第5話 駆け出しの知恵
エリスと俺はまず先立つものは金ということもあり、日の国の西方にあるコルト国を目指した。
コルト国は商業国家であり周囲の国とも良好な関係を保っていたため、渡り鳥向きの仕事も比較的たくさんあるのだとエリスが教えてくれた。
エリスも渡り鳥になってから何度もこの国を拠点に周辺国家を旅したんだとか。
俺は海洋国家であった日の国に育ったためほかの国は白黒のフォトと呼ばれる紙でしか見たことがなかったがこんなに人がたくさんいて市場に活気があふれ男の怒号や女の客を引く声が響くにぎやかな街があるとは思ってもみなかった。
市場に並ぶ野菜や果物は見たことがなく青や赤や黄色、紫など色とりどりで、形も一つ一つが不ぞろいだが何とも新鮮でおいしそうに見えた。日の国の野菜や果物は一つ一つに規格があり画一的に分類され出荷されていたためこの光景が新鮮に見えた。
市場を抜けて背のひときわ高い建物に入ると壁には渡り鳥のシンボルである青い羽のエンブレムが飾ってあり、人が集まっている掲示板には渡り鳥に充てた依頼書が張ってあった。それを眺めているとエリスが「こっち、こっち!」とてまねきしていた。
そこには車いすに座っている12,3歳くらいの女の子が一人いた。
その女の子は手紙を握りしめていて、「この手紙を離島で離れて暮らしているお父さんに届けてくれませんか?」とエリスと俺に頼んでいた。エリスはそれを受け取って「この依頼を受けよう。」と一言。
俺も異論はなかったのでエリスの言葉に従うことにした。
エリスの言葉には従ったが疑問が残る。なぜ張り紙の依頼ではなく女の子の依頼を受けたのか。
張り紙には高額な依頼もたくさんあり、言い方は悪いが女の子の依頼一つだけでは自分たちの往復の燃料費を稼げるかも怪しい。
でも俺的には、足が悪い女の子の父に手紙を届けたいという一途な思いに応え依頼をこなすというのは気持ち的には賛成である。彼女もそう思ってこの依頼を受けたのだろうか?
しかし俺の知っている彼女は感情よりも理性に重きを置いている。少なくとも四年前まではそうだった。だからこそ飛行機を止めてある飛行場に向かう道中、俺はエリスに「なぜあの子の依頼を受けた?」と率直に質問した。
そしたら「だって私も君も渡り鳥の中では駆け出しも同然。張り紙を出した依頼主にしてみたら依頼を果たしてくれる信用はないし、依頼を果たしたとしても駆け出しなんだからって足元を見られて後から値切られるのがこの世界の常識。それにもしかしたら依頼書に書いてないリスクが隠れているかもしれない。なら小さい仕事でもコツコツ積み重ねてリピーターを作ってまず信用を得ていくほうがいい。それに、、」
彼女の含みを持った言い方に対し「それに?」と聞き返すと「あの子の乗っているのは日の国製の電動車いす。しかもまだ新しい。もしかしたら彼女のお父さんがお金持ちってこともあり得る。もし違ったとしても別に少しの損をするだけ。」なるほど理性的だ。こういうところは四年前と変わってはいなかった。
「あと困った子を助けるのに理由がいる?」おっと訂正しよう。四年前よりも少しは進歩しているじゃないか。
「それに君もあの子の車いすのこと日の国製だってとっくに気づいているでしょ。フフっ、君も少しはしたたかになったみたいだね。」
しまった藪蛇だった。思わぬ返しを受けてしまった。
こうして俺たちは小さな依頼人のため、この国の南にある離島にいる女の子の父に手紙を届けるために出発した。
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