6章5節:サドダリ2

 ドワーフの話によると、あの連中はサドダリという名の組織で裏で暗躍しているとの事。

 30分だろうか。その程度の時間を要して分かった事がこれだけだった。


「えっと、ですね。つまりは、そう闇の組織なのです!」


「もういい・・・・・・。誰でも良いから他の奴呼んでくれ」


 あまりの要領の無さにディードは頭を抱えていた。

 彼女は「わかりました」と言うと通信を飛ばし始め、彼はため息をつきながらその場に座り込んだ。


「兄さん、大丈夫?」


 と、ケイに抱きつかたアリスが問いかける。


「ものすげぇ無駄な時間過ごした気がする。で、刀つったか。刃こぼれしてんだったよな?」


「あぁ、うん」


 そういうとアリスは左手に持つ刀に目線を落とす。

 先のサクラとの戦闘中、攻撃を集中され幾つかの小さな刃こぼれが出来ていたのだ。

 かなり硬い素材でできており、コアを活性化させる事でさらなる硬度を誇るという話だったが、それも絶対ではないと言う事だろう。


「直せんのか?」


「おっちゃん、刀匠の所にいけば直してもらえるかな。此処からだと丸2日くらい」


「ほぉ、以外と近いんだな」


「あ、縮地で休みなしで移動したらだから、普通に行くと2~3周間ぐらいかな」


 全然近くなかった。


「つくづく縮地便利過ぎだろ。まぁいいや、直さない事にはどうにもならんし、話聞いて今後の予定ある程度立てたら、何時でも行っていいぞ」


「分かった。ねぇ、向こうの連中と手組んだ事って、怒ってたりする?」


「いや、別に。あんなんよくある話だし、俺としても命拾いしたしなぁ」


 実際、あの連中が相手取っていた奴らが、ディード側の戦闘に介入していた場合、恐らく虚を突かれ死んでいただろう。

 ディードだけではない。リザ之助も、スラやギャスやケイも。


「よく話つけたって感謝はすれど、怒るのは有り得ないな。気になってたのか?」


「少しだけ。昔だったら怒ってたかもなって思って」


「あー、怒ってたかもなぁ。あの時色々余裕無かったし、見えてもなかったしな」


「全くね」


「おい。そこは否定しとけ」


 2人は軽く笑うと、ケイが「あっ」と声を漏らす。

 彼女の視線の先に、目線を向けると1人のハーフウルフの少年が立っていた。


「どうも、初めまして。サドダリ構成員のガストと申します」


 彼は1礼し、顔を上げるとケイを見てこう言い放つ。


「モニカ様ではありませんか。此方に逃げて来ていたとは耳に入っておりましたが、よくご無事で」


「ちょいまち、ガストつったか。話が見えん。順序を追って説明してくれ」


「申し訳ございません。では、脳内空っぽのジュリアに変わりまして、わたくしめがご説明させて頂きます。まず我々サドダリから。簡単に申しますと、裏で暗躍する魔族中心の密偵の集団でございます。と申しますと、非常に黒い組織と思われる方が多いですが、設立には初代の勇者であるダーリ様が関与し、天使の庇護下でもあります故、どちらかと言えば白い組織です」


 胡散臭い。というのが此処まで聞いた概要でディードの感想であった。

 魔族というのは一重に亜人種の俗称である。たとえばディードも魔族であり、このハーフウルフの青年も魔族である。


「具体的には、情報を集め、一部を除いた堕天使並びに戦争に差し向けようとする者の排除。が主な活動になります」


「密偵、って割には暗殺まがいな事もするのな」


「はい。良いように扱われておりますから。勿論、要人の護衛や保護も行っております。ただ、人員並びに戦力が不足気味でして、現状は情報収集以外は満足に行えていない。というのが現状です」


 と言われ、目的が少しだけ見えてきた気がした。


「次にモニカ様の事ですが・・・・・・」


 ガストがケイ、もといモニカに目線を送ると「話してない」と返し、咳払いをすると説明を始める。

 彼女の本名はモニカ・ベック。マーレントの統治機関に席を置く上流貴族の1人娘だそうだ。古典的な箱入り娘で、屋敷が襲撃に合うまでは幸せに暮らしていたそうだ。偽名は恐らく、外ではこう名乗るように教えられていたとの事。


 そして、その屋敷の襲撃ではサドダリの密偵で執事として入り込んでいた者とモニカを残し全滅。離れたこの村に逃げ込み、助けを求めるも保護前に向かった者諸共、暴走したミリーの手により皆殺しにあいモニカだけが生き残りディードが発見したという流れであった。


