迎え
おじいちゃん、死んじゃうの。
そう、静かに少女は私の手を取り問いかける。
「あぁ、そうだよ。これからはお前一人で生きていくんだよ」
少女はその言葉を予見していたが、それでも涙を我慢することはできずに私の手を頬に当てる。
おじいちゃんは幸せだった。
少女は未来を見ていない。少女は憧れている。静かな死に。独りの死に。だから言わなければならない。
「人の死を羨んではいけないよ。生きているから死は尊いんだよ」
優しく、願いながら少女の頬を撫でる。
「少し一人にしてもらえるかな、友人がそろそろ来るはずだ」
少女は離れることを一度は拒んだが、だだをこねるほど子供じゃない。涙を見せないようにしながら、部屋を出た。
一人になった部屋で息をつくと、ベットの傍らに見知った姿があった。大人に成りきれていない青年の顔は昔と何一つとして変わっていなかった。
「80年、待ちわびたぞ」
「貴方の願い通り、迎いに来た」
そう静かに死神は答える。
「100年は人には長すぎる、もう少し早く迎えに来てほしかったものだ」
「人の死は魂の寿命が尽きるまで繰り返す、それが輪廻だ。だから貴方はそれまで生きた、それだけだ」
ただの皮肉だと言うのに真剣に返さなくてもいいだろうに、と少し笑う。
「あの娘の願いも叶えてくれるのか」
最後の心配事、その確認だけはしておきたかった。
「心から願わなければ俺は叶えることはできない」
それを聞いて安心した。
「なら、安心だ。いつかあの娘は君に願うだろう―」
声を出すのも辛くなってきた。
「―そろそろ、か」
死神が頷くのを見届けると、体の力を抜き目蓋を閉じる。何も思い残すことはない。
約束の刻、この瞬間のために私は生きてきた。
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