第346話 偽物侍女、偽亜麻色の髪の乙女を説得する 1

「入っても?」


 スサーナはできるだけ快活に聞こえるように意識して声を出す。

 きゅっと表情をこわばらせたサラがこれ以上警戒してしまわないように振る舞うのが重要だ、と思ったのだ。

 こくり、とうなずいたサラが半身を避けてワゴンが部屋に入れるように示したのに従い、なんの他意もありませんよ、という顔のまま部屋に入り、所定の位置にワゴンを置いた。


「あ……スシー……」


 喉になにか詰まったような声を聞きながら、スサーナはあえてその声を遮る。


「はい、ちょっとだけ待ってくださいね! ええと、化粧台に頼まれたものを並べてしまいますから!」


 ええと化粧ブラシがここで櫛がこう、と、口に出しながら道具を並べる化粧台の鏡の隅で、おろおろと視線を彷徨わせたあとで傍にあった長椅子にちんまりとサラが座るのが見える。

 ――うん、そろそろ少し落ち着きましたかね。

 顔を合わせた瞬間にはひっくり返りそうだったサラの表情は、スサーナが着替えの道具を揃えておくのを見る間にじわじわと落ち着きを取り戻してきたようだった。

 こういう時には初手でどーんと行くか日常に巻き込んでパニックを抑えるかの二択で、前回雰囲気に飲まれてもらおうとして失敗したスサーナは今度はある程度日常路線で行ってみるつもりだ。


 服を留めるピンを並べ、リボンと紐を揃えてからスサーナはさて、とひとつ息をする。

 サラの表情は十分弛緩しているとはいえないが、あまりしっかりサラの落ち着く時間を取るというわけにもいかない。ある程度時間はかかるが、順々に着付け係の女官がやってくる予定だからだ。

 この役目を手に入れるためにスサーナはスシーとしては常に無いぐらいにわかりやすくあの手この手と策を弄し、事務の振り分けをする文官に付け届けをしたり女官たちの休み時間にお菓子を献上したり、目立つギリギリのことをして女官の人員不足で少数なされた機材の搬入の募集に潜り込んだのだ。臨機応変に集めるものであるので、募集から人が埋まるまでの時間に猶予がなく、人目につかないようにと画策する余裕はあまりなかった。さらに手当の割がいいパーティー人員に数えられている人間がそちらにもねじ込んでくるのは正直妬みを買いかねないような行動で、できるだけ目立ちたくはないスサーナとしてはだいぶ危ない橋を全力疾走したと言ってもいい。なんとか目をそらしておけるダブルスタンダードの上限ギリギリだ。そうして掴んだこの時間を無駄にするつもりはない。


「着替えの女官はもうしばらくで来ると思います」


 大体30分ぐらいだろうか、と、進捗から予想した猶予時間よりもやや少ない時間を述べながら向き直って微笑むと、こくりと首を揺らしたサラがひゅうと息を吸い、短く小刻みに止めるようにしてゆっくりと吐こうとしているのを見た。


「スシー……」

「はい、サラさん。……お会いできてよかった。」

「スシー、あの……私、ごめんなさい、私……、兵に酷いことをされませんでした……っ? 私、きっと酷いことをされるだろうとわかって、でも……他に思いつかなくて……」


 しかし、震える息を吐きながら、全身を震わせて涙をぼろぼろと溢したサラにスサーナはわあっとなる。

 ――ぎゃっ、これは……あっ、あの紙!

 警戒されることばかり考えていて、そのあたりの事情というべきか、自分に波及する物があったことはなぜだかここでの説得ですっかり思案の外だったスサーナは慌ててサラの背を擦った。

 ――あああ、これはシミュレーション外! 完全に予想外でええと!