「そのため、救援が遅れ、申し訳ありません」


 そう言いながらガストはモニカに頭を下げる。


「じゃぁ、私達に此処に向かうように言ったのは?」


「そのことでしたら」


 頭をあげこう続ける。


「一度、この近くにある基地の反乱軍に保護してもらい、我々と連携し貴方方を匿いながら今後の方針を決めようと思っておりましたが、それもご破産ですね」


 言い終わると、苦笑いを浮かべた。


「俺を担ぎあげて、魔物軍乗っ取る。とか考えなかったのか?」


「我々としては確かに魔物軍を、管理下ないし連携が取れる状態まで親密な関係が取れる状態に持っていけるならば吝かではない手です。ですが、あくまで天使のご意向並びにダーリ様の意思を継いでいる以上無理強いはしない方針となっております。"あくまで"方針ですのであしからず」


 あくまで方針。つまり、基本的には無理強いはしないが、場合によっては無理強いをしても動かす事はある。最悪処理、殺す。と言う事だろう。

 例えば、ディードが敵対していると思われる堕天使軍につけばそれは処理対象だ。


「この基地を選んだのは1口反乱軍、と言っても半分独立した基地だからです。司令派と将軍派に分かれておりまして、説明すると長くなりますので。要は反乱軍も1枚岩出はないということです。ソチラにも反乱軍の方が向かったと思われますが」


「ああ、来たな」


「その方々はサドダリ並びに、将軍派"ではない"司令派の手の者です。どう扱うかはお任せ致しますが、何か知っていそうな御仁はあまり信用成されぬ方が懸命かと思われます」


 ガストの言うなにか知っていそうな御仁。に合致する奴は1体しかいない。ギャスだ。


「さて、完結な説明が終わった所で、此方からの提案です」


──来た。


「先ほど、戦力が不足している。とお話いたしましたが、単刀直入に申し上げましょう。我々と協力関係を敷いてほしいのです」


「具体的には?」


「そうですね。此方が仕事を依頼致しますので遂行して欲しい。簡単にいうと限定的な傭兵業みたいなものですね。勿論報酬も支払います。が、直ぐに決めてください。とも申し上げれませんので、考える時間が欲しいかと思います。そこでさらなる提案を提示したいと思っておりますが宜しいでしょうか?」


「言ってみろ」


 と、完結に返事をしつつ、スラが居てくれたら色々と助かったのだが。と、ガストのペースになりつつある現状を感じたディードは思っていた。


「ありがとうございます。ディード様達には、一度天界に向かっていただこうかと考えております。天界への転送の祠の起動が1週間に1度。本日が転送日でしたので、ちょうど1週間後のいえ6日後ですね。その転送で向かって貰いたく思っております」


 確かに天界までは魔物軍の追っ手は来ないだろう。だが、問題が幾つかある。


「祠って魔物領にあるの使えってのか?」


 天界と下界と呼ばれる、ディード達が住んでいる大陸を結ぶ祠は人間領と魔物領に1つずつ存在していた。


 そして、人間領の祠はカレアントに存在し此処からでは、到底1週間では間に合わない。変わって魔物領はマーレント側に存在し、此処からだと3日から4日もあれば到着できる。だが、魔物領と言う事は当然、魔物軍が動くにあたって障害が少なく動きやすい場所であり、大部隊を動かしてくる可能性すらあり得る。


「はい。勿論、此方から人員を出し援護も致します。到着すれば、一時的に何処よりも安全な場所にお連れする事ができます。何よりガブリエル様がディード様にお会いしたいと申しておりまして」


「・・・・・・それが主な理由だろ」


「はは、お恥ずかしい。ですが、悪い話ではないとも考えております」


──こういう時、スラならなんて返すんだろうな。


「分かった。だが条件がある。スラ・・・・・・俺の家族をちゃんと保護出来たらその話飲んでやる。後幾つか細かい話もあるが後で良い」


「ありがとうございます。では後ほど」


 そういうと、ガストは森の中に消えていく。

 終始彼のペースだった。つくづくあぁ言うのには向いていない。と思いながら背伸びをする。


「じゃぁ、兄さん。私は祠を目指せばいいんだね」


「そうなるな。人間領の祠に向かうか?」


「そっちに向かうよ。心配だし。後、ケ、じゃないモ、モツ・・・・・・」


「モニカ」


 とモニカは呟くように自分の名前を口にする。


「そう、モニカの事どうするの?」


「あ、完全に忘れてた」

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