第15話 紡ぐ運命 -Fate goes by-
・1・
どぐんっ!! と。
一つの世界が脈打った。
「う……ッ」
空気から伝播するその不気味なうねりに、魔装状態で
「……おみごと」
一面破壊の跡。対するメドはその中心に静かに佇んでいた。彼女の半身は消し飛び、左肩から徐々に塵と消えていく。
勝負はついた。それでも彼女はどこか楽しそうだった。
「でも残念。少しばかり遅かったようですわね」
「どういう、意味ですか?」
「言葉の通り。私たちの存在がようやく完成へと至るのです……ククク……アハハハハハハハハハ!!」
「……ッ」
狂ったように笑うメドが消滅したその時、夜白から通信が入った。
それは他のホムンクルス2体も、彼女同様に忽然と姿を消したという報告だった。
どぐんっ!!
再び悪寒が走る。今度はさっきよりかなり強い。
筋肉が弛緩し、まともに足に力が入らない。痛みとは違う、まるでジェットコースターで臓器を持ち上げられるようなそんな不快感。
(……魔力が……吸われている……?)
心当たりはある。
海上都市の中心にそびえ立つあの黒い塔。
「モノ、リス」
位相がズレにズレまくって、もはやアリサの目には蜃気楼のように映っている。彼女ではあの場にはどうやっても辿り着けない。
そこはきっと今、とある少年が最後の戦いを繰り広げている場所だ。
・2・
「何だ……これ……」
ユウトたちの前に、まるでオーロラのような美しい光景が広がっていた。
周囲のテレズマが再び結集していく。
何か、一つの巨大な命が生まれようとしている前兆だ。
「……バカな……
「何ですかそれは?」
オーレリアの聞き慣れない言葉に春哉は尋ねた。
「文字通り、神の創造だ。新世界を運用するための統括システム……元々成長したメドたちはその器を満たすものとして機能するはずだった。だが私以外に一体誰が……」
まるで全身を虫が這いずり回っているかのような生理的嫌悪感が背筋を走る。
「あれは全ての魂、魔力、時間を吸収してやがて世界となる。今、私たちの目の前であらゆる神話体系に属さない新たな神が生まれようとしているんだ」
周囲のテレズマを全て呑み込み、それでも満足できないとあらゆる場所から暴食を繰り返す途方もないエネルギーの塊——外神が、ギロッとユウトたちを睨んだ気がした。
「ッ!!」
次の瞬間、神は降誕する。
全長およそ50メートル。白銀の長い髪は九つの頭を持つ大蛇。光り輝く肌はどこまでも冷たく、大理石のように美しい。男か女かもわからないその容姿はゾッとするほど艶やかだ。
まるで最初からそこにいたとでも言うように、外界の神ハイドラは静かに、そして流麗に佇んでいた。
(ッ! まずい!!)
