41回目の世界
世界は積み上がっていく
私達は世界を見送り
世界は私達を置いていく
誰も知らない真実
私しか知らない秘密
青い空、白い雲。
小鳥は自由に羽ばたいて、好きな所へ飛んでいく。
けれど、自由な翼を持った小鳥はかわいそう。
なんでもできて、なんでも願える小鳥に自由が重くのしかかり、その小さな翼では遠くへは飛んでいけない。
かわいそう、とてもかわいそう。
だから私には自由はいらない。
屋上から見える景色はいつもと何一つ変わらない。
いや、少し変わったかな。海の方の瓦礫が無くなってる。それに水平線に見える軍艦が倍に増えてる。
とても遠くのことだけどここだけは守らないといけない。
ここが私達の最前線であり、最終防衛線。
でも、兵器は私を含めても5人だけ。それでもこの半年、ここを守ることができたのは全て私のおかげ。
私の身体は銃で撃たれても、剣で斬られても傷付かない。どんな兵器でも私を壊すことは出来ない。
だから私は死なないし、倒れることもない。もし、私を壊すことができるとしたら、それは――。
「姫、お昼持ってきたよ」
彼だ。いつもと変わらない癖っ毛の彼がサンドイッチを持って、梯子を昇ってくる。
「私の分は要らないって言ってるのに」
私は食事を必要としない。こうやって日に当たっているだけで十分。でも、決して食べられない訳じゃないけど、今回は彼から何も受け取らないと決めてるから。少し寂しいけど仕方ない。
「まあ、気分だけでもさ」
屈託のない笑顔で彼は私の隣に腰かける。私も足枷の鎖をジャラジャラと鳴らしながら地面に座る。
この鎖は私が自由でない証。私を兵器として置く人間の臆病な心の表れ。
人間達は私がいつかこの都市を見捨てるんじゃないかと考えている。実際この都市がどうなろうとも構わない。でもここには彼がいる。だから守る。
嫌なモノが近づいてくる。最悪のタイミングだ。
「少しうるさくなるけど、我慢してね」
立ち上がり、遠くの空を見つめる。いつもの爆撃。
彼はカバンから双眼鏡を取り出し、私が見つめる方角を見る。
「ちょっと多くない」
僅かに声から不安を感じる。そんな思いは彼に感じてほしくない。それが杞憂であっても。
「このぐらい平気。私に任せて」
彼を安心させるために柔らかな声で答える。
瓦礫の街に散らばる黒い箱を目覚めさせる。全部で1500個の巨大な箱。その一部を爆撃機の迎撃に向かわせる。
いつもなら爆撃させてそのエネルギーをいただくが、彼を安心させるために、彼との食事を邪魔した奴らに攻撃の間も与えはしない。
黒い箱は順調に爆撃機を落としていく。
その光景に安心したのか、彼は安堵のため息を付く。
「俺、ずっと考えてたんだ。姫は名前なんて必要ないって言ってたけど、やっぱり名前は大事だよ」
待って。それはダメ、それ以上は。
「姫の瞳はまるで北極星のように輝いてるから――」
その先を言っては――。
海の方から音速で何かが近づいて来る。その方向に黒い箱の壁を積み上げる。
その一瞬、黒い壁は爆ぜ、隣の校舎が吹き飛んだ。
あぁ、これはダメだ。
身体中にひびが入り、その隙間から青白い光が漏れる。
立っていられない。ふらつき倒れる。
「姫!しっかりして、姫!」
顔面蒼白の彼は私を抱き上げ、涙を流している。
そんな顔をしないで、君のそんな顔はもう見たくないの。
もう一発音速の弾丸が襲いかかる。
残った黒い箱を全て集め強固な壁を作る。それでも止められなかった。彼に当たらないように射線をずらすのがせいぜい。
もう黒い箱の制御が出来ない。爆撃機を撃墜していた黒い箱が落ちていく。
彼が何かを叫んでる。もう何も聞こえない。
私の意識はここで消えた。この後の事はもう何十回も見ている。
私の身体は崩れ、その中から蒼い液体が流れ出す。彼は必死に止めようと押さえつけるけど、私の身体は完全に砕け散ってしまう。
このとき彼が何を願ったか知らないけど、私の次に“世界の器”になるのは彼。
けど、彼は世界の重さに耐えられず、世界に押し潰されてしまう。
だから私は彼を救う為にもう一度、私の意識が生まれた瞬間からやり直す。
これで40回目。今回は前より104日伸びた。
次は、次こそは彼を救い、負い目を感じることなく彼の口から私の名を聞きたい。
私は自由ではないけれど、私のこの心は、この愛はどんなものにも縛られない。
それじゃあ、もう一度私を知らない彼に会いに行こう。
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