第3話 旅立つ鳥
それから俺はエリスに連れられて昔の思い出の残る場所や、よく話をした公園、大人になったら来ようといっていた喫茶店などいろいろな場所に行った。
何日も何日もエリスは俺のことを誘いいろいろな場所に連れだしてくれた。そして俺に話しかけ、俺が返すのを何分も何時間でも待った。
その時の俺の声は言葉にはなっていなかったが、エリスだけはわかってくれた。そして白黒の絵に色がついていくかのように俺の声にも感情が加わり、しだいに俺は言葉と思考を取り戻していった。
俺は結局約束を守ることができなかった。お袋と約束し、親父とお袋が姿を変えた金を使ってまで入学した学院をやめてしまった。
後悔はしても尽きることはない。しかし昔に戻ることはできない。なら前に進もう。しかしどこに進めばいいのか。夢や目標をなくした俺は進むべき道が分からなかった。国からもイリーガル認定を受けまともな職に就くことにも制限が加わることになっている。
そんな俺を受け入れてくれる場所があるのか。兄貴たちは見捨てず俺のこと守ってくれるだろう。でもそんな兄貴たちの負担になるのだけは御免だった。かと言って残された金もけして多くはない。そんなことをまだ完全に治ったわけではない言葉でエリスに話した時、エリスは空を見上げて「じゃあ君も渡り鳥にならない?」一緒に行こうとまるでそれを望んでいたかのようにニコッと彼女は微笑んだ。
そして残っていたお袋と親父は小型の飛行機へと姿を変え、俺の新たな翼となった。
渡り鳥は自分の国を持たないことで様々な国へ行くことができ、そこで様々な依頼を受けることで生計を立てている者たちのことを言う。あるものは手紙を、国を超えて配達したり、またある者は傭兵となって空から敵国の情報を調査したり、またある者はそれを妨害あるいは撃退して金を稼いでいた。決して安定した生活ではない。かといって国に束縛されることもない。自由が渡り鳥の心情。
それから俺は自分の祖国であった日の国に必要書類を提出し、渡り鳥のエンブレムである青の羽の形をしたステッカーを小型の飛行機に貼ることで正式に渡り鳥となりエリスとともに旅立った。
国を出る時、兄貴二人の見送る影を見つけ涙で視界がにじんだ。それがほほを流れ口に入り、少し塩辛い味がした。
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