第2話 届かなかった者 -The 7th wiseman-

・1・


 侵入者の報告は、すぐに本部で座する宗像冬馬の耳にも伝わった。

『社長、増援部隊の指示を』

「いい、もう俺の側近を向かわせている。相手が魔法使いなら、通常兵器でどうこうできないかもしれないしな。それよりも周りへの被害拡大を防ぐように手配してくれ」

「かしこまりました」

 冬馬は通信越しに聞こえてくる部下の声に冷静に指示を返し、深く椅子に腰を下ろした。


 魔法使いに通常兵器は効果が薄い。もちろん万能ではない。銃弾が一発でも当たりさえすれば常人と同じような効果を得られるが、魔法は個が持つ常軌を逸した力。場合によっては人一人がそれこそ戦略級の兵器と化す。

 そうなれば当然、相手取れる者は限られてくる。


「魔法使い、か……」


 オリジナルのルーンの腕輪無き今、それを元にレプリカリングを量産することはできない。レプリカリングの製作者、神凪夜白が考案した全く別概念の人工魔法制御装置――ネビロスリングはエクスピアが厳重に管理している。

 どちらにしても腕輪の入手経路が気になる所だが、今はそれよりも考えるべきことがある。


(伊弉冉の情報は完全に秘匿されていた。奪いに来たってことは、使う算段もついてるってことだ。あれを使えるのは完全に適合した伊紗那と、無理矢理適合数値を調整したワイズマンだけ………………ッ!?)


「まさか……」


 冬馬は考えられるその可能性を確認するために、の責任者に連絡を取る。

 幸い、その人物は1秒とかからずに通話に応じた。


『やぁ、冬馬。嬉しいよ。君から僕にかけてくれるなんて。ま、要件はもうわかってるけどね……』


 映像通話越しの神凪夜白は少しだけ残念そうに俯きながらも、相変わらずの笑顔で冬馬を見据えた。

「話が早くて助かる。で、どうなんだ?」


『いるよ。7。彼は成功例とは言えないけど、失敗とも言えなくてね。番外個体エクセプターとして研究から分離してたんだ』


 しれっととんでもない事実を今更暴露されて、一瞬イラっとくる冬馬。だが彼女に悪気がないことはわかっているし、言っても仕方がないこともわかっている。


『彼なら僕たちと同じように、あの時世界のリセットの影響を免れていただろうね。当然、伊弉冉の世界からの帰還も』

「誰なんだ?」


 冬馬の問いに、夜白は一拍おいて答えた。


『確か研究テーマはInviter引き寄せる者。名前は、式美春哉しきみはるやだ』


・2・


「えい」

 その小柄な体躯からは想像すらできない破壊の一撃が、式美春哉の魔法によって生まれた分身体を襲った。

「!!」

 しかし、イスカのトラックが激突するに等しいその豪打の衝撃は手品のようにどこかへと霧散し、何もなかったかのように彼女に反撃を繰り出す。


「おおおおおおおッ!!」


 そこで真横から振り下ろされた鎧状態のレオンの剣が、分身体の右腕と右足を切り落とした。

「ふぬッ!」

 敵の左腕を掴み、空中で姿勢を整えたイスカは、踵による振り返り蹴りで眼前の分身を吹っ飛ばした。

「……ブイ」

 小さくVサインを送るイスカに、魔具・ハンニバルに身を包んだレオンは頷いて返した。彼らの後ろには山のような敵の兵隊が積み重ねられている。


 しかし次の瞬間、倒したはずの敵の体が発火し始め、ゾンビのように不気味に立ち上がった。先ほど個体も失ったはずの腕と足を再生している。


「なッ……そんなのアリかよ!?」

「……不死身?」


 未だ燃え続ける人形は業炎の瞳を爛々と輝かせ、再びイスカたちに襲い掛かる。


・3・


「う……ッ!!」


 分厚い壁を突き破り、飛角の体が伊弉冉を隔離している部屋に投げ出された。


「……ッ、んにゃろう……何だあの技……」


 彼女は破壊された壁の向こう側の焔。黒い降霊武装アームド・ネビロスに身を包んだ敵を睨んだ。

 こちらの勢いを逆に利用するカウンター。だがそれだけではない。わざと向こうからこちらの間合いに近づいて心理的に圧迫し、思わず手を出してしまったが最後。強引に返しを放たれる。


 


 こちらがどう足掻こうが、常に最大威力が襲い掛かる。待つという概念がまったくない。それは自分の技に絶対の自信が無ければとてもじゃないができない芸当だ。

「お前、誰……だ? ごほッ……ごほ……」

(息、が……)

 龍の体の強度を以てしても、内臓をぐちゃぐちゃに破壊されている。彼の一撃は、飛角の体を内部から破壊し得るものだということになる。


「式美春哉。あなたと同じ研究の……出来損ないですよ」


「な……に……」


 春哉はそう答えると、動けない彼女を無視して伊弉冉が設置された真空管を目指す。

「待て……ッ」

 刃のような手刀で真空管のガラスを破壊し、彼はその中から砕けた伊弉冉の柄を握った。


「これがあれば……」


 春哉の柄を持つ手に自然と力が入る。



『よくやった春哉。お前の体は私の調整で宗像一心同様、ワイズマンの素養がある。伊弉冉を叩き起こすのは容易だろう。無論、その負荷に体が耐えれるかどうかはお前次第だがな』



 ふと、どこからか聞こえてきた声に飛角は周囲を見渡した。

(まだ、誰か……いる?)


「ありがとう、オーレリア。それでも僕は……」


 春哉が刀を天に掲げると、砕けた刀身が再び妖しき光を放ち始める。

「や、め……」

 この少年はまた、あんな悪夢を繰り返す気なのか? そこに一体何の意味があるのか?

 いくら考えてもわからない。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


 煮え滾った絶望の極光は臨界点を突破し、そして一気に弾けた。














 劇場版 蒼眼の魔道士(ワーロック) -Lost Dreams-


 ――開幕。

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