刹那、ユウトは反射的に盾を召還した。
続く破壊の音。ハイドラが意味不明の叫びをあげるだけで、閉ざされていた夢と現実の境界が破壊され、赤い空がユウトたちを覗く。
「まずいぞ……あれを外に出したら確定してしまう」
何が、とは考えなかった。おそらくそこには考えうる限り最悪の結果が待っているはずだ。
ハイドラはゆっくりと天を目指す。
「くっ……!!」
オーレリアはドヴェルグを振るって、黄金の蔦を神の体に巻き付けた。しかし何重にも縛り上げたにも関わらず、その進行をわずかばかり遅めたにすぎない。
「春哉。オーレリアを頼む」
「何をする気ですか?」
ユウトは春哉たちを背に、理想写しの籠手を再び展開した。
「ホムンクルスも取り込んでいるなら、こいつを倒せば全部片が付く。そうなんだろ?」
「……ッ、相手は神にも匹敵する力の権化だぞ」
『倒す』という言葉に驚愕を隠しえないオーレリア。しかし、ユウトは不敵に笑ってみせる。
「生憎そういうのには慣れてる。神だろうが何だろうが、俺の世界を壊そうとするやつは、この手でぶん殴ってやるさ」
そう言い切って、ユウトは大型メモリーを籠手に突き刺した。
『Unlimited Idea Evolution!!!!』
爆ぜる。
視認できるほどの高密度の魔力が渦を巻き、ユウトの体に蒼銀のオルフェウス・ローブを構築する。ワーロックの赤い瞳は、蒼へと変わった。
ユウトだけが持つ神殺しの力だ。
神をも圧倒する極大の力に惹かれたのか、上を目指していたハイドラの目がユウトを捉えた。
『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
まるでオペラ歌手のような高音が衝撃となって襲いかかる。
それを払い、ユウトは一直線にハイドラを目指した。
『Longinus』
光の波がうねる。
「はぁッ!!」
ハイドラの顔面を横薙ぎに殴打し、次々と襲い来る大蛇の頭を切り裂いていった。
「……すごい」
「これが蒼眼の魔道士の力か……」
春哉もオーレリアも、ただ見ていることしかできなかった。それほどまでに一瞬の出来事。
ユウトの勢いは尚も止まらず、ロンギヌスの槍はハイドラの彫刻のような右足、右腕を貫通する。
『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
だがハイドラは人の形を保てなくなったと知った途端、その体をスライムのようにブヨブヨと波打たせ、一瞬のうちに巨大な蛇へと姿を変えた。
「ッ!!」
一息だった。
彼の神はその巨体でもって物理法則を完全に無視したスピードでユウトの体を締め付け、圧し潰そうとする。
「く……ッ」
対してユウトは刀やハンマー、盾や槍など様々な光の武具で
ハイドラは憎々しげな雄叫びをあげながら、大蛇の頭数をさらに増やす。ユウトは身を翻し、その全てを避けながらさらに一突きを喰らわせた。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
今度こそ届いた。
「核だ! 核を壊せ!」
オーレリアが叫ぶ。それがどこにあるのか、聞くまでもない。テレズマが最も集約する場所。それをユウトの蒼い瞳は見逃さない。
ユウトの頭上を取ったハイドラ。
大蛇が無数に絡まり、一本の棒――いや、十字架の形をした極大剣となって、ダモクレスの剣のように垂直落下が襲い掛かってきた。
「……ッ!」
天に突きあげたユウトの槍の先端が無数に分岐し、神の剣に突き刺さる。だがオーレリアの言う通り、核を破壊しなければこの戦いは永遠に終わらない。なにせ外装であるその肉体を理想無縫で絶え間なく破壊し続けても、それを上回る再生力が向こうにはあるのだ。
その力は絶大の一言。傲岸不遜にも『神』の名を語ることに説得力を与えてしまうほどに。
バヂンッ!! と炸裂音が鳴り響いた。
気付けばオーレリアがハイドラの大理石の肌に触れ、激しい光を生み出している。
「何を!?」
「私が核への道を開く。錬生術で作り上げたものならば、それを逆算して崩すことができるはずだ」
「オーレリア!」
見上げる春哉に、彼女は小さく笑みを返した。
「いいんだ。私は……お前を――」
ギラギラと突き刺すような輝きが収束し、オーレリアの両腕が弾け飛んだ。だがその対価として、ハイドラの肉体の約半分が分解される。そしてその奥で、水晶のような球体が剥き出しになっていた。
「やれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
彼女は叫ぶ。心の底から。溢れんばかりに。
「そうさ。神様なんて見返してやれ!」
ユウトもそれに応える。
今ここで、天を覆う偽神に思い知らせてやろう。
「どんな運命だって、変えられる! それが、人間の強さだ!!」
これで、最後だ。
『Longinus ......... Ultimate Break!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
渾身の一撃。神殺しの槍が赫天を射る。
それは一瞬だったか、あるいは永劫だったか。
しばしの沈黙の後、あまりにも凄まじい轟音が世界を震撼させ、太陽よりも眩い爆発が幻想領域の赤い夜を掻き消した。
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