第十五章 獣の理《ことわり》②

 残った二機の『ヴォルフ』を『パイフー』が倒すまで、それほどの時間はかからなかった。


 エスティはレイリアの乗った『パイフー』を見上げた。


 陽光に輝く白い虎のドレスビースト。


 鉄屑と化した『ヴォルフ』から青龍刀を引き抜く姿は紛れもなく荒野の英雄パイフーリーの姿である。


「エスティ。そこをどきな」


 進撃を開始したレイリアの声には反論を許さない凄みがあった。


 その言葉にすくんだ肩を抱き止めて『パイフー』を見上げた。


 だが、ここで怯むわけにはいかない。


 エスティはキッとまなじりを決すると、アイカメラの向こうのレイリアに向かって声を張った。


「レイリア。お願いだからそのまま逃げて!クラスメイトを殺すことになるかもしれないんだよ?」


 ありったけの気持ちを込めて叫ぶ。

 しかし、レイリアの進撃は止まらない。


「言ったろ、それが戦争なんだ」


 冷酷な言葉にエスティの肩がさらに縮こまる。しかし、エスティは諦めなかった。


 下腹に力を込めると、先程よりもずっと大きな声で反撃をする。


「だったら……私を殺して進めばいいでしょ!?」


 エスティの言葉にレイリアの動きが止まった。


 両手を広げて立ち塞がるエスティを『パイフー』が睨みつけてくる。アイカメラの向こうからレイリアの苛立ちが伝わって来た。

 ギリギリと奥歯が軋む音が聞こえるようだ。


 本当は殺したくない。

 レイリアの葛藤がエスティの胸に迫る。


「エスティ……シティ荒野ワイルドの間にはどうにもならねぇ溝が有るんだ。俺達には血を流さなきゃ手にはいらねぇものも有るんだよ」


 苛立ちながらもゆっくりと話すレイリアの言葉を、エスティは被りを振って払いのけた。


「だからって……血を流して、涙流して!あなたがそんなに傷つくことないじゃない!」


 聞き分けのないエスティにレイリアは苛立つ。奥歯を噛み締めて八重歯を剥き出しに睨みつける。


「は!おあいにく様だったな。こちとらとっくに獣道ビーストランドを歩いてるんだ。血も涙もどっかに置いてきちまったな!」


 レイリアが啖呵を切ると、『パイフー』が青龍刀を掲げた。ドレスビーストならば片手で軽々と振り上げるだろうが、生身のエスティにとっては巨大な鉄の塊だ。


「助けて……!」


 エスティは恐怖に目をつむって叫んだ!


「助けて!『ディケッツェン』!」


――ドン!


 瞬間、『パイフー』が突き飛ばされた。


「てめぇ……」


 レイリアが虎のように低い声で唸る。


 彼女の視線の先には、真赤なドレス『ディケッツェン』が四足形態で立っていた。

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