第1話 堕ちた活人拳 -The master of fighter-
・1・
『――これより第137回、
流麗な女性局員の声の下、隔離室の戸が全てロックされる。そして壁中に設置されたレーザー照射装置が、中央に配置された折れた伊弉冉の刀身に向かって一直線に赤い線を伸ばした。
「……反応はどうですか?」
その様子を隣接したモニタールームで見ていた
レーザーの大元。無数のコードを繋げられている籠手のような機材は、
今回は以前、一度は起動に成功した彼の息子・
「反応……ありません」
「……」
――これでもダメか……。
言葉は発さず、御影は自分を落ち着けるように深く深呼吸をした。
「まぁ落ち込むなよ御影。まだ実験は始まったばかりじゃないか。方法さえわかれば宗像一心でなくても動くことは実証済みなんだ。あとはやっこさんの機嫌を窺うしかないさ」
「……もう半年です。いくら何でも機嫌が悪すぎでは?」
あの日から半年だ。半年も経ってしまった。
ここは東京郊外にあるエクスピア・コーポレーションが所有する魔法の武具の管理・研究。そしてそれらのデータを元に伊弉冉の再稼働、およびその制御を目的とした特別研究棟だ。
「ん~、女の恨みは根深いから、とか?」
「……あなたが言うと説得力がありませんね」
「ほほ~ん。それだけ言い返せるならまだ大丈夫だね」
虚構に消えた
体は現実にあっても、中身は伊弉冉に囚われたまま。
全てが元通りという訳ではない。
固く閉ざされたブラックボックスを前にして、延々と試行錯誤は繰り返されてきた。
だが
魂が、いわゆるデータとして残っているとわかっていても、それにアクセスする術は未だに闇の中なのだ。
こうしている間もにも、エクスピア系列の医療施設では必死の延命措置が行われている。
(……早く……結果を出さなくては)
御影だって大切な家族を――
だからこそ、この半年という失敗の連続は御影を余計に焦らせる。食べ物さえろくに喉を通らないほどに。
「……」
「御影……あんまり――」
ビリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!
「「!!」」
その時、突如として研究施設内の非常ベルがけたたましい音を爆発させた。
「……何事ですか!?」
「Bブロック、いえ……BからEブロックに侵入者!! これは……そんな、魔法使い、多数です!!」
観測員の一人はあり得ないといった表情で画面に食いついていた。
・2・
喪服の少年は一直線に伊弉冉の場所を目指している。まるで最初からその場所を知っているかのように、その足取りには迷いが見られない。
周りには、彼に付き従うようにフードで顔を隠した人影が一定距離を保っていた。
その集団を一瞬で壊滅させる一陣の風。
「待てって少年。こっから先は通行止めだよ」
拳圧だけで有象無象を薙ぎ払い、謎の少年の前に飛角は立ち塞がった。
「……」
少年は口を閉ざしたまま、柔術を思わせる美しい構えを取る。
「他のブロックでも変な奴らが暴れまわってるみたいだけど、あんたが親玉ってことでいいんだよね?」
実際、間違いないだろう。彼以外の雑兵は強敵だが、なんというか機械的。相手を倒すために最適化された無機質さを感じた。実際、今も死んだように動かない。
対して目の前の少年は違う。その違いが一目でわかるほどに圧倒的だ。先ほどの圧に微塵も押されなかったことといい、相当練度が高い。武装こそしていないものの、肌を炙るような近寄り難い覇気を放ち続けている。
(さしずめ分身の魔法か何か……ってところか。本体は結構手練れっぽいし、出し惜しみはしない方がいいね)
本体である彼を倒せば、別ブロックでも暴れている分身体を止めることができるはずだ。
飛角は自身の中にある獣を解放する。すると瞳孔が切れ長に変形。額から二本の角が伸び、爬虫類のようであり、金属質の輝きを放つ鱗に包まれた翼と尾を広げた。
龍化。
彼女の体の中にある魔獣の因子が、人と獣の境界を消した。今の彼女は人間を超越した身体能力を無尽蔵に行使することができる。
「ダンマリかよ……まぁどんな理由であれ、狙いがあの刀である以上、ここでとっ捕まえさせてもらうけどな。大勢の命がかかってるんだ」
ジェット機ばりのロケットスタートで地を蹴る飛角。
だがコンマ一秒の世界で、少年は彼女の言葉を肯定した。
「……そう、あの人の命がかかっている。僕は……もう立ち止まれない」
「ッ!?」
次の瞬間、彼女の視界がぐるっと360度回転した。
何をされたかなんてわからない。それを考えるよりも早く、背中に強烈な痛みが突き刺さった。
「が……ッ、う……ッ!? ……にゃあろうッッ!!」
常人ならそれだけで全身の骨が砕けていた衝撃を耐え抜き、飛角はすぐに、バウンドした体をさらに加速させるために尾を床に叩きつける。その反動で器用に立ち上がり、体の捻りを開放した強烈な回し蹴りを流れるように少年の顔面に向けて放った。
しかし、それすら少年に届くことはない。まるで破壊不可能の壁にでも激突したように、攻撃は弾かれてしまった。
「今の音で骨すら折れないって、あんたホントに人間かい?」
「あなたと話をしている暇はない」
そう言って、彼は左腕の袖をめくった。
「ッ!! それは……」
それは黒く光沢を放ち、黒緑の装飾が施された腕輪。
「ネビロスリング……何でお前が」
『Ready』
鳴り響く、もはや聞き慣れた機械音声。
「押し通らせてもらう」
少年は腕輪に鍵を差し込み、悪魔の力を解放した。
『Phoenix Open』
業火は少年の身を薪とし、転がった人形諸共巻き込んで、再び
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