第二章 放課後は戦場で②
放課後。エスティ達は出撃した。
学校の地下深く、「プラットホーム」と呼ばれる地下施設がある。それはドレスビーストの格納庫であり、出撃用の通路でもあった。
通路は地下鉄になっており、シティの地下を複雑に走っている。
エスティたちはこの通路を専用列車に乗って進む。と、言っても実際に乗るのはドレスだけだ。
パイロットはコックピットルームから遠隔操作する。
地上に出るまで各自、自分のドレスで待機する(遠隔操作だが)。
上位成績者は最新の『ヘングスト』と『シュトゥールテ』が支給されていた。
成績下位者には工学科の学生とシリウスが作ってくれた即席ドレスだ。
中古の部品を継接ぎにしたもので名前すらなかった。
一カ月前の戦いで多くのドレスビーストが撃破された。
支給される機体は当然成績順になる為、下位成績者は後回しにされる。
そしてエスティは一番最後だった。
それでもエスティは、この機体にかけるしかなかった。
(頼むわよ)
自分の髪と同じ色の赤に塗装されたドレスにエスティは呟いた。
通路を進むと街を出る。
街の外は『
幾多の戦争が繰り返された荒野は不発弾と地雷そして放射能にまみれ、地形も変化し安全な環境ではなくなってしまった。
当然、舗装された道などどこにも残っていなかった。
戦車や装甲車が進むことなどとてもできない。
しかし、四足歩行のドレスビーストだけは違った。
ドレスビーストはどんな悪路でも難なく進むことができる。
「エスティさん。外です。」
トンネルの先から光が漏れ出すと、輸送列車は光に飛び込んだ。
まぶしい光で世界が真っ白になる。
目が慣れると、暮れなずむ夕日を直接見ていたことに気づいた。
「広い……」
誰かがつぶやく。
果てしない地平線。
その向こうまで広大な野放図の自然が広がっている。
『
対して、巨額の税金を使い、自然と人災の脅威をすべて排除して造られた楽園が
しかし、そんなところに全人類が全て住めるわけがない。
エスティも
「エスティさん。銃声が聞こえます」
パティは耳が良い。
おそらく学校一だ。
三キロ先でドレス同士の戦闘が確認された。
「おお、もう始まってんのか!」
ニールは高揚した声を上げると、ドレスの歩を速めた。
クラス全員、遅れじと歩を速める。
しんがりはギラード教官だ。
丘を登ると『ヘングスト』数機と敵ドレスビーストが戦っていた。
敵機は狼のような『ヴォルフ』。バランスのいい量産機だ。
「総員、次元確立変動!!カチュア、ニール、クレア、リュウセイ、我に続け!!」
カイル機が駆けだす。
「他は援護射撃、前衛五機を守れ!」
血気盛んに続こうとする生徒をギラード教官は抑えた。
『ヴォルフ』と『ヘングスト』が打ち合っている。
カイルは指揮官機に近づくと到着の報告をした。
「第四特別陸戦騎兵隊。カイル特別騎曹長であります。」
「第四特騎か。じゃあ後輩だな」
味方機は現役軍人だ。
まだ若い。おそらく学校出たての新米士官だろう。
「右翼を頼む。小便ちびるなよ」
「ご心配なく。先輩」
カイル機は風の如く突貫する。
援護射撃を受け、カイルの騎乗槍が敵機を貫いた。
続いて他四機も突貫する。
「今日は星が増えそうだな!」
ニールは手近な敵機と切り結ぶ。
カチュア、クレア、リュウセイが続いた。
第四特騎の介入で戦局は一変した。
味方は優勢だ。
後衛のエスティは援護射撃を打ち続ける。
「エスティさん。後衛じゃ星は上げられませんね」
エスティの事情を知るパティは心配そうに話しかける。
だからと言って持ち場を離れるわけにはいかない。
(今回もだめだったな……)
諦めかけたその時だった。
◇ ◆ ◇
「まずい!そいつを止めろ!」
しんがりのギラード教官が叫んだ。
一瞬の隙を突かれ『ヴォルフ』が一機、前衛を突破してきた。
敵機の狙いはトンネルだ。街に潜入されるわけにはいかない。
目のいいパティが照準を合わせて狙い撃つ。
敵の足が速い。
「はずした!」
『ヴォルフ』は素早くよけると、こちらに駈けてきた。
「パティ!ナイス!」
エスティは二足形態で振動刀を構えると、『ヴォルフ』の進路を遮る。
「でやあああ!」
エスティは素早くしゃがむと『ヴォルフ』の脚を
鉄と鉄がぶつかる感覚が肩まで伝わってくる。エスティは歯を食いしばり耐えた。
足を失った『ヴォルフ』は駆けてきた勢いのまま前のめりに倒れこむ。
エスティはそこに追い打ちをかけようと、バルカンの照準を合わせた。
(やった!)
一機撃破だ、これで奨学金が貰える。
と思った瞬間、エスティの照準に味方機が割り込んだ。
(え……!!)
しぼろうとしたトリガーを放す。
前衛から帰ってきたニールの『ヘングスト』だった。
ニールは手負いの『ヴォルフ』に向かってガドリングガンを全弾打ち込んだ。
「やったぜ、今日二機目撃破だぜ」
「よし、よく止めたぞ、ニール!」
歓喜の声を上げるニールにギラード教官が
「相手がけつまずいてくれたので、ラッキーでした」
ニールのドレスとギラードのドレスがハイタッチをする。
前衛の敵機も後退を始める。
戦闘は終わりだった。
その光景をエスティはただ見ていた。
見ているしかなかった。
呆然と立ちすくむエスティにニールが向き直る。
「残念だったな。エスティ」
ニールのその言葉にエスティの怒りが爆発した。
「あんた……あんたね!卑怯にも程があるんじゃない!?」
なんて奴だ。なんて奴だ。
私の獲物だったのに、私の星だったのに。
奨学金が貰えるはずだったのに。
大学に行けるはずだったのに。
施設のみんなにも喜んでもらえるはずだったのに!
ロキだって喜ぶはずだったのに!
嫌な奴。嫌な奴。嫌な奴!
悔し涙が溜まる。
だが、エスティは歯を食いしばってこらえた。
泣くもんか。泣いたりなんかするもんか。
「何言ってんだ。獲物を取られたからっていいがかりはよせ」
「あんたって人は……」
「おい!お前たち、ここはまだ戦場だぞ。味方と喧嘩するバカがいるか!」
ギラードが見かねて仲裁に入った。
「すいません。教官。でもエスティが僕のことを侮辱するので」
「で、ででも、教官。わ、わ、わたしも、ちょっと酷いと思います。ニールさんはエスティさんの狙撃を邪魔しました。」
気の弱いパティが精いっぱいの抵抗を見せる。
「そうなのか?ニール。」
「さあ?彼女たちが何を言っているのか分かりません」
「ニールは違うと言っているぞ?」
成績最下位のエスティとエースのニールではギラードの覚えが全く違う。
ニールは分かっていてやっている。
エスティはニールの頬をぶちのめしたいという感情と戦っていた。
ドレスビーストは脳波に反応する。
エスティの理性を感情が上回ったらドレスは動いてしまう。
(それでもいい。こんなやつ、こんなやつ!)
その時だった。
「味方の星まで喰いたいとは、意地汚い奴だな」
突然、通信を割り込み、声がした。
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