 のっぴきならない状態で女の子に泣かれるのは何故か何度か経験があるのだが、何度体験したところで全く慣れずあわあわしてしまう。


「ええっと! サラさん、大丈夫です! ええと良くはわかりませんが特に酷いことなどは誰にも何も!」


 ほら元気ですから!と必死でサラの背を撫で、その呼吸が落ち着くのを待つ。

 幸いなことに、しゃくりあげる発作はそう長く続きはしなかった。


「ぐす……本当に?」

「は、はい! 何も、あの、兵の方に叱られるようなことは……」


 ぐしぐしと涙を拭うサラの手を止め、目をこすらないようにハンカチを差し出しながらスサーナは思考をぐるぐると回す。

 ――ええとこれはあの紙の話ですよね。では間違いなくあの紙はサラさん? ええと確認して、そうなら、サラさんが御自分から言い出すなら説得材料になるか? なりますよね?

 できればあの紙の件はサラが直接関係していたというわけではないといいな、と往生際悪めに思ってはいたのだが、関係したとしてもやましく思っていてくれるならなんらかの目はあるかもしれぬ。


「なっ、なにも! あの、なにか叱られるようなことが……あったんです?」

「そう……。」


 きゅうっと胸の前で手を握ったサラの様子をスサーナはしばし眺め、口を開かないかと待ったが、流石にそう都合よく事が運ぶということもない。サラはなにやら逡巡するようにも見えたが、そのまま押し黙って下を向いた。

 初手でいきなり蹴躓いたような気持ちになりつつも、残り時間のタイムリミットは刻々と迫ってくる。スサーナはやりたいことリストを思い出し、そろそろと自分のカードを切り出すことにした。


「ええと、サラさん、私、サラさんととてもお会いしたかったんです。……お聞きしたいことがあって……」

「ええ……」


 肩をぎゅっと縮めたサラにスサーナはどうしたものかと一瞬考えた後にとりあえずもう少し距離を詰めた。同年代の少女相手の交渉術的なものは実のところさっぱりで、理を説くのはなんだかショシャナ嬢として応対した際に駄目なのだろうと察したので、なんとも手探りだ。


「ええと、まず。あのですね、痛いところとかありませんか?」

「え?」

「ええと、ごめんなさい、私も謝らなきゃいけないんですが、班長さんにお手紙を言付けてくださったでしょう。黒で消してあったところ読めてしまって……あの、アブラーン卿は人を殴るような人だと有名ですから! サラさんがお怪我をさせられていたりするのじゃないかと心配でした。あの、あと、髪の毛。色を取るとすごく肌が傷つくそうですから。実は打ち身やらひび割れにとても効く軟膏などを持っておりまして……多分頭皮にも効くので……」


 ドレスを待つ下着姿の腕や足には目立った傷などはなく、とりあえず肌着を本人が動かないのに引っ剥がすわけにもいかないスサーナは手を伸ばして髪に触れる。

 びくりとしたものの、振り払われるわけでもなかったのに気を良くしてサラの髪をかき分けた。下級侍女として一緒に過ごした間に、髪の煤を落とすだとか、少女らしいわちゃわちゃとして、一方的に――スサーナ自身はカツラがバレるとまずかったため、絶対に他人に髪を触らせない立ち回りをしていた――彼女の髪に触れることが許される実績を積んでいてよかったと思う。


 ――ええと、うん。だいぶ落ち着いてはいるのかな。でもやっぱり腫れてるし、皮も剥けてる。

 スサーナはここぞと用意してきた軟膏をポケットから取り出す。

 まずはパッチテストといきたいところだが、流石にそんな時間も無い。しかしそのあたりにあまり心配がいらないのはいいことだ。なにせ魔術師産の軟膏だからだ。


 だいたいスサーナが日常やらかすことは察していたと思われる面倒見が良すぎる魔術師があの王宮での邂逅後によこした荷物の中には、種々の薬品と、それを一般人に使用するときの注釈までがされていた。

 ――王宮の守りを弱めた事件に関わっていたと思うともしかしたらちょっと気をつけるべきなのかもですけど、流石にそこで薬に謎の効果が!ということはないはずですから。

 ぼんやりとだが、その境界を踏み越えては来るまい、と信じている。それは人心の機微やら行動やらを計算して芸術的犯罪を起こすようなことはしないだろう、という魔術師種族に対するイメージが少しと、それから祈りが少し。

 どちらにせよ、スサーナがそこそここまめに使っている上で、目立った異常があったことはないものだ。


 ともあれ、傷が消える軟膏をそれだけでは保湿効果しか無いとあったクリームに混ぜると効果が緩やかになると書いてあったので、それを利用し尽くしさせてもらおうと思う。


「軟膏、塗っちゃっていいですか?」


 こくりと頷かれたので、てっとサラの後ろに回ると、軟膏を指にとって温め、頭皮に塗っていく。

 体温で軟膏が透明になっていく先から赤く腫れた部分やぶわぶわと傷んでいる部分がじわりと落ち着いていくのが見えて、スサーナは少しホッとした。

 完全に跡形もなく治るというわけではないので後々アブラーン卿がサラの髪を見てもそこまでの異常は察しないだろうし、スサーナが気になっているサラの健康状態の一環でもあるし、なによりゼロ距離を保つ口実になる。背もたれ越しに頭に触れるのは前に立つよりも比較的圧迫感もなく、とはいえこうしている最中に腕を振り払って逃げるというのは比較的大変で、いい事ずくめだ。


「ええと、これは肌にもいいんですが、髪の毛もツルツルになるそうなので……きっと結うのにも」


 もにもにと揉み込みながらとりあえず話題の端を探すために手当たり次第に喋っていると、つとサラが呟く。


「驚かないのね」

「はい?」

「わた……くしが、乙女候補になっていることとか……」

「むう、それはとても驚きましたけど。サラさんのくださったお手紙に、アブラーン卿の借金のカタにとありましたから……、アブラーン卿が乙女候補を擁立したとも知っていましたし、きっと……何かわけありなのだろうと思っていました」

「手紙……読んでくださったのね、スシー。」

「はい! ですからええと、とても……心配でした。……とはいえ、何が出来たと言われると……こうしてお顔を見に来たぐらいで、何も出来ていませんけど……、でもあの、痛い所があればお薬を塗るぐらいは出来ますし? それとあの、こうして顔を合わせられましたので、今のサラさんの立場でなにかお辛いことがあれば……その、全部なんとかすることは出来なくても……サラさんがどうしたいかのご相談に乗るとかはできるかと思うんです!」

「相談……?」

「はい。ええと先走りならお恥ずかしいのですけど、あのお手紙の感じからしても……養子縁組は、あまりサラさんにとってよいお話ではないのではないかと思って……。その、私の生家は商家と親しいのでわかるんですが、阿漕な手段の借財なんかですと、色々と取れる手段もあることがあるんです。ですから詳しいご事情とか……話して頂ければもしかしたら私が解決策を持っていることもあるかも知れませんし……? そうでなくても、身分の高い方に繋ぐとか、サラさんがまだ試しておられない方へのコネとかもあるかもですし、辛いことがあるようでしたらお一人で考えているときより解決策は増えるように思うので……! ので、ええと、お辛いことはありませんか、と、お聞きして……もしそうなら出来そうなことはあったりしませんかとお聞きしたく……!!」


 とりあえず心配であったということから押していこうとスサーナはぴゃーっと言い募ることにする。言葉少なではあるものの、ショシャナ嬢に相対したときに比べればずっと声も柔らかいように思えるので、ここが好機であるかもしれぬとぐっと押す判断だ。


「なによりですね、こんな風に髪と頭皮をぼろぼろにしてしまうようなこと、髪の色を抜くまでは百歩譲って合意だとしてもですよ、その後ろくな手入れもしてくれないで放置するような方、個人的には非常に嫌いですので、サラさんが気に入らないと言ってくれればとても嬉しいと思います!」

「……ふふ」


 そうだあのときのサラの怒りからして、もし乙女への立候補が双方合意の相互利益を見込んでの計略で、サラが覚悟してそこに立ったのだとしても。共謀者になったからには同士の損耗ぐらいは手を尽くしていいはずで、こんな状態の頭皮を放置するアブラーン卿が良い共謀者であるはずがない。女性の尊厳をなんと心得るのだろう。

