注した。

 それは、車であり、飛行機であり、電話であり、カメラであり、望遠鏡であり、ネットだ。

 人間は進化を科学に代行させ、生存を切り捨てた。

 人間の身体は少しずつ科学に置き換わり、脳でさえ、より高性能な物がその処理を代行している。

 そして、人間は最後の進化を遂げた。意志の統合と平均化。

 人間はその二本足で立った時からたった一つの意志を得るために、この長い長い進化の歴史を歩んできた。

 その道のりは単純なものだったが、この形質を得るには気の遠くなる時間が必要だった。

 まず始めに、人間は一人ひとり意志を得た。だが、その方向性はバラバラで、間違えだらけだった。

 人間は分からなかったのだ、一つの意志が何なのか。全にして一の意志を知らなかったのだ。

 故に、時間がかかった。人間は少しずつ“わたし”を知り、“わたし”が“わたし達”に変わるまで、何万年もかかってしまった。

 そして、これが本当の人間だ。

 身体はより優れた物に置き換わり、 思考は外注に頼り、意志は一つに統一された。

 そこには“わたし”も“あなた”も“キミ”もいない。あるのは社会だ。

 もう意志は重要ではない。そこに人類はいず、居るのは人間だけだ。

 秩序のみが人間を、社会を突き動かす。


 あぁ、なんて美しいのだろう。

 これほど完璧な存在はいない。

 ここは実現しうる最高の天国だ。

 そしてなんて悲しい結末だろう。

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