璃々子(6)

 


 スパチュラで温めた脱毛用ワックスをかき混ぜるとほのかにチェリーの香りが漂って来る。


 予約の時間までまだ10分ほどある。


 璃々子はスマホを手に取り昨夜交わしたラインのメッセージを眺める。


 どんどんスクロールできるほどそれは長かった。


 そうしているうちにポンと新しいメッセージが飛び込んでくる。


 Ren:今日これから新しいバイトの面接!Riricoさんは?


 Ririco:わたしはこれから仕事。


 ポンとくまがガッツポーズしているスタンプが送られてくる。


 Ren: ガンバレ!


 璃々子も同じようなうさぎのスタンプを送る。


 ふむ、璃々子は下唇を指で撫でる。


 しばらくして思い切ったようにその指を画面に滑らせ送信ボタンを押した。


 Ririco:今度一緒に飲もうよ。


 Renからの返事が返ってくるのを待つ間緊張した。


 こんなことはリョウの時は全くなかった。


 リョウどころかこんな気持ちになったのはまだ璃々子が制服を来ていたはるか昔のことだ。


 こんな気持ち、それは“恋”だ。


 Renからいきなり電話がかかってきたのが3日前。


『あのここに電話したらやらせてくれるって本当ですか?』


 最悪な一言だったのにもかかわらず、すぐに電話を切らなかったのは話し方が礼儀正しかったのと、その声がとてもカッコ良かったからだ。


「そんな訳ないでしょうが」


 と、声を張り上げた璃々子にRen はすぐに何度も謝った。


 そしてなぜかそのあと電話で盛り上がり今に至る。


 Ren:いいですよ!


 Renの返事に璃々子はくるくると回りたい気分になった。


 そのまま回りながら空へと上昇する。


 もしかしたら。


 璃々子は予感した。


 これは運命の出会いかもしれない。


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