 再確認した許せぬポイントにスサーナがしゃぎゃーっとなっていると、どうやらそれは伝わったのだろう。一拍置いて上がったころころとした笑い、に水気が混ざり、笑いの余韻を残しながらもサラは手を持ち上げ、スサーナから見えない目元をくしくしと擦った。


「スシーは……スシーだけは、心配してくださるのね。……ねえ、スシーが先に手紙を読んでくださって、良かった。……戻ったら一番に、スシーの荷物入れの一番上に置いてある……指示書を、誰にも見せないで、燃やして」

「っ、えっええはい! 必ず!!」


 サラの言葉に、スサーナは急いで首を縦に振る。そして、サラがほっとしたらしい息を吐いた後に、そろりと問いかけた。


「あの、サラさんがそう言うなら燃やしますが、……それは、燃やしてしまってもいいものなんですよね? と、聞いてしまっても構いませんか?」

「……ええ、そうよ、スシー。私、とても悪い女なのですわ。詳しくは話せないし、きっと、誰に言っても下級侍女の言うことなんか信じませんから、誰かに見せても駄目。」


 サラの後ろに立ったスサーナからはその表情は見えないものの、彼女はどうやら少し逡巡したようだった。ふうっと息を吐き、それから指を組み直す。

 それでもスサーナが頭に触れる手を振り払いはせずに、スシー、と呼びかけた。


「……私、私ね、スシー、あなたを身代わりにしようとしたの。表沙汰にはされていないのでしょうけど、……造園吏の貴婦人が外から悪しきものを招き入れたのです。多分、とても悪いことをするために……。アブラーン卿もきっとそれに深く関わっているのでしょう。私はそこに伴われて、案内の下級侍女のフリをして、その時に、紙を渡されたのです。指示書であるとほのめかした文面を入れて、前に同じ仕事をした者の荷物から見つかるようにしろと言われて。だから、誰かに見られる前に絶対に燃やして。貴女が……捕まってしまう前で良かった」

「サラさん……」

「怖くて……それに、私が逆らえば父の借金がどうなるかと思ったら、逆らえなかった。……私のことを軽蔑したでしょう、ごめんなさい、スシー」


 ――造園吏の貴婦人……、多分、それに該当するのはビセンタ婦人……! そこに関わっていたか……!!

 一気に押し寄せた情報量と、サラがそれを話したということをどう使うべきかと目をぐるぐるさせていたスサーナだったが、妙に朗らかな捨て鉢めいた声音に色々置いておくことにし、慌てて首をぶんぶんと横に振りたくる。


「そこで軽蔑できる人は超人か何かなんじゃないかと思うんです……! 私は心の弱い人間ですので……サラさんと同じ立場でしたらもっと何か最悪のことを引き起こしていた気しかしませんし、なにより、どんなひどい目にも遭っていませんので!」


 もう一度ごめんなさい、と返ってきた声は細く震えていて、心あらばここで更に食いつくのは避けるべきだと思いはするが、この機会を逃す手はない。

 スサーナは頭皮のマッサージを終えて、髪にクリームをトリートメントの代わりに塗るのを良いことに、サラの横に回った。

 横に陣取って髪にクリームを揉み込むのはいたわるという点でもとても意味がありつつ、サラが立ち上がりづらい重心の調整が可能で、さらにドアへの線を遮るうえに、いつでも髪をも掴めるということは行動制限という点でもとても強力で、後ろから椅子の背もたれ越しに頭に触れるよりもとっさの動きを阻みやすい。もしかしたらサラが思い直して逃げてしまうかもしれないような話題に踏み入る以上、先程の動きの延長で警戒されずに備えられるのは意味がある。

 そんな打算的なことを考えているわけだし、欺瞞と虚偽がたっぷりのこの言動のほうが知られれば軽蔑されるやつだな、とスサーナは思ったものの、とりあえずおくびにも出さずにサラの髪をさらっさらにしつつも問いかける。


「その、それで、確認させていただいてもいいですか? ええと、宮廷内に、その……こほん、悪しきものを招き入れた方が居て、アブラーン卿はその方に協力した、と、そういうことでしょうか? サラさんは……アブラーン卿にその案内をさせられた? 詳しいご事情って……お聞きしても良いんでしょうか?」


 サラはまた少し口ごもったように思ったが、それは経緯を思い出していたのだろう。少しして考え考えしながらも口を開く。


「詳しい事情は……私だとよく分からないの。事情や経緯を知らされたわけではありませんでしたもの。ただ、あのときは、表沙汰に出来ないことだという雰囲気で……、ちゃんとした訪問であるとは思えなかったわ……。資材の搬入に紛れて中に入れて、案内をしているように振る舞え、と言われて……」

「む……入るところからコソコソしていたのですね。……もしかして、あのう、悪しきもの、魔術師さんを指しているのかと思ったんですが、魔術師さんですらなかった、とか……?」

「いいえ。あの色合いはきっと魔術師というものなのでしょう。髪の色を抜いただけではきっと、あんな色にはならないわ……」


 考え込みながら喋るサラは口調を気にする余裕もないほどに思考に沈んでいるようで、言うことに嘘はないように思える。

 ――それはそれとして、もしかしたら魔術師さんですらないのか、という地味な手段を取るので期待したんですけど、そうは問屋さんが卸してくれないんですね……。

 スサーナは心の中だけでかくんと首を落とし、気を取り直して言葉を継いだ。


「ええと、そのひとは一体何をしたんですか?」

「その、スシーが案内のときの地図を持っているのを私……知っていましたから、ごめんなさい……。同じように案内しろ、と言われて、そのとおり案内したの。なにかしていたかどうかは……わからなかったけど……」


 それはそうか。

 王宮の守りを上げたり下げたりする行為がスサーナの見たものと同じであるとするなら、それは目の前で行われたとしても説明がなければ何かなんてわかるはずもない。


「しかしアブラーン卿は一体魔術師を王宮に入れて、何をしようとしていたんでしょうね……」

「さあ……でも、あれは恐ろしいものだから、誰かに会わせればきっと恐れて何でも言うことを聞いてしまうのではないかしら……」


 ぽつぽつとされるサラの説明……というべきか、本人には告悔のつもりなのか、ともかくサラの言うことを聞きまとめたスサーナは内心ふむ、と思案している。

 ――サラさんの認識がだいぶ荒い……。これは、事態の中枢には関わっていない、と見ていい気がする……?

 魔術師を呼び込んだ件についてのサラの認識は、「恐ろしいもの」を呼び込み、すべきではない手続きの短縮や汚職行為、もしくは上位貴族への脅迫が行われた、という予測にとどまり、王宮の守りが弱められた、という、王族への危害を思わせるものは出てこなかったのだ。

 アブラーン卿が関わったらしく、多分謀反の一環としてしっかり意味がありそうな事象の認識がこれだけふんわりしているのなら、他の事象についてもそうである可能性もまた高い。それはそれで有用な情報源としての可能性は減るが、謀反の上で役割がしっかりしている人物である、という可能性も減るのだ。

 ――魔術師さんがヒグマ扱いですけど、まあこの際それはそれとして……。これなら、ただの被害者だと強弁すればなんとかなる……?

 指示書の絡みからして、ある程度、あの夏の襲撃からの陰謀の内側に関わった相手としての説得を考えていたものの、もっと何も知らされていないのかもしれない。

 少なくとも、陰謀の中核を知った上で何らかの事情で覚悟がガンギマリになっている、という心配はある程度減ったと思う。

 最終日に出ない、という選択肢も取れるのではないか。相手を網にかける以上出場が必須だというなら、それこそ協力者に引き込む手もなくはないのでは。

 サラが話す気になっているうちに、スサーナはここぞと周辺の事情を聞き込んでおくことにした